第三回 魔女の飛行薬、その後
① 東山(夜明け)
夜明け前の稜線。明るく縁取られてい
って、夜明け。
② 藤之宮神社・鎮守の森(早朝)
梅雨間近。朝日に紫陽花が美しい。
SE、スコップで地面を掘る音。
紫陽花の奥に獣の影(
スコップ(園芸用移植ごて)で木の根
元を掘っている。
③ 藤原家・庭(朝)
美しく咲いている紫陽花。良い天気。
開いている座敷Aのテラス窓。庭から
腰かけている
狼姿。エプロンをつけている)、手に
『魔女の飛行薬』が入った瓶。座敷A
に
の真横に座り、仁之は腕組みをして立
っている。
仁之「じーちゃんには会ったか?」
④ 同・一階座敷A(朝)
陽生「いや、朝拝の後に行くと伝えてくれ」
仁之「はいよ。(と、背を向けて)行って来
ます」
と、Fr.OUTする。
潮、興味津々で乗り出して、
潮 「それが『魔女の飛行薬』?」
陽生「はい」
⑤ 同・庭(朝)
歩いていく仁之(後ろ姿)。
潮の声「どうやって使うの?」
シーン③同様の陽生と潮。潮、両手を
ついた前のめりで陽生の手元を見てい
る。興味津々の顔。
──────────────────────
陽生「塗り薬なんです、コレ」
と、瓶の蓋を回す。
紫陽花の葉に、ぽたっと雨のしずくが
落ちて来る。と、ぽたぽたと降り出し
てくる雨。さあっと降り出す。と、遠
くに雷鳴。
⑥ 東山(夜明け)
暗い。強く、真っ直ぐに降っている雨。
煙っている稜線。遠くに雷鳴。と、晴
れて来て、稜線がゆっくりと明るくな
っていく。顔を出す朝日。
⑦ 藤原家・庭(朝)
一階座敷Aのシャッター(雨戸)を上
げる潮。雨は上がっている。
潮 「(庭を見て)あら!」
⑧ 同・一階座敷A(朝)
水没している庭。朝日を受けてキラキ
ラ輝いている。良い天気。
潮の声「あらあらあら~……」
潮、振り返って、
潮「(苦笑して)昨日よく降ったから、お庭
が池になってるわ」
真之「そうなの?」
と、潮の傍に一匹の小さなカッパ。潮
を見上げている。
潮 「(相当驚いて)!?」
テラス窓に真カッパ。庭を見て、
⑨ 同・庭(朝)
──カッパの視線の高さで。
一階座敷Aのテラス窓に潮と真カッパ。
真カッパ、庭を指して、
真カッパ「(仁之に)見てーッ! お池にな
ってるよ」
──────────────────────
座敷Aに仁之。真之同様にカッパ姿。
真カッパよりもやや濃い体色で少し大
きい。が、同じ顔。
⑩ 水中から水面を見た景色
覗き込んでいる真カッパと仁カッパが
見えている。その顔前をスイスイと泳
いでいるメダカやコイの魚影。
真カッパ「ね、凄いでしょ?」
⑪ 藤原家・一階座敷A(朝)
仁カッパ「あー……」
四つん這いで庭を覗き込んでいる真カ
ッパ。と、その横に屈んでいる仁カッ
パ。さっと仰角になって、その後ろに
ドン引きの潮。青褪めてカッパ達を見
下ろしている。
潮のM「何? 何なの、このカッパ!」
× × ×
潮(横顔)、はっとして、
潮のM「あ、そういう事。ここんトコ暑かっ
たから、あたし、疲れてるのね。(苦笑し
て)きっと涼しくなりたい願望が……」
たの?」
潮、気を取り直して、
潮 「(にっこり微笑み乍ら振り向いて)何
でもないの。おは」
潮(後ろ姿)の前にカッパ姿の信之。
心配そうに、潮をじっと見上げている。
潮 「(驚いて)ようッ!」
と、ぞろぞろ座敷Aに入って来る
と
精神年齢は、
七歳。
カッパ)から五男(真カッパ)へ順に
薄くグラデーションになっている。同
様に長男から五男へ背が低くなって、
──────────────────────
体つきも小さくなる。が、五匹同じ顔。
和カッパ、眼鏡をかけている。
敦カッパ「(テラス窓を見て)どうした?」
真カッパの声「あ、見て見てーッ!」
信カッパ「お母さん?」
と、手を伸ばす。ビクッと後退る潮。
手を伸ばしたまま固まっている信カッ
パ。瞬間、うるっと、涙目になる。
