第三回 魔女の飛行薬、その後

① 東山(夜明け)

   夜明け前の稜線。明るく縁取られてい

   って、夜明け。


② 藤之宮神社・鎮守の森(早朝)

   梅雨間近。朝日に紫陽花が美しい。

   SE、スコップで地面を掘る音。

   紫陽花の奥に獣の影(あき)。うずくまって、

   スコップ(園芸用移植ごて)で木の根

   元を掘っている。


③ 藤原家・庭(朝)

   美しく咲いている紫陽花。良い天気。

仁之さねゆきの声「やっとできたか」

   開いている座敷Aのテラス窓。庭から

   腰かけているあき(この回、最後まで

   狼姿。エプロンをつけている)、手に

   『魔女の飛行薬』が入った瓶。座敷A

   にうしおと、庭に神職姿の仁之さねゆき。潮、陽生

   の真横に座り、仁之は腕組みをして立

   っている。

あき「(野太い声で)ああ」

仁之「じーちゃんには会ったか?」


④ 同・一階座敷A(朝)

陽生「いや、朝拝の後に行くと伝えてくれ」

仁之「はいよ。(と、背を向けて)行って来

 ます」

   と、Fr.OUTする。

うしお 「(仁之に)いってらっしゃい」

   潮、興味津々で乗り出して、

潮 「それが『魔女の飛行薬』?」

陽生「はい」


⑤ 同・庭(朝)

   歩いていく仁之(後ろ姿)。

潮の声「どうやって使うの?」

   シーン③同様の陽生と潮。潮、両手を

   ついた前のめりで陽生の手元を見てい

   る。興味津々の顔。

──────────────────────

陽生「塗り薬なんです、コレ」

   と、瓶の蓋を回す。

   紫陽花の葉に、ぽたっと雨のしずくが

   落ちて来る。と、ぽたぽたと降り出し

   てくる雨。さあっと降り出す。と、遠

   くに雷鳴。


⑥ 東山(夜明け)

   暗い。強く、真っ直ぐに降っている雨。

   煙っている稜線。遠くに雷鳴。と、晴

   れて来て、稜線がゆっくりと明るくな

   っていく。顔を出す朝日。


⑦ 藤原家・庭(朝)

   一階座敷Aのシャッター(雨戸)を上

   げる潮。雨は上がっている。

潮 「(庭を見て)あら!」


⑧ 同・一階座敷A(朝)

   水没している庭。朝日を受けてキラキ

   ラ輝いている。良い天気。

潮の声「あらあらあら~……」

真之なおゆきの声「どうしたの?」

   潮、振り返って、

潮「(苦笑して)昨日よく降ったから、お庭

 が池になってるわ」

真之「そうなの?」

   と、潮の傍に一匹の小さなカッパ。潮

   を見上げている。

潮 「(相当驚いて)!?」

   テラス窓に真カッパ。庭を見て、

なおカッパ「ホントだ! 凄―いッ!」

仁之さねゆきの声「何が凄いンだよ」


⑨ 同・庭(朝)

   ──カッパの視線の高さで。

   一階座敷Aのテラス窓に潮と真カッパ。

   真カッパ、庭を指して、

真カッパ「(仁之に)見てーッ! お池にな

 ってるよ」

──────────────────────

   座敷Aに仁之。真之同様にカッパ姿。

   真カッパよりもやや濃い体色で少し大

   きい。が、同じ顔。

さねカッパ「あ?」


⑩ 水中から水面を見た景色

   覗き込んでいる真カッパと仁カッパが

   見えている。その顔前をスイスイと泳

   いでいるメダカやコイの魚影。

真カッパ「ね、凄いでしょ?」


⑪ 藤原家・一階座敷A(朝)

