第五回 星に願いを

① 八坂神社・境内(朝)

   八月。良い天気。本殿前の舞殿に葉竹

   (笹)が取りつけられている。涼し気

   に風に揺れる吹き流しとまだ少ない短

   冊。

   SE、風鈴の音。蝉の声(シーン㊳迄。

   室内のシーンは抑え気味、または無し)。


② 同・南楼門前(朝)

   ──やや仰角で。

   南楼門の中に見えている舞殿をT.B

   する。と、南楼門の柱に行事看板、

   『八月七日 午前十時 七夕祭』。


③ 同・表参道(朝)

   ──遠景で。

   石鳥居の中に南楼門。ちらほら訪れて

   来る浴衣姿の観光客。客待ちの人力車。


④ 石塀小路・入口(朝)

   ──仰角で。

   西洋風の街灯。ガラス面に『石塀小路』。


⑤ 同・中(朝)

   石畳が続く、閑静な歴史的景観。店先

   を掃除している女将。観光客はいない。


⑥ カイラーサ・表(朝)

   京町屋。入口(引き戸)の横に、縦書

   きの木製看板。『KAILASH』。引き戸

   に下げ札『本日は終了しました』。そ

   れを外すあき(獣の手)。再びかけら

   れる下げ札『営業中』。

シーターの声「(だるそうに)おはよ~」

   大きな狼姿の陽生。エプロン姿(この

   回、最後まで狼姿)。その横にシータ

   ー。夏らしいワンピース姿、欠伸をし

   て涙目。

あき「(野太い声でシーターに)おはよう」

──────────────────────

⑦ 同・台所(土間・朝)

   調理台の上にコーヒーメーカー。コー

   ヒーができている。陽生、コーヒーサ

   ーバーを引き出して、

陽生「夜更かしか?」

シーターの声「違うわよ~。暑くて眠れない

 の~」


⑧ 同・店内(朝)

   暖簾を上げて出て来る陽生。手にマグ

   カップ。湯気が出ている。

陽生「じゃあ、アイスの方がよかったか?」

   カウンターの中にシーター。手を出し

   て、

シーター「ううん。ホットでいいわ。ありが

 と」


⑨ 同・表(朝)

   ──やや仰角で。

   入口に朝顔の鉢。水やりの滴がキラキ

   ラ光っている。軒に揺れている風鈴。

シーター「(OFF)クーラー入れっぱなしだ

 と冷えちゃって。タイマーにしとくんだけ

 ど、クーラー止まると起きちゃうのよ~」


⑩ 同・店内(朝)

   カウンターの中のシーター。座ってい

   る。渋い顔で、

シーター「そしたらまた、クーラー入れるじ

 ゃない? で、そのまんま、朝まで。起き

 たら、もう冷え冷えでダルダルよ」

   と、コーヒーを飲む。

   カウンターに背を預けて、両肘をつい

   ている陽生。苦笑して、

陽生「成程な」


⑪ 八坂神社・境内(朝)

シーター「(OFF)まァ、今日は立秋だから」

   舞殿前。浴衣姿の観光客達、楽しそう

   に笹に短冊をつけている。

──────────────────────

シーター「(OFF)これで朝晩、少しは涼し

 くなるわね~」

   涼しそうに風に揺れている笹の葉、吹

   き流し、願い事の書かれた短冊。


⑫ カイラーサ・表(朝)

   ──やや仰角で。

   入口(引き戸)がカラカラと開く。

陽生の声「じゃあ、店番頼む」

シーターの声「出掛けるの?」

陽生の声「カッシアとワームウッドが無くな

 りそうだ」

   と、出て来る陽生(足)。


⑬ 青柳家・表(朝)

陽生「(OFF)青柳さんの所へ行って来る」

   ──やや仰角で。

   開いている門の中に、二階建ての西洋

   建築。門柱に和風の表札『青柳』。


⑭ 同・庭A(朝)

   夏の花(ハーブ)で彩られている美し

   い庭A。

シュナイダーの声「解った。用意しよう」

   木蔭に陽生とシュナイダー。

陽生「まだ在庫があるから急がない。お盆の

 後でも構わん」

シュナイダー「そうか」

   二人の後方、邸宅のテラス窓に雅美。

   可愛いエプロン姿。

雅美「あ! あきねえ!」


⑮ 同・一階廊下(朝)

