願った先に居る者は

「なっ……なっ……!」


 突然の事態に頭がついてこない。

 何を言えばいいのかもわからず、舌が上手く動かない。

 ただ足だけが、本能で後退りを始めている。


「これまでも抵抗を示す人間はいた。だが、ここまでの無様を晒すのは貴様が初めてだ」

「な、なに言って……だって……期限は……」

「下手に猶予を与えるというのも考えものだな。今後の教訓とすることにしよう」


 死ねない理由を問いもしない。

 遺言を待つこともない。

 もう、いつボクの首が落ちてもおかしくはない。

 瞬きをしたその瞬間には、血を吹き出す自分の胴体を見ているのかもしれない。


 興奮が冷め、熱が冷め、どっと汗が吹き出す。

 寒くて、冷たくて、怖くて。


 まだ、ボクは死にたくない。


「やっ、約束……! 三日後って約束したじゃないか!!」

「確かに猶予は与えた。遺言を、死ねない理由を探させるための期間をくれてやった。潔く、死への覚悟を固めさせるために与えたものだったが、貴様には意味をなさなかったようだ。明日まで待とうと、貴様はその死に様を醜く汚すだけだ。したがって、ここで殺してやる」


 死ね神の言い分はふざけている。

 死ぬ覚悟を固めるためだなんて、そんなの死ぬ理由探しだ。


 しかしルールを作ったのは死ね神で、力を持っているのも死ね神だ。

 弱者であるボクが何を言おうと、死ね神の決定を覆すことはできない。


 必要なのは時間だ。

 何でもいい。

 時間を稼がなければならない。

 一秒も、コンマの時間さえ惜しい。

 早くしないと、本当にボクは死んでしまう。


「っ、ね、願いは? 願いを叶えてくれるんだろ? ぼ、ボクはまだ願いを口にしないのに、なのに殺すっていうのか?」

「死後の願い……良かろう。貴様には意味がなく、気休めにもならぬだろうがな」

「い、意味がないなんてことはないだろ。て、転生とかなら、内容によってはこのまま生きているよりもずっと有意義なはずだし……」

「……転生か。貴様の友人と同じ願いを抱くのならば叶えよう」


 転生。

 抄が美少女に生まれ変わったように、死ね神はこちらの要望を叶えた上で転生させる。


 ただしこの時代への転生は許さないと、死ね神は大学で言っていた。

 それでも、例えば百年後の日本ならばまだマシだ。

 例え容姿がこのままで、特殊な能力なんてなくても。

 赤子の頃からこの記憶を引き継げるのならば、それは人生において大きなアドバンテージとなる。


 ……記憶。

 突然、その言葉が引っかかった。


「……っ」


 気付いてはいけないと本能が警告している。


 思い起こされる記憶は、ボクが忘れようとしていたことで。

 それに触れてはならないとわかっているのに。

 ボクの口は掠れて震えた声を吐き出していた。


「……も、もしかしてだけど、転生って、ショウにしたのと――」

「無論、同じだ」


 死ね神は抄を殺した。

 その遺灰から少女を作り出し、成長させた。

 そして、死ね神はその少女に、高伊勢抄の記憶を植えつけた。


 同じだ。

 あの日のことを思い返して、ボクが思うことは、あの日と何も変わらない。


「それは……それは、ボクじゃない……。お前の言う転生で新しく生まれるのはボクじゃない……! ボクの記憶を持っただけの別人だ! そんなの、意味がないじゃないか……!」


 それはずっと目を背けていたこと。

 死ね神の転生によって生まれるのは、伊那西拓ではあってもボクではない。


 転生したボクがボクじゃないなら。

 それなら今の抄は――

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