仁カッパ「あー……」

   四つん這いで庭を覗き込んでいる真カ

   ッパ。と、その横に屈んでいる仁カッ

   パ。さっと仰角になって、その後ろに

   ドン引きの潮。青褪めてカッパ達を見

   下ろしている。

潮のM「何? 何なの、このカッパ!」

    ×    ×    ×

   潮(横顔)、はっとして、

潮のM「あ、そういう事。ここんトコ暑かっ

 たから、あたし、疲れてるのね。(苦笑し

 て)きっと涼しくなりたい願望が……」

信之ただゆきの声「(心配そうに)お母さん。どうし

 たの?」

   潮、気を取り直して、

潮 「(にっこり微笑み乍ら振り向いて)何

 でもないの。おは」

   潮(後ろ姿)の前にカッパ姿の信之。

   心配そうに、潮をじっと見上げている。

潮 「(驚いて)ようッ!」

   と、ぞろぞろ座敷Aに入って来る敦之あつゆき

   と和之かずゆき。やはりカッパ姿。カッパ達の

   精神年齢は、なおカッパ五歳。ただカッパ

   七歳。さねカッパ八歳。かずカッパ十一歳。

   あつカッパ十四歳。体の色は、長男(敦

   カッパ)から五男(真カッパ)へ順に

   薄くグラデーションになっている。同

   様に長男から五男へ背が低くなって、

──────────────────────

   体つきも小さくなる。が、五匹同じ顔。

   和カッパ、眼鏡をかけている。

敦カッパ「(テラス窓を見て)どうした?」

真カッパの声「あ、見て見てーッ!」

信カッパ「お母さん?」

   と、手を伸ばす。ビクッと後退る潮。

   手を伸ばしたまま固まっている信カッ

   パ。瞬間、うるっと、涙目になる。

潮のM「しまった! 傷つけた!?」

   潮、膝をついて、

潮 「(信カッパに)ご、ごめんなさい。び

 っくりしちゃって」

   潮の前、手を伸ばしたまま、うるうる

   した瞳で潮を見ている信カッパ。

   ゆっくり伸びて行く潮の両手。信カッ

   パの手を取る。と、

   信カッパの小さな手。水かきがついて、

   指の先に爪。意外に尖っている。

潮 「……」

   潮の膝に信カッパ。潮、信カッパの両

   手を見乍ら、

潮 「(優しく)危ないから……爪……切ろ

 うね」

信カッパ「(涙ぐんで)うん……」

潮のM「全体的にじっとりするッ!」

敦カッパ「玄関見て来る」

   と、その前を横切って行く敦カッパと

   和カッパ。

和カッパ「(信カッパに)なに泣いてンの、

 お前」

   真カッパ、潮の背中にぺったり抱きつ

   いて、

真カッパ「(覗き込んで)たーちゃん、どう

 したの?」

潮 「(苦笑して)泣かせちゃったの」

真カッパ「あー、いけないんだ」

潮 「(ひきつって苦笑して)そうね」

潮のM「前も後ろも、湿度たかッ!」

   イメージBG、画面いっぱいのTで、

   T『無駄に暑いッ!』

──────────────────────

    ×    ×    ×

   ──真横からの視点で。

   潮、ふと見る。

潮のM「そういえば、あの眼鏡……」

    ×    ×    ×

   ──フラッシュカット(潮の視点)で。

   横切って行く敦カッパ。続く和カッパ。

   和カッパ、(信カッパに)気づいて、

潮のM「眼鏡がどうやって止まってンのか解ン

 ないけど」

   「なに泣いてンの」と言っている和カッ

   パ。

   T『次男 和之かずゆき(?)』

潮のM「和之?」


⑫ 同・表(朝)

   開いている玄関戸(引き戸)。玄関ポー

   チの階段下まで浸水している。玄関ポー

   チに立っている敦カッパと屈んでいる和

   カッパ。二匹、じっと浸水を見ている。

   敦カッパに矢印が点滅して、

   T『長男 敦之あつゆき(?)』

潮のM「じゃあ、一緒に行ったのが、敦之……」


⑬ 同・一階座敷A(朝)