   ──やや遠景(玄関からの真っ直ぐな

   視点)で。

   テラス窓から入って来る陽生。

雅美「(楽しそうに陽生に)昨日な、明日香

 達とアイスキャンデー作ったんよ」

   と、庭Aを背にして、陽生と並んで歩

   き出す。

──────────────────────

⑯ 同・表(朝)

   ──やや俯瞰で。

雅美の声「後で持ってってあげるねーッ!」

   玄関から出て来る陽生(後ろ姿)。後

   ろに向かって、

陽生「サンキュー」


⑰ 石塀小路・中(朝)

   石畳が続く、閑静な歴史的景観。行き

   交う観光客。浴衣姿多し。歩いて来る

   陽生。


⑱ カイラーサ・表(朝)

   看板の前に陽生。その手前、店から出

   て来る女性客A・B(大学生)。浴衣

   姿。

女性客A「(嬉しそうに中に向かって)あり

 がとうございましたーッ!」

シーターの声「またどうぞー」

   楽しそうに歩いて来る女性客A・Bが

   Fr.OUTする。と、振り返って見送っ

   ている陽生。

   後ろを見ている陽生。前を向く。と、

   少し微笑んでいる。そのまま入口を向

   いて、


㉒ 同・店内(朝)

   入口に、中を見ている陽生。それをさ

   っとT.Bする。と、賑わっている店内。

   大学生らしい浴衣姿の女同士、カップ

   ル多し。一番手前にりく。首掛けの胸当

   てエプロン姿。カウンター内で会計を

   している。

陽生「(少し引いて)お……っと」

   占い部屋の前にシーター。カーテンを

   めくっている。

シーター「(陽生に)あ! おかえり!」

   シーター、占い部屋から顔を出し乍ら、

シーター「今、占い並んでるのよ~。店、お

 願いね」

──────────────────────

   と、さっとカーテンの中に顔を引っ込

   める。

陽生「あ、あぁ……」

男性客Aの声「あの、店員さんですか?」

   気づく陽生。

   振り向いている陽生(後ろ姿)の前に、

   男性客A(30代)。私服。目元、影に

   なって見えない。不気味な雰囲気。

男性客A「(神妙に)こちら、おまじないを

 やってるって聞いたンですけど」

   陽生の至近距離に男性客A。不気味に

   微笑んで、

男性客A「(小声で)魔術」

陽生「(警戒して)……どんな願い事ですか

 ?」

男性客A「競馬で大穴が当たりますように」

陽生「はァ?」

男性客A「それから、宝くじが当たって」

   「ぐっ」と眉間を寄せる陽生。

男性客A「手持ちの株価が上がって」

   更に「ぐっ」と眉根を寄せる陽生。

男性客A「女に不自由しないよーに」

   陽生、カチンとする。と、


㉓ 同・表(朝)

   男性客A、入口からくの字にえびぞっ

   て飛び出し乍ら、陽生とSE、同時に、

男性客A「(思い出して)あ、水虫が治って」

陽生の声「さっさと皮膚科に行けーッ!」

   SE、『どげしッ』と思いっきり蹴りつ

   ける音。

   外に明日香と千歳、雪絵。明日香、手

   に保冷バッグ。三人、飛び出した男性

   客Aに驚いて、

明日香「きゃあッ!」

千歳「!」

雪絵「(千歳にしがみついて)ひッ!」


㉔ 同・台所(土間)

   (雪絵に)捲られている暖簾の先に見

──────────────────────

   えている店内。会計をしている陸。さ

   っと暖簾が下がる。と、暖簾の前に振

   り返っている雪絵。

雪絵「(目を丸くして)繁盛してるのね~」

   土間に陽生、明日香、千歳と雪絵。

陽生「久しぶりだな、雪絵」

   雪絵、えへへと笑う。

明日香「(保冷バッグを差し出して)あ! 

