命の熱
「……ボクのような人間を殺すって言ったのか、お前。ようなってことは、ボク以外の人間も対象になるのか?」
「然り。今の私はお前を殺す者であるが、その役割を終えればまた別の者を探し、そして殺す」
探すということは、死ね神の殺害対象には何かしらの基準があって、ボクはそれに引っかかったということだろうか。
そうであるならば、その基準が唯一の希望だ。
基準が判明し、なおかつボクがその基準から逃れることができれば。
死ね神のボクを殺すという目的もなくなるのかもしれない
「……探すって、どんな人間を探すんだよ。ボクはどうしてお前に狙われることになったんだ。お前の言うボクみたいな人間って、それはどんな人間を指しているんだ?」
「答える必要はない」
死ね神はまた必要はないモードに戻ってしまった。
素直に教えてくれるようなお人好しではないことはもうわかっている。
しかしこの期に及んでそんな返答を認められない。
この解答がボクの一縷の望みだ。
殺されないために、この場で引き下がるわけにはいかない。
この質問が空振りすれば希望はない。
それを体も理解したのか、カッと頭が熱くなってきた。
脳が浮いたような錯覚と、視界が狭まる感覚。
きっと、ここが正念場だ。
「さっきまでは色々教えてくれたじゃないか。今更勿体振ることないだろ」
「私は答えるべき問いに答えるだけだ」
「ふざけるなよ! ボクを殺す理由が答えるべき質問じゃないわけがないだろ! 何も知らないまま殺されろって言うのか? それともお前も知らないだけなのか? 意味もなく、意図もなく、無意味にボクを殺そうって言うのか? そんなの、認められるわけないだろ!」
「ならば死ねない理由を答えよ」
「っ……順番が逆だ。お前が、先にボクを殺す理由を答えなきゃいけないんだ。答えろよ! どうしてボクを殺そうとするんだ!」
「叫くな。どれほどゴネようと変わらぬ」
「変わらないんじゃない! 変えないだけだ! お前が! 頑なに答えないだけだ! そうだろ?」
「答える必要は――」
「やめろ!」
ボクは死ね神の外套に手をかけていた。
初めての物理的な抵抗。
自分すらも驚いてしまうような行動だったが、もうここまで来たら退くことはできない。
ボクは、死ね神の外套を両手でしっかりと握り締めた。
強く、拳が震えてしまうくらいに、目一杯に。
「……っ、どうしてお前にそれがわかる。答える必要がないって、どうしてお前が判断できるんだよ! なあ、お前は何を知ってるんだよ、死ね神!」
「答えるまでもない。お前もわかっているだろう」
「わかるわけないだろ……! お前は意図的に隠してるんだ! 都合が悪いから、それを知られるとボクを殺せなくなるから……! だから、お前はボクを殺す理由を話せない! そうなんだろ!」
「……」
ついに、死ね神が黙った。
押し切れたのだろうか。
恐怖をなんとか押し込めて、感情を爆発させて。
必死な思いが成就したのだろうか。
足がガクガクと震えている。
舌もピリピリと痙攣している。
目からは今にも涙が流れそうだ。
すぐにでも手を離したい。
泣いて謝りたい。
化け物に抵抗していることが恐くて仕方がない。
瞬きをした次の瞬間には首を落とされていそうで。
それでも、ここで退けば明日には死んでしまう。
怯える自分を抑え込んで、死ね神を真っ直ぐに見つめる。
人間相手でもこんなに真剣に、必死に食い下がったことなんてない。
皮肉にも、ボクに生きていると胸を張って言えるほどの熱をもたらしたのは死ね神だ。
今この瞬間、ボクは生きている。
だからこそ、ここでこいつを越えてやる。
死んでなんてやるものか。
ボクは絶対に生き残る。
「……ボクには知る権利がある。答えろ、死ね神。ボクが死ななければならない理由を。そして、それを覆してやる。お前に殺されるなんて、ボクは認めない。だから、黙ってないでさっさと答えろよ!」
「……」
「……」
長い沈黙。
風が吹いて。
夕日がその姿を隠して。
かたり、と骨が鳴った。
「無駄だったか」
「えっ……?」
それは気のせいだったのかもしれない。
死ね神が長い沈黙の果てに吐き出した言葉。
その言葉に、憐憫を感じただなんて。
「やはり、ここで殺すか」
死ね神の手には大鎌が握られていた。
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