   ──やや俯瞰(潮の視点)で。

   四つん這いで庭(水)を覗いている仁

   カッパ。水面に手を突っ込んでいる。

   それを手前にPUNして、潮の膝の上

   でメソメソしている信カッパ。一緒に

   潮の首に回されている真カッパの腕が

   見えている。三男(仁カッパ)から五

   男(真カッパ)へ、グラデーションで

   薄くなっている体色。

潮のM「(気づいて)……色? さっき」

   真カッパの腕からさっとPUNして、膝

   の上の信カッパ。潮を見上げている。

潮のM「このカッパの事、『たーちゃん』って

 言ったわよね。という事は」

    ×    ×    ×

──────────────────────

   潮、背中に向かって、

潮 「ナオ?」

真カッパ「なに?」

   T『五男 真之なおゆき

潮のM「(気合いを入れて)当たったァッ!」

潮 「ナオにお願いがあるの」

真カッパ「(可愛く首を傾げて)なに?」

潮 「お母さんのほっぺた、つねってみてくれ

 る?」

真カッパ「え? なんで?」

潮 「いいから」

   真カッパの指、潮の頬を抓ろうとする。

   が、するんと滑って、頬を摘まむ事が

   できない。

   何度も頬を摘まもうとする真カッパ。

   その度に指が滑って、

真カッパ「(困って)あれ~? 上手にでき

 ない」

潮 「(青褪めて目を瞑ったまま)……」

   それをじっと見上げている、膝の上の

   信カッパ。その上にT、

   T『四男 信之ただゆき

   仁カッパ、潮の左手側に来て、

   T『三男 仁之さねゆき

仁カッパ「こうするンだよ」

   爪先で潮の頬を抓り上げる仁カッパの

   手。


⑭ 同・庭(朝)

   ──思いっきり仰角で。

   (潮に殴りつけられて)俯せでプカプ

   カ水に浮いている仁カッパ。頭から煙。

   その後ろ、座敷Aのテラス窓に潮。真

   っ赤になっている左頬、目元は影にな

   って見えない。左拳を振り上げて、歯

   を食いしばっている。

潮のM「夢でも幻でもなかった!」

   イメージBG、画面いっぱいのTで、

   T『半端なく痛いっちゅーねんッ! 

    その抓り方!』

──────────────────────

⑮ 同・一階座敷A(朝)

   SE、階段を下りて来る音。

   信カッパの前に立っている真カッパ、

真カッパ「(信カッパに)たーちゃん、そろ

 そろ行こ? お爺ちゃん待ってるよ」

  と、信カッパの手を取る。

信カッパ「うん」

   SE止まって、

将之まさゆきの声「行って来る」

   潮(後ろ姿)、慌てて膝立ちになって、

潮 「(廊下を向いて)えッ!? あ」

   その横で、ちゃぷんと水(庭)に飛び

   込む真カッパと信カッパ。

潮 「(驚いて庭を向いて)えッ!」


⑯ 同・庭(朝)

真カッパ・信カッパ「いってきまーす!」

   と、水の中から元気よく手を振る。

   座敷Aのテラス窓に潮。にっこりと手

   を振って、

潮 「いってらっしゃーい」


⑰ 同・一階座敷A(朝)

   ばっと勢いよく振り返る潮。一変して

   険しい顔。その後ろに見えている庭を

   すいすい泳いで行く真カッパと信カッ

   パ。仁カッパ、俯せのまま漂い乍ら二

   匹についていく。


⑱ 同・廊下(朝)

   潮(足元)、バタバタ走り乍ら、

潮 「(大慌てで)あなた! 待って。待っ

 て! 玄関!」


⑲ 同・表(朝)

   開いている玄関戸(引き戸)に将之。

   神職姿。その後ろに潮。将之の袖を掴

   んでいる。いなくなっている敦カッパ

   と和カッパ。立っていた二匹(シーン

   ⑫)の残像が点滅して、

──────────────────────

将之「(玄関ポーチを見下ろして)水がきて

 るのか」

潮 「えッ!? あぁ、うん。そう!」


⑳ 同・玄関(朝)

