尊い願い

「……助けられるのか? ボクが死ねば、おばあちゃんは生き続けることができるのか?」


 過呼吸を起こしていたはずなのに、ボクはその問いをスラスラと投げかけていた。


「貴様の祖母か……その者の救いを願うのであれば救ってやろう」

「そ、そんなことができるのか? 病気や怪我じゃないんだぞ。寿命で息絶えようとしている人間を助けるなんてことが可能なのか?」

「真に寿命を使い尽くして死ぬ人間は少数だ。大抵の者は寿命が尽きる前に死ぬ。弱った体が、薄弱とした意思を保てずに死ぬのだ。故に、その意思を繋ぎ止めれば寿命の果てまでは生き永らえる。貴様がその一生を費やす程の覚悟を以って祖母に尽くせば、あるいは可能であると判断しよう」


 助けることができる。

 尽き果てようとしているボクの命で、人を助けることができる。

 無意味で無価値だったこの生が、最後に誰かの役に立てるのかもしれない。


 ただ死に怯えるだけだった心が、小さな火を灯した気がした。


 ここでただ殺されるよりも、無意味な願いを叶えてもらうよりも、それはきっと尊い死だ。

 だって、人が救われる。

 ボクは殺されるのではなく、誰かのために命を落とすのだと、納得ができる。


 祖母は死に瀕しているのにも関わらず微笑んでいた。

 きっと幸せで、有意義で、充実した人生を送ってきたんだ。

 ボクと違って、生き抜いてきたんだ。


 生まれて、成長して、大人になって子を作って。

 そしてその育て上げた子供がボクを産んだ。

 その人生の一割も知らないボクでも、それは簡単なことではなかったと想像できる。


 だから、これは当たり前の事実。

 何も成せず、この先も成さないであろうボクよりも。

 祖母が少しでも長く生きている事の方が良い。


 義務じゃなく、義理もなく。

 責任でもなければ強制でもない。

 ただ良いと思ったことをするだけ。


 ボクは自らの意思で、祖母のために死ぬ。

 そう考えただけで、先程までの恐怖がなくなるのがとても不思議だ。

 これが、命を懸けてでも成し遂げたい何かを叶えた人間の気持ちなのだろうか。

 ボクは今それを体験しているのだろうか。


 頭が軽い。

 骨も脳みそも、中身が全て消えたみたいに頭が軽い。

 体も軽い。

 内臓が浮いているかのように体も軽くて、寒気を感じていたのが嘘のように温度を感じない。


 命を張るだけで、ただ殺されるだけで人を救えるというのは、とても中毒的だ。

 生きる意味も見出せないボクでも人を、それも家族を救えるだなんて。

 それはとても幸福で、出木杉なくらいの人生の終端。


「……願いは決まったか?」

「ボクを殺すのなら……その代わりに――」


 ――祖母を救って欲しい。


 しかしボクの言葉は最後まで紡がれることはなく。

 尊い願いは、少女の声によって遮られた。

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