第25話 駄菓子屋教室には、ガーランド支部もあるし、ミシディア支部とか、たまねぎ支部とかも。

 男の子は、続けた。

 「でもね、でもね。それらに触れちゃ、ダメだ。ここは、幻想の駄菓子屋なんだから。触っちゃったら、すべてが、崩壊しちゃうんだよ」

「そうなのか?」

 「そうさ」

 「幻想の駄菓子屋、か」

 「そういうこと」

 「へえ…」

 「うん。良いね。いつもの、この感じ」

 「そうなのか?」

 「うん」

 「これが、いつもの感じなのか?」

 「そうさ。これが、いつも通りの感じさ」

 「お前は、いつも、こんなことをしていたのか?」

 「そうだよ」

 「へえ」

 「これは、大いなる仕事なんだ。いつもこの駄菓子屋で、駄菓子のおまけを考え続けているんだよ。このソサエティの会員であって、職人ということになる」

 「駄菓子のおまけを考える教室、だと?」

 「そうさ」

 「そうか、職人だったのか?」

 「ああ。多様だろう?」

 「駄菓子のおまけを、考えるんだったよな?」

 「うん」

 「どんな、おまけなんだ?」

 「たとえば、さ。ヒビキ君?」

 「何だ?」

 「ここに、ひも付きキャンデーがあるの、わかるよね?」

 男の子の横に、ひも付きキャンデーが、現れた。

 「良いね。今日も、良い召喚だ」

 「それにも、触っちゃ、ダメなのか?」

 「ダメ」

 「幻想か」

 「そうさ、ヒビキ君?」

 「わかったよ」

 「このひもを引くと、普通は、キャンデーが引っ張られて、そのキャンデーが買えるわけなんだけれどさ」

 「ああ」

 「場合によっては、キャンデーの他に、数字が書かれている紙が付いていて、書かれている数字ごとに、何らかのおまけがもらえることが、あったんだよね」

 「え?」

 ヒビキは、たじろいだ。

 そうは言っても、ヒビキがが子どもの頃にいっていた駄菓子屋では、キャンデー以外の別の何かが当たるわけじゃなかったような、気がしたからだ。

 ついつい、反論をしてしまった。

 「俺のいっていた駄菓子屋のおまけシステムとは、違ったはずだが…」

 「そうだったっけ、ヒビキ君?」

 「…そうだったっけ?いつもながらに、変わった言い方を、するんだな」

 「それは、失礼」

 「ああ、思い出した。俺のいっていた駄菓子屋では、おまけ賞品として、そのキャンデーをもう1つとか、もう2つもらえるおまけになっていたはずだ」

 「そうか」

 「キャンデーには、キャンデーがきたんだよな」

 「それは、そういう駄菓子屋だったのさ」

 「何?駄菓子屋によって、おまけが異なることもあるって、いうのか?」

 「もちろんさ」

 「そうだったのか」

 「勉強不足だったね。ふふふ」

 「…」

 「さっき君が言っていた、キャンデーもう1つ、っていうおまけにしようと提案したのは、…どこの支部の人、だったな。有楽町支部の人、だったかな?」

 「支部、だって?」

 「そうだよ。支部、さ」

 「おまけを考案する人の、それぞれの集まりのようなものが、あったのか?」

 「うん」

 「組織的だったんだな」

 「そうさ。ガーランド支部もあるし、ミシディア支部とか、たまねぎ支部とかも。たくさんの支部が、あったんだよね」

 「そうだったのか。はじめて、知ったよ」

 「はじめて、知ったのかい?」

 「ああ」

 「そうか」

 「何でも、知ってみるものだな」

 「そうさ」

 「面白いことを、考えていたんだな」

 「そうさ。ふふふ」

 「ほう…」

 「なんでも考え、なんでも知って、なんでもかんでもやってみようじゃないか!」

 「…そうしてみるか」

 男の子は、面白いことを言っていた。

 「ここで、駄菓子のおまけを考案していこうよ。面白いじゃないか。これを考えることによって、社会が変わるかもよ?」

 なぜ、それで社会が変わるというのか、笑ってしまいそうだった。

 が、男の子は、笑うことのない真剣さだった。

 「社会は、確実に、変わるね」

 「そうかあ?」

 「変わる、変わる!これって、すごい仕事だと思わないかなあ?やっぱり、これを考えることによって、社会が変わるかも知れないんだよ?」

 「本当か?」

 「本当さ。統計的にも、正しいんだ。占星術的にも正しいことが、ヒロシ君らの外部委員会によっても、確認された」

 「ヒロシ君?」

 「ちょっと不良の、リーゼントヒロシ君。不良なので、外部委員会に、押し込められたんだよ。ははは」

 「へえ」

 「でも、そのヒロシ君は、良い奴だ。根が、良いんだよ。特にお母さんの前では従順だった。駄菓子屋愛に、溢れていたんだろうな。ヒロシ君にお母さんを連れてくれば、すべてが、順調。駄菓子屋に親を連れてくるのも、ときには、必要だったのかもね。誰かと常に一緒の今どき世代の子には、ウケが、良いだろうね。ふふふ」

 「ああ、そう」

 まだ、納得がいかなかった。

 「話を、戻すぞ?」

 「戻すのかよ?」

 「どうして、社会が変わるんだ?」

 まだ、わからなかった。

 「だって、そうじゃないか。ヒビキ君?まだ、疑っているのかい?」

 「そりゃあ、まあ…」

 「苦労をさせられた世代に、バラ色の世代を含めて、社会を動かせる人たち全体のことを、考えてみてくれよ。多くの人が、子どもの頃に、駄菓子屋を利用してきたんじゃないのかな?…何となく、だけれどさ。そこが、注目ポイントだ」

 「そうか…?」

 「そうじゃないのかな、ヒビキ君?社会を変えたいのなら、駄菓子屋で戦えたほどの力あるその大人たちを、良い方向に変えてあげれば良いんじゃないのか?と、議会で話しあえた歴史がある」

 「?」

 「駄菓子屋を、上手く調整してやるんだ。そうすれば、子どものころに駄菓子屋で親しめた大人の心が、洗われるだろう?社会の権力者といえる大人が、駄菓子愛を取り戻す。その愛が出れば、社会をより良い方向に、向かわせられるって、寸法さ」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る