   長靴を履いて差袴をたくし上げている

   将之(後ろ姿)。西参道を歩いて行く。

   潮、玄関から見送って、

将之「行って来る」

潮 「いってらっしゃ~い……」


㉑ 同・一階座敷A(朝)

   見えている庭。池になっている。良い

   天気。水面がキラキラ輝いている。そ

   の手前で円卓に朝食の準備をしている

   潮の手。

潮のM「今夜……おそうめんの予定だったか

 ら、数あるっちゃあるんだけど……」

真カッパの声「お母さん」

   座っている潮(後ろ姿)、

潮 「(庭を見て腰が引けて)!?」

   庭(水)から顔を覗かせているカッパ

   五匹。目から上のみ見えている。

   ──真横からの視点で。

   水(庭)の中に五匹。テラス窓に潮、

   四つん這いになってカッパを見ている。

   真カッパ、水面から顎まで出して、

真カッパ「タオルちょうだい」

潮 「え?」

真カッパ「(潮に)お爺ちゃんに怒られちゃ

 った」

   カンカンに怒っている慶之やすゆきの挿入映像

   がC.I、

慶之やすゆき「社務所を水浸しにしてはいかーんッ!」

潮 「……」

    ×    ×    ×

   広げたバスタオル(二枚)の上にカッ

   パ五匹。それぞれフェイスタオルを持

   って、自分の体を拭いたり、兄弟の頭

   や背中を拭いている。その手前に潮。

──────────────────────

   カッパ達に背を向けている。

潮のM「(青褪めて)社務所が水浸しよりも、

 孫が全員カッパなのはどうなのよ」

将之の声「ただいま」


㉒ 同・庭(朝)

   池になっている庭。水面から花を覗か

   せている紫陽花。

将之の声「……日の大神の、めぐみえてこそ」


㉓ 同・一階座敷A(朝)