 これ、差し入れ! 昨日作ったんです!」

千歳「意外と上手くできました」

   陽生、尻尾を振り乍ら両手を出して、

陽生「(嬉しそうに)おー、サンキュー」


㉕ 藤之宮神社・表参道

   ──仰角で。

   二の鳥居。神額『藤之宮』。

陽生「(OFF)ん? 雅美はどうした?」


㉖ 同・台所

   神職姿の慶之やすゆき、手にオレンジのアイス

   キャンデー。美味しそうに頬張って、

慶之やすゆき「うンまいのォッ!」

   板間の中央に大きなテーブル。椅子に

   座って、美味しそうにアイスキャンデ

   ーを食べている慶之。手前の土間に雅

   美。板間に腰をかけている。シンクの

   前にエプロン姿のうしお。微笑んで、

うしお 「(雅美に)いつもありがとうね」

雅美「(嬉しそうに慶之に)ソレ」


㉗ 青柳家・台所(回想)

雅美「(OFF)うちが絞ったンよ!」

   西洋風の台所。テーブルを囲んでいる

   スセリ、雅美、明日香と千歳。皆、エ

   プロン姿。ハンディジューサーでオレ

   ンジを絞っている明日香、包丁でオレ

   ンジを剥いている千歳。その傍に剥い

   たオレンジの入ったジューサー。レモ

   ン絞り器でオレンジを絞っている雅美

   の横にスセリ。スセリ、片手に半分に

──────────────────────

   切ったオレンジ。涼しい顔をして、ボ

   ウルの上でぐっと握って果汁を出して

   いる。雅美達、スセリに驚いて、

雅美「(青褪めて)!」

明日香「!?」

千歳「!」


㉘ 藤之宮神社・台所

   潮、雅美の傍に座り乍ら、

潮 「雅美ちゃん、仁之さねゆきから短冊貰った?」

雅美「(潮に)あ、まだ」


㉙ 同・拝殿の前

潮の声「雅美ちゃんも、願い事、書いていっ

 てね」

   ──やや仰角で。

   拝殿の前に葉竹。風に揺れる笹の葉、

   吹き流し、願い事の書かれた短冊。


㉚ カイラーサ・台所(土間)

   向かい合っている陽生と明日香、千歳、

   雪絵。陽生、手に保冷バッグ。

陽生「そうか」

明日香「あ、それと今日来たのは……」


㉛ 同・表

   ──やや仰角で。

   軒に揺れている風鈴。

陽生の声「やくゥ?」


㉜ 同・店内

   カウンターに陸。会計をしている。

陽生の声「何を企んでんだ? 陸にゃやく

 効かんぞー」

明日香の声「(慌てて)ち、ち」


㉝ 同・台所(土間)

   赤面している明日香、両手を大きく振

   って、

明日香「(慌てて)違いますッ!」

──────────────────────

   千歳、わざとらしく視線を逸らしてい

   る雪絵を指して、

千歳「こっちこっち」

   気づく陽生(後ろ姿)。

陽生「(雪絵に)香水みたいなのでいいか?」

雪絵「(喜んで)あ! できるんですか?」

   陽生、暖簾を捲り乍ら、

陽生「(明日香達に)あとで話を聞こう。ゆ

 っくりしてってくれ」

雪絵「(嬉しそうに)ありがとうございま~

 す」

   冷凍庫にアイスキャンデーを入れてい

   る千歳(後ろ姿)。その手前に振り返

   っている明日香。気づく。と、

   ──真横からの視点で。

   暖簾の前に明日香と雪絵。雪絵、暖簾

   を少し開けて店を覗いている。

明日香「何?」

雪絵「う~ん」


㉞ 同・店内

   賑わっている店内の様子。以下、商品

   棚をPUNしていく。陳列している護符

   (五芒星・六芒星)、キラキラと輝い

   ているアミュレット、指輪、耳飾り、

   ヘッド・ジュエリー、天然石の原石、

   磨き小石、半貴石。

雪絵の声「珍しいな~……と思って」

明日香の声「雪絵ちゃん、お店に来たの、初

 めてだっけ?」

雪絵の声「うん」


㉟ 同・台所(土間)

