第29話 駄菓子屋のニュータイプって?プータリン教育実習生たちと、ツゲ先生の分校。
何らかの不都合でも、あったのか?
「別教室の教え、だと?」
「そうさ、ヒビキ君?僕は、以前にね、ある別教室の教える独自の駄菓子屋論、特に、駄菓子屋経済論というものをかじっていたことがあったのさ」
「?」
「駄菓子は、常に、人気のある物とそうでない物とに別れて、えり好みをされ続けたものだ。子だもだからこそできる、拡散粒子砲。子どもというものは、案外残酷なものなのさ」
子どもは、駄菓子屋の神にとって、面倒な存在だったろう。
欲しい物とそうでない物を、すぱっと切り取ることが、得意技だったからだ。
「ねえ、ばばあ!」
「ばばあじゃないだろ、小学生め!」
「じゃあ、何?」
「お姉さまとでも、呼ぶんだね」
「何でだよう」
「…文句言ってると、あの方を呼ぶよ?」
「あの方?」
「…ふん。小学生なんぞには、わかるまい。これでも、買いな」
「嫌だよ。そんなのは、欲しくない。こっちを、買うよ」
「ほう。あんた、目が肥えたじゃあ、ないか」
「…?」
「良いだろう、取引だ」
「まあ、良いや。ねえ、アレ、ある?」
「アレ、かい?」
「今、まわりで、人気なんだよ」
だが神は、集団的選択権が行使されたそんな言い方を、許しはしなかった。
「アレって、何だい?まわりが人気だからっていう理由で、買わなくっちゃならないのかい?あたしには、わからないよ」
「いいから、アレだよ。アレ!」
「アレ、かい?」
「あるの、ないの?」
「だから、わからないだろうが!曖昧な言い方をしているんじゃあ、ないよ!」
「はあ?」
「アレとかソレとかじゃあ、わからないだろうって、言っているんだよ!」
「…まただ。うるせえなあ」
「何だと、小学生!聞こえているんだよ!まったく、どういう教育で、育てられているんだろうねえ?親の顔が、見てみたいよ。こ神を甘く考えているんじゃ、ないのかねえ?」
「…わかったよ。悪かったよ」
「それで、何だい?あんたたち子どもに大人気だっていう、天使と悪魔のチョコレートでも欲しいって、いうのかい?」
「…何だよ。ちゃんと、通じているじゃないか」
「違うね、小学生?この駄菓子屋の中だから、アレとかソレとかっていう言い方でも、通じるんじゃぞ?駄菓子屋の中で言うんだから、駄菓子に関係することなんだろうなって、相手に、本質を想像してもらっておるだけじゃ。わがままな話、じゃな」
「…そうか。便利な世の中、なんだな」
「何だって?この、小学生め!甘ったれたことを言っているんじゃ、ないよ!これが、駄菓子屋の外でなら、ちんぷんかんぷんで、通じやしないんだからね!」
「そうなの?」
「良いか、小学生?良く、聞きな」
「…うん」
「あたしは、アレとかソレとかっていう言葉は、許さないからね。うちのじいさんのように、病院送りにしてやる」
「うわ…」
「若者言葉っていうのも、そうだ。パーソナルスペースっていう、自分たちだけの間では当たり前に通じる言葉を、他人にも押し付けて、その他人にも通じるはずだと錯覚して話しているだけにすぎない」
「…」
「アレとかソレとかだけで通じるんだったら、苦労しないって、いうんだよ!」
「…何も言わなくても通じる人っていうのも、いるよね?」
「ニュータイプか、馬鹿たれ!」
「そうだ、小学生?」
「何?」
「教育実習で、あんたがたの学校にやってくる学生たちが話す言葉も、そうだ」
「ふうん」
「あの、がんばらなくても就職できるという、謎のプータリンたちの使う言葉を、サークル内言語とかって、いうんだ」
「…サークル?」
「サークル内言語、じゃよ。プータリン以外の場では、宇宙言語だ。通じない」
「ふーん…」
「じゃが、プータリンたちは、オンリーワン。自分らの使う言葉が、社会でも通じると思い上がっておる。そのために、会社に入って孤立する。電話に、出られない。当たり前じゃ。一般の皆が通じる言葉を、話しておらんのじゃからな」
「ふーん…」
「難しいだろう?」
「…でも、さあ?」
「何だい、小学生?」
「…えっと。その、教育実習でやってくるお兄さんやお姉さんたちは、学校の先生に、なるんでしょう?」
「さあね。小学校の給食が懐かしいから先生になりたいだとか、民間会社の就職に有利になるから免許を取りにきただけっていう学生も、いるみたいだがね。子どもには、わからんだろうがね…。これが、今の、バブルっていう社会の恐ろしさじゃ。学校の先生、つまりは、公務員採用は民間就職の滑り止めだと、考えておるわけじゃ。まあ、こんな考え方も、あと30年もしたら変質するよ。良く、覚えておくんだね。民間の会社員よりも公務員になりたいって思わせる社会が、やってくるはずさ。でも、嫌だねえ」
「何が、嫌なの?」
「30年後には、あたしは、この世にいないだろうからさ」
「…」
「30年過ぎたら、何が起こされるのか?あんたがあたしの代わりに、緊張感をもって、見ておくんだよ?いいかい?能力の劣りすぎるゆるゆる世代が働き、優秀な世代が働けない時代が、くるからね。そうなれば、当然、倒産の嵐じゃ」
「…良くわかんないけれど、わかったよ」
元気すぎる神は、止まらなかった。
「良いかい、小学生?夫婦の会話だって、同じようなものなんだよ?アレとかソレの危険が、いっぱいなんじゃ」
「…夫婦?…僕のお父さんやお母さんが、危険だっていうの?」
「ああ。そうじゃ、ないのかねえ?アレとかソレ、とか…」
「わかったよ」
「本当に、わかったのかい?」
「うん」
「良し、小学生。わかれば、良いんだよ」
「…それで、アレは、あるの?」
「…!」
駄菓子屋教室では、駄菓子というクリスタルに加えて、おまけという付加価値を手に入れるためには、緊張感が必要。たとえ兄弟であったとしても、争いが起こされたそうだ。
「ねえ、ヒビキ君?本当に、懐かしいな…。あの、分校の教え」
「あの、分校?」
「ツゲ先生…」
分校として扱われたある教室では、駄菓子のおまけとして、こう書かれた色紙を送ろうと、計画されていたそうだ。
「駄菓子は、生意気であり努力をしない小学生たちに、はつらつ便りを与えるために生まれたと思うなかれ。はつらつ便りというものは、待っていればくるというものでもないのだ。駄菓子から、学べ。いずれ、争わん。笑う世代は、泣く世代に。泣く世代は、笑う世代に。当たりは、はずれに。はずれは、当たりに」
それは、将来の社会を案じた、告げゆく人からの教えだったという。
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