   食卓全景。着席位置、第二回シーン➀

   同様。真カッパは信カッパと仁カッパ

   の間。全員、行儀よく正座で合掌。円

   卓上、将之と潮の前には朝食、カッパ

   側には青竹笊に山盛りのキュウリ。

一同「いただきます」

   T『神職は、朝拝のあとに朝食です』

   ──仰角で。

潮のM「問題無かった!」

   茶碗と箸を持った潮、青褪めてカッパ

   達を見下ろしている。その手前にカッ

   パ達。キュウリを手にコリコリ食べて

   いる。皆、嬉しそうな顔。

   イメージBG、T『カッパの食事はキ

   ュウリでOK! 言い伝え通り!』。

    ×    ×    ×

   PUNして、神妙な顔で食べている潮。

潮 「ねぇ……」

   潮、橋を止めて苦笑し乍ら、

潮 「(将之に)息子達の様子……気がつい

 た?」

将之「(箸を止めて)ん?」

   キュウリを食べている敦カッパ。青竹

   笊に手を伸ばす和カッパ。キュウリを

   食べている仁カッパ。モグモグ嘴を動

   かしている真カッパ。キュウリを一口

   大に割って、口に入れている信カッパ。

   を、一匹ずつ止めながら順にPUNし

   ていって、

──────────────────────

   ──真横(潮側)からの視点で。

将之「(冷静に)好き嫌いなく育ってくれて

 感謝している」

潮 「(強く将之に)そこか! 確かにキュ

 ウリしか食べてへんけどな! それか、全

 力で大ボケかましたつもりか、自分!」

   イメージBG、T『ここは京都、東山。

   大阪育ちの二人あり!』。

    ×    ×    ×

   円卓上、青竹笊の上にキュウリ三本。

   それをぱっと取る敦カッパ、和カッパ、

   仁カッパの手と、取れなかった真カッ

   パの手。

真カッパ「あ」

   しょんぼりと肩を落として、空の青竹

   笊を見ている真カッパ。仁カッパ、手

   のキュウリを半分に割る。と、

仁カッパ「ん」

   と、分けたキュウリを真カッパに差し

   出す。

真カッパ「(嬉しそうに)ありがとう!」

   手にしたキュウリを食べている仁カッ

   パと真カッパ。真カッパ、にこにこし

   て嬉しそう。

潮のM「可愛い……」

   信カッパ、一口大のキュウリを真カッ

   パに差し出して、

信カッパ「もうちょっと食べる?」

真カッパ「ううん。たーちゃんが食べていい

 よ」

   潮、じーんと感動して、

潮のM「カッパになっても変わらない」

和カッパ「(手を出して信カッパに)くれ」

   真カッパ、信カッパを制して、

真カッパ「(強く)あげちゃダメ。かずくん、

 いっぱい食べたでしょ。ちゃんと見てたン

 だからね」

潮のM「(冷静に)食いしん坊も変わらない」

   イメージBG、T『カッパになっても、

   和之は和之』。

──────────────────────

㉔ 同・庭(朝)

   紫陽花の奥に見えている座敷A。合掌

   している一同。

一同「ごちそうさま」


㉕ 同・一階座敷A(朝)

   朝食が終わっている円卓。台布巾で円

   卓を拭いている真カッパの手が伸びて

   来る。P.Uして真カッパ(横顔)。

   円卓を拭いている真カッパと信カッパ。

   開け放たれた襖の外、廊下を(玄関に)

   歩いて行く将之と、続く敦カッパと和

   カッパ。頭にきちんとたたんだタオル、

   落ちない様に顎紐で縛っている。和カ

   ッパ、顎紐を結び乍ら、

和カッパ「お前等、タオル忘れンなよ」

真カッパ「(気づいて和カッパに)解った」


㉖ 同・表(朝)

   玄関戸(引き戸)に将之と、敦カッパ

   と和カッパ。その後ろに潮。相変わら

   ず玄関ポーチの階段下まで浸水。将之、

   長靴を履いて差袴をたくし上げている。

和カッパ「(後ろに向かって)返事は『はい』

 だろ」

真カッパの声「(渋々と)は~い」

将之「行って来る」

潮 「いってらっしゃい」


㉗ 同・一階廊下(朝)

   座敷Aの入口に潮。

仁カッパの声「終わったよ」

潮 「(中に向かって)ありがとう」

信カッパの声「お母さん」


㉘ 同・一階座敷A(朝)

   ──やや俯瞰(潮の視点)で。

   両掌を見せている信カッパ。


㉙ 同・庭(朝)

──────────────────────

   座敷Aのテラス窓に潮、その膝の上に

   信カッパ。潮の右手側に正座の仁カッ

   パと、潮の背中に真カッパ。潮、手に

   爪切り。皆、庭を向いている。

仁カッパ「(自分の両手を見て)俺も」

真カッパ「(ぴょんぴょん飛び上がって)僕

 もー」

潮 「じゅ、ん、ば、ん」


㉚ 同・一階座敷A(朝)

   ──真横からの視点で。

   くすっと笑う潮。真カッパ、覗き込ん

   で、

真カッパ「なにがおかしいの?」

    ×    ×    ×

   潮の両掌の中に、信カッパの小さな両

   手。

潮 「ちっちゃいお手て、可愛いなって」


㉛ 藤之宮神社・拝殿の前(朝)

   ──やや仰角で。

   拝殿下手側、立派な藤の木(花の季節

   は終わっている)。


㉜ 同・座敷B(朝)

   ──真横からの視点で。

   墨を磨っている敦カッパの手元。その

   奥に同様の和カッパの手元。机上、毛

   筆の道具。

    ×    ×    ×

   ──真後ろからの視点で。

   平机に並んで正座している敦カッパと

   和カッパ。二匹、静かに墨を磨ってい

   る。


㉝ 同・庭(朝)

   水面を滑って行く笹船。


㉞ 同・一階座敷A(朝)

   潮、ふと(仁カッパを)見る。

──────────────────────

   ──やや俯瞰(潮の視点)で。

   潮の隣で笹船を作っている仁カッパ。


㉟ 同・庭(朝)