   ──真横からの視点で。

   暖簾の隙間から店を覗いている雪絵、

   明日香、千歳。

   千歳、眼鏡を押し上げ乍ら、

千歳「まァ、ハーブやすり鉢なんかは、生◯

 の◯で買えるものが」

   セリフの◯印に自主規制音。

──────────────────────

㊱ 同・店内

千歳の声「あるけど、他に無い物の方が多い

 わよね」

   賑わっている店内の様子。以下、千歳

   のセリフに合わせて店内をPUNしてい

   く。壁に飾られている長剣スウォード短剣アサメイ。商

   品棚にチャリスボウル、蝋燭立て、火消し、香

   炉、アルター・ベル、様々な形のラン

   タン。傘立ての中に何本ものワンド(長さ

   30~40cm)。と、雪絵のセリフに合

   わせて、さっとP.D。商品棚の一番下、

   ずらっと並ぶ大釜コールドロン

雪絵の声「魔女の大釜なんて、初めて見た~

 (と笑う)」

   女性客C、Fr.inして、

女性客C「(カウンターに向かって)すみま

 せーん」

   カウンターの中に陽生、

陽生「はぁーい」

   と、思いっきり振り返る。と、その勢

   いで大きな尻尾が『ばふんっ!!』と陸

   の顔を打つ。と同時に、その勢いでぐ

   りんと横を向く陸。

りく 「ぶっ!」

   暖簾から覗いていた雪絵、明日香、千

   歳、驚いて、

雪絵「!」

明日香「(青褪めて)!?」

千歳「(眼鏡を押し上げたまま)!」

   打たれた頬のみ赤く、他は真っ白にな

   って固まっている陸。泣いている。つ

   けているエプロンの肩紐(片側のみ)

   が、ずりっ……とずり落ちる。

女性客Cの声「これいくら?」

   カウンターの中に陽生。

女性客D「(陽生に)プレゼント用に包んで

 貰えますか―?」

陽生「えー?」

   と、さっと振り返る。と、再び大きな

   尻尾が『びたん!』と勢いよく陸を打

──────────────────────

   つ。その勢いで、カウンターから吹っ

   飛ぶ陸。

女性客E「あの~占いの受付はどこですか?」

   陽生、女性客Fとシーターの出て来た

   カーテンを指して、

陽生「(女性客Eに)あ、そのカーテンの中

 でお待ちください」

   と、振り返った瞬間、大きな尻尾がカ

   ウンターに戻った陸を打つ。と、

陽生「(女性客Dに)リボン、水色でいいで

 すか?」

   と、女性客Dに振り向く。と、同時に、

   また大きな尻尾に吹っ飛ばされる陸。

女性客D「(笑いを堪えて)はい……」

   女性客Dの商品を包んでいる陽生。気

   づいて、

陽生「(陸に)? どうした?」

陸 「(必死に)お前の! 尻尾が! 俺を

 吹っ飛ばすンだよッ! ガッデム!」

   陽生、器用にキュッとリボンを結んで、

陽生「(しれっと陸に)そーか、そりゃ悪か

 ったな」


㊲ 同・台所(土間)

陸の声「……そんだけ?」

   暖簾の前、必死に笑いを堪えている雪

   絵、明日香、千歳。


㊳ 同・表(昼→夕)

   ──やや仰角で。

   カラカラと入口(引き戸)の開く音。

   軒に揺れている風鈴。

シーターの声「ありがとうございましたー」

   次第に夕暮れて、シーン➀からのSE、

   一旦止まる。

   SE、ヒグラシの声。夕風にゆっくりと

   鳴る風鈴の音(シーン㊶迄)。


㊴ 藤之宮神社・表参道(夕)

   ──仰角で。

──────────────────────

   二の鳥居。神額『藤之宮』。


㊵ 同・境内(夕)

   竹箒で境内を履いている神職姿の仁之さねゆき

   がFr.in。

   手を止めて、ふと見る仁之。


㊶ 同・拝殿の前(夕)

   拝殿の前に葉竹。沢山の短冊がつけら

   れている。

雅美「(OFF)神様はな、自分の願い事は叶

 えてくれへんねん」


㊷ 同・社務所の前(回想)