   ──やや仰角(水面からの視点)で。

   座敷Aの仁カッパ、四つん這いになる。

   と、水面に笹船を置く。上がったお尻

   に小さな尻尾。その後ろに潮。膝の上

   に信カッパ、手に爪切り。じっと仁カ

   ッパを見ている。

潮 「……」


㊱ 同・一階座敷A(朝)

   ──真後ろからの視点で。

   潮、仁カッパの尻尾をピッと摘まむ。

   と、ビクッと飛び上がる仁カッパ。

    ×    ×    ×

   正座している仁カッパ、両手で尻尾を

   隠して、

仁カッパ「(真っ赤になって潮に)なに?」

潮 「(赤面して)いえ、昨日まで無かった

 から、どんなのかなって」

仁カッパ「(真っ赤になって)え?」

   真カッパ、水面から顔を出して、

真カッパ「お母さん、えっち~」

潮 「(赤面して)ごめんなさい」

潮のM「えっちって事は、お◯ん◯んと同じ

 定義なの? 丸出しで?」

  セリフの◯印に自主規制音。


㊲ 藤之宮神社・拝殿の前

   シーン㉜同様。


㊳ 同・座敷B(朝)

   襖が開く。と、立っている慶之。神職

   姿。

   慶之、平机の前に座る。と、

慶之「(にこにこして)どら、見せてご覧」

   半紙を見せている敦カッパと和カッパ。

   敦カッパの半紙に『尻子玉』、和カッ

──────────────────────

   パの半紙には『きゅうり』の文字。共

   に初段の上手な字。

慶之「ほう、なかなか上手く書けとるの」


㊴ 藤原家・庭(朝)

   水面に笹船。波に揺れる。


㊵ 水中の景色

   水の中に紫陽花。差し込んでいる朝の

   光が美しい。横切って行くメダカの群

   れ。続くコイ。信カッパと真カッパの

   影。

   見上げる信カッパ。

   水面、首を突っ込んでいるカモの頭。

信カッパ「!」


㊶ 藤原家・庭(朝)

   水面から顔を出している信カッパ。そ

   の目の前に数羽のカモ。頭を水面に突

   っ込んでエサを獲っている。真カッパ、

   水面からぴょこっと顔を出して、

真カッパ「(笑って)どこから来たんだろう

 ね~」

信カッパ「うん……」


㊷ 同・一階座敷A(朝)

   ──真後ろからの視点で。

   膝に仁カッパを乗せている潮(後ろ姿)。

   見えている庭(池)に信カッパと真カ

   ッパ。二匹潜る。と、そこへ降りて来

   るアオサギ。

仁カッパ「(静かに)お母さん」

潮 「(優しく)ん?」

    ×    ×    ×

   ──真横からの視点で。

   潮の横顔をP.Dしていく。と、膝の上

   に仁カッパ。潮、爪切りのやすりで仁カッ

   パの爪先を削っている。

仁カッパ「(爪先を見乍ら)俺達、めんどく

 さい?」

──────────────────────

   止まる潮の手。

潮 「そんな訳ないじゃない」

    ×    ×    ×

   仁カッパ、信カッパをぎゅっと抱き締

   めている笑顔の潮。その背中にくっつ

   いている真カッパ。

潮 「皆──ひとりひとり、大切な息子なん

 だから」

   と、潮、四十三歳の顔になる。満面の

   笑み。同様に笑顔のカッパ達、それぞ

   れ八歳の仁之、七歳の信之、五歳の真

   之の顔がO.Lして、


㊸ 同・一階座敷A(夕)

   SE、夕拝の太鼓の音(シーン㊼迄)。

   ──正面からの視点で。

   瞠っている潮の目。さっとT.Bする。

   と、円卓に両肘をついて体を起こして

   いる潮。元の顔。肩にタオルケット。


㊹ 同・庭(夕)

   まだ陽が高い初夏の夕方(五時半)。

   美しい紫陽花にキラキラ光る滴。雨上

   がりの庭。しかし池になっていない。  

潮のM「朝拝……」


㊺ 同・一階座敷A(夕)

   壁掛け時計。しん、五時半を差してい

   る。

潮のM「違う。夕拝の太鼓」

   潮、肩のタオルケットに気づいて、


㊻ 同・一階台所(夕)

潮のM「お夕飯の支度、しなくっちゃ」

   テーブルの上にメモ、綺麗な文字で

   『お昼は冷蔵庫のおそばをいただきま

   した 信之』、その文字のすぐ横に、

   別の綺麗な字体で『仁之』。


㊼ 石塀小路・入口(夕)

──────────────────────

   ──仰角で。

   雨上がり。まだ陽が高い(シーン54迄)。

   西洋風の街灯。ガラス面に『石塀小路』。


㊽ 同・中(夕)

   石畳が続く、閑静な歴史的景観。静か

   に行き交う観光客達。暖簾を上げる料

   亭の女将。


㊾ カイラーサ・表(夕)

   京町屋。入口(引き戸)の横に、縦書

   きの木製看板。『KAILASH』。引き戸

   に下げ札『営業中』。それを外す陸

   (手)。再びかけられる下げ札『本日

   は終了しました』。


50)同・店内(夕)

   難しい顔の陽生。額に汗。手にした瓶

   (魔女の飛行薬)をじっと見ている。

   陽生、ぐりんと振り返る。と、入口に

   陸。手に『営業中』の下げ札。陽生の

   視線にびくっとする。と、


51)同・表(夕)

   陸、『営業中』の下げ札を手にしたま

   まきびすを返して、

陸 「(苦笑して)お疲れさまでしたーッ!」

陽生「(店内から)待てぃ!」


52)同・店内(夕)

   陽生、陸の眼前に迫って、

陽生「(不気味な笑みで)特別に、できたて

 ほやほやを試させてやろう」

陸 「(泣いて)嫌じゃぁ!」

陸の声「使いたくないんだろう! ホントは」

   図星の陽生、紅顔して「ぐっ」と身を

   引く。

陸 「(頭をかき乍ら)ったく」

陸の声「ガマの油って、幻覚作用あるだろ?」

   紅顔して「ぐっ」と身を引く陽生。額

──────────────────────

   に汗。手に『魔女の飛行薬』の瓶。

陸の声「サソリなんかも入ってるし!」

   更に「ぐぐっ」と身を引く陽生。頬を

   伝う汗。青褪めている。

陸の声「とどめに棺桶の溜り水で煮込んだし

 !」

   両手で頭を抱えて、縮こまる陽生。大

   汗で真っ青な顔。

陽生「(小声で)ぴ~」

   気を取り直した陽生、片手に瓶。反対

   側の手を腰に当てて、

陽生「(引きつり笑いで胸を張って)塗るん

 だけどなー。飲むんじゃなくて」

陸 「同じだ!」

   陸、(陽生を)指して、

陸 「(厳しい顔で)使う気が無いんなら、

 初めから作るな! どれだけ藤之宮に迷惑

 かけたか解ってるのか?」

陽生「使うつもりが無いんじゃ」


53) 藤原家・庭(回想・朝)

陽生「(OFF)ないんだよ~……」

   ──やや遠景で。

   美しく咲いている紫陽花。良い天気。

   開いている座敷Aのテラス窓。庭から

   腰かけている陽生、手に『魔女の飛行

   薬』が入った瓶。座敷Aの潮、興味津

   々で乗り出している。

潮 「それが『魔女の飛行薬』?」

陽生「はい」

    ×    ×    ×

陽生「塗り薬なんです、コレ」

   と、瓶の蓋を回す。と、

陽生「(OFF)ただ、仕上がりが」

   瓶からばふっと立ち込める怪しい煙。

   瞬時に、覗き込んでいた潮の頭をもは

   っと包み込む。

陽生「(青褪めて)!」


54) カイラーサ・店内(夕)