   ──真横からの視点で。

   社務所の前に雅美。窓の前で短冊を書

   いている。社務所の中に膝立ちの仁之。

   窓から顔を出して、

仁之さねゆき「(雅美に)なぜそう思う」

雅美「(短冊を書き乍ら)自分の願い事は、

 欲望やからや」

   (雅美を)見ている仁之。優しい笑み。

雅美の声「神様は、欲望は叶えてくれへんね

 んよ。せやから」

    ×    ×    ×

   雅美、満面の笑みで短冊を見せて、

雅美「うちがさねにいのお願い、叶えて貰うさか

 いね!」

   短冊、『仁兄にすてきなお嫁さんがき

   ますように 雅美からのお願い♡』。

   仁之、雅美(後ろ姿)の頭上でそろば

   ん(玉を下にして)をガリガリと押し

   引きする。冷めた目。

雅美「いだだだだだッ!」


㊸ 同・拝殿の前(夕→夜→朝)

   M『たなばたさま』(筝曲のソロ)

雅美「(小さくOFF)何すンねんッ!」

仁之「(小さくOFF)やかましいッ!」

   仁之の手に、雅美の短冊。『仁兄にす

──────────────────────

   てきなお嫁さんがきますように 雅美

   からのお願い♡』その後ろ、ちらりと

   見える二枚の短冊『水野さんが人間に

   戻れますように 明日香』『明日香の

   恋が叶いますように 千歳』。

   ──真横からの視点で。

   雅美の短冊を手にしている仁之の手元

   からP.Uして仁之。短冊を見ている。

   優しい笑み。

慶之の声「仁之よ」

    ×    ×    ×

   拝殿の中に慶之。仁之(後ろ姿)に向

   かって、

慶之「(にこにこして)そろそろ夕拝の時間

 じゃよ」

仁之「はい」

   と、Fr.OUTする。と、沢山の短冊がつ

   いている葉竹に願い事がよっつ書かれ

   た一枚の短冊、『競馬で大穴が当たり

   ますように』『宝くじが大当たります

   ように』(『大』を強調して大きく)

   『手持ちの株価が上がりますように』

   (ここまでで短冊いっぱいいっぱい)、

   そして一番左端に細く小さく『女に不

   自由しませんように!』。

   葉竹をゆっくりとP.U。空、M『たな

   ばたさま』の曲と共に暮れていく。と、

   夜空になって天の川。すっと一筋の流

   れ星。

   明けて翌朝。(仁之に)外される葉竹。

   仁之、片手に葉竹。反対側の手で首の

   後ろを押さえて、

仁之「(眉根を寄せて辛そうに)あ~……」


㊹ カイラーサ・表(朝)

   ──やや仰角で。

   入口に朝顔の鉢。水やりの滴がキラキ

   ラ光っている。軒に揺れている風鈴。

   SE、風鈴の音。蝉の声(シーン㊼迄)。

陸の声「首筋を痛めたぁ?」

──────────────────────

㊺ 同・店内(朝)

   カウンターの中に陸。両肘をついて、

陸 「(陽生に)そりゃまた、どーして?」

   カウンターに背を向けている陽生。両

   手で首の後ろを揉んでいる。渋い顔。

陽生「……」

   暖簾から顔を出しているシーター、

シーター「(楽しそうに陸に)昨日、お風呂

 でね~」


㊻ 藤之宮神社・表参道(朝)

   ──仰角で。

   二の鳥居。神額『藤之宮』。

信之ただゆきの声「髪を洗って」


㊼ 同・社務所の中(朝)

   窓に向かって座っている神職姿の信之ただゆき

   髪、後ろで一つに纏めている。

信之「(仁之に)首を痛めた。ですか?」

   (仁之を)見ている信之をさっとT.B

   する。と、手前に仁之(正面)。片手

   で首の後ろを揉んでいる。渋い顔。

仁之「……」


㊽ カイラーサ・表(回想・夜)

   T『さかのぼる事、前日の夜』

慶之のN「さかのぼる事、前日の夜」

   ──やや仰角で。

   消えている室内照明。止まっている軒

   の風鈴。街灯に照らされている看板

   『KAILASH』。

   SE、虫の声(シーン54迄)。


㊾ 同・裏(回想・夜)

   ぱっと点く浴室の灯り。


㊿ 同・浴室(回想・夜)

   ──陽生と仁之、同時に進行して。

   椅子に座る裸の陽生(後ろ姿)。大き

   な尻尾に、雌と思えぬ逞しい背中。

──────────────────────

51)藤之宮神社・表参道(回想・夜)

   ──仰角で。

   二の鳥居。神額『藤之宮』。


52)藤原家・表(回想・夜)

   ──仰角で。

   温かな門灯に照らされている表札『藤

   原』。簡素な生垣の中に、座敷Aの灯

   りが見えている。


53)同・一階浴室(回想・夜)

   ──真横からの視点で。

   椅子に座っている裸の仁之を後ろに向

   かってPUNしていく。と同時に、仁之、

   髪を解く。と、

    ×    ×    ×

   仁之(後ろ姿)の背にさらっと伸びる

   ストレートの髪。


54)カイラーサ・浴室(回想・夜)

   鼻歌を歌い乍ら、機嫌良く背中のブラ

   ッシングをしている陽生(後ろ姿)。

   肩から手を回して、柄の長いブラシで

   首筋に向かっていている。

   陽生、切り替えハンドルに手を伸ばす。


55)藤原家・一階浴室(回想・夜)

   切り替えハンドルを回す仁之。

   シャワーヘッドから出て来る湯。

   ばっと浴室の入口が開く。と、立って

   いる和之。眼鏡を外して、素っ裸。

和之「(仁之に気づいて)あ!」

   その手前に仁之。前屈みで頭からシャ

   ワーを浴びている。

仁之「!」

   SE、勢いよく入口がしまる音。

和之の声「わりィ。入ってンの気ィつかんかっ

 た」

   仁之、シャワーを浴びたまま、振り向

   いて(入口を)見ている。渋い顔。

──────────────────────

56)カイラーサ・浴室(回想・夜)

   湯の出ていないシャワーヘッド。

   それを見上げている陽生。片手にシャ

   ンプー。反対側の手、トントンとシャ

   ワーヘッドを指(狼の爪)でつついて

   いる。と、


57)藤原家・一階浴室(回想・夜)

   はっとする仁之。すぐに、

   ──陽生と仁之、二画面で同時に。

   陽生、勢いよく吹き出した湯を顔面に

   受け、ガクンッと首をのけ反らせる。

陽生「おうっ」

   仁之、湯に濡れた髪の重さで、ガクン

   ッと勢いよく下を向く。

仁之「うッ」


58)藤之宮神社・社務所の中(朝)

   SE、風鈴の音。蝉の声(最後まで)。

   座っている信之の正面、窓の外に雅美。

雅美「(仁之に)ほんなら、うちが神様にお

 願いしてあげる!」


59)同・拝殿の前(朝)

   ──やや仰角で。

   拝殿下手側、立派な藤の木。

雅美の声「さねにいの首が治りますようにーッ!」

   鈴、続いて柏手の音。

仁之の声「……ありがとよ」


60)カイラーサ・表(朝)

   看板『KAILASH』の前。両手で首の後

   ろを押さえて上を向いている陽生(横

   顔)、Fr.inして、

陽生「(辛そうに)あ~ッ!」

男性客Aの声「あ、もうやってますか?」

   陽生(後ろ姿)の先に、男性客A。ス

   ーツ姿。

陽生「また来たのか!」

男性客A「今日は占いをお願いします」

──────────────────────

陽生「あぁ?」

   ──真横からの視点で。

   向かい合っている陽生と男性客A。男

   性客A、占いの用件ひとつひとつに一

   本ずつ指を立てていく。その様子をP.U

   し乍ら、

男性客A「まず、大当たりする馬はどれか。

 大当たりする宝くじ売り場はどこか。株価

 の上がる時期はいつか。(陽生に)あ! 

 それと、女と出会いの多い方角はどっちか

 !」

陽生の声「とっとと仕事に行けーッ!」

   SE、『どげしッ』と思いっきり蹴りつ

   ける音。

   抜けるような青空に、すっと赤トンボ

   がFr.in。画面中央でぴたっと止まる。

   と、再びすっとFr.OUT。



         第五回『星に願いを』終


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ここはカイラーサ(ひかみ真秀 原案/佐久良燎 脚色・脚本) 佐久良 燎 @Kagari-Sakura

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