──────────────────────

   陽生、手に『魔女の飛行薬』の瓶。蓋

   を開けている。その中から漂っている

   怪しい煙、おどろおどろしく画面いっ

   ぱいに広がっている。

陽生「(泣き乍ら)思った以上にえげつなか

 っただけだよぅ~……」

   イメージBG、泣き乍ら思いっきり咳

   き込んでいる潮と、瓶の蓋を開けたま

   ま固まっている陽生。青褪めて泣いて

   いる。

   イメージBGの手前に青褪めた陸。冷

   や汗を流し乍ら目を剥いて、両手で口

   を押さえて、

陸 「(喘いで)ぐぇ」

   陸、口から手を離して、

陸 「(重く)さては陽生」

   陸、思いっきり陽生を差して、

陸 「昼飯をおごってやらなかったの、恨ん

 でるな!」

陽生「(泣き乍ら)なぜ解るッ?」

   真っ白になって、見合っている二人。

   共に額から汗。

   カウンターの上に『魔女の飛行薬』の

   瓶。しっかり蓋をされている。

陸の声「とにかくコレは使えんな」

陽生の声「ゔ~ん」

   陽生、食品用ポリ袋に瓶を入れ乍ら、

陽生「かと言って、このまま捨てるのはなぁ

 ~……」

   冷や汗をかいて見ている陸。苦笑。

   陽生(後ろ姿)、手に瓶。暖簾を捲っ

   て、

陽生「後で何とかしよう」

   と、台所(土間)に入る。元に戻る暖

   簾に、意味深にT.Uしていく。


55)同・表(夕)

   ──俯瞰で。

   陽が高い情景から夕暮れて。

   カラカラと音を立てて開く入口(引き

──────────────────────

   戸)。

沢田の声「ただいま~」


56)同・店内(夕)

   シーター、台所(土間)から暖簾を上

   げて、

シーター「あ、店長。お帰りなさい」

   入って来た沢田。手に仕出し弁当(四

   ケ)を包んだ風呂敷。

沢田「陽生は?」

シーター「(悪戯っぽく笑って)ご飯食べに

 行きましたよ。っくんのおごりで」


57)同・座敷(夕)

   台所(土間)、店内から暖簾を上げる

   沢田。手に風呂敷。T.Bして、座敷の

   円卓。帳簿と電卓が広げられている。

   沢田、気づいて、


58)同・店内(夕)

沢田の声「なんだー、まだ仕事してたのかァ」

   入口の前にシーター、

シーター「(苦笑して)さっきまで出てたの

 で、今、やってました~」


59)同・台所(土間・夕)

   SE、施錠する音。

   調理台の前に沢田。調理台の上に置か

   れている風呂敷を解く。と、見える弁

   当の折り詰め。

沢田「(店内に向かって)なら、弁当、食っ

 てくか?」

シーター「(喜んで)いただきまーすッ!」

   SE、照明のスイッチを切る音。

   気づく沢田。

   調理台の隅に、『魔女の飛行薬』の瓶。

   食品用ポリ袋に入っている。そこに伸

   びる沢田の手。

   沢田、『魔女の飛行薬』の瓶をポリ袋

   から取り出して、

──────────────────────

沢田「? 佃煮か?」

   瓶の蓋を回す沢田の手。


60)タイトル画面A

   真っ黒な画面に、白いタイトルが不気

   味に浮き上がって、

   T『この後、店長がどうなったのか。

    誰も知らない』


61)タイトル画面B

   楽しそうな盆踊り風の音楽。

   T『魔女の飛行薬には、幻覚を引き起

    こす材料が含まれております』

   前述のTより小さなポイントで。

   T『ご利用は計画的に』

   フレーム前方にカッパ五兄弟。一列に

   並んで、音楽に合わせて可愛らしく踊

   っている。最後に、カメラ目線で決め

   ポーズ。



    第三回『魔女の飛行薬、その後』終

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