潮のM「しまった! 傷つけた!?」
潮、膝をついて、
潮 「(信カッパに)ご、ごめんなさい。び
っくりしちゃって」
潮の前、手を伸ばしたまま、うるうる
した瞳で潮を見ている信カッパ。
ゆっくり伸びて行く潮の両手。信カッ
パの手を取る。と、
信カッパの小さな手。水かきがついて、
指の先に爪。意外に尖っている。
潮 「……」
潮の膝に信カッパ。潮、信カッパの両
手を見乍ら、
潮 「(優しく)危ないから……爪……切ろ
うね」
信カッパ「(涙ぐんで)うん……」
潮のM「全体的にじっとりするッ!」
敦カッパ「玄関見て来る」
と、その前を横切って行く敦カッパと
和カッパ。
和カッパ「(信カッパに)なに泣いてンの、
お前」
真カッパ、潮の背中にぺったり抱きつ
いて、
真カッパ「(覗き込んで)たーちゃん、どう
したの?」
潮 「(苦笑して)泣かせちゃったの」
真カッパ「あー、いけないんだ」
潮 「(ひきつって苦笑して)そうね」
潮のM「前も後ろも、湿度
イメージBG、画面いっぱいのTで、
T『無駄に暑いッ!』
──────────────────────
× × ×
──真横からの視点で。
潮、ふと見る。
潮のM「そういえば、あの眼鏡……」
× × ×
──フラッシュカット(潮の視点)で。
横切って行く敦カッパ。続く和カッパ。
和カッパ、(信カッパに)気づいて、
潮のM「眼鏡がどうやって止まってンのか解ン
ないけど」
「なに泣いてンの」と言っている和カッ
パ。
T『次男
潮のM「和之?」
⑫ 同・表(朝)
開いている玄関戸(引き戸)。玄関ポー
チの階段下まで浸水している。玄関ポー
チに立っている敦カッパと屈んでいる和
カッパ。二匹、じっと浸水を見ている。
敦カッパに矢印が点滅して、
T『長男
潮のM「じゃあ、一緒に行ったのが、敦之……」
⑬ 同・一階座敷A(朝)
──やや俯瞰(潮の視点)で。
四つん這いで庭(水)を覗いている仁
カッパ。水面に手を突っ込んでいる。
それを手前にPUNして、潮の膝の上
でメソメソしている信カッパ。一緒に
潮の首に回されている真カッパの腕が
見えている。三男(仁カッパ)から五
男(真カッパ)へ、グラデーションで
薄くなっている体色。
潮のM「(気づいて)……色? さっき」
真カッパの腕からさっとPUNして、膝
の上の信カッパ。潮を見上げている。
潮のM「このカッパの事、『たーちゃん』って
言ったわよね。という事は」
× × ×
──────────────────────
潮、背中に向かって、
潮 「ナオ?」
真カッパ「なに?」
T『五男
潮のM「(気合いを入れて)当たったァッ!」
潮 「ナオにお願いがあるの」
真カッパ「(可愛く首を傾げて)なに?」
潮 「お母さんのほっぺた、
る?」
真カッパ「え? なんで?」
潮 「いいから」
真カッパの指、潮の頬を抓ろうとする。
が、するんと滑って、頬を摘まむ事が
できない。
何度も頬を摘まもうとする真カッパ。
その度に指が滑って、
真カッパ「(困って)あれ~? 上手にでき
ない」
潮 「(青褪めて目を瞑ったまま)……」
それをじっと見上げている、膝の上の
信カッパ。その上にT、
T『四男
仁カッパ、潮の左手側に来て、
T『三男
仁カッパ「こうするンだよ」
爪先で潮の頬を抓り上げる仁カッパの
手。
⑭ 同・庭(朝)
──思いっきり仰角で。
(潮に殴りつけられて)俯せでプカプ
カ水に浮いている仁カッパ。頭から煙。
その後ろ、座敷Aのテラス窓に潮。真
っ赤になっている左頬、目元は影にな
って見えない。左拳を振り上げて、歯
を食いしばっている。
潮のM「夢でも幻でもなかった!」
イメージBG、画面いっぱいのTで、
T『半端なく痛いっちゅーねんッ!
その抓り方!』
──────────────────────
⑮ 同・一階座敷A(朝)
SE、階段を下りて来る音。
信カッパの前に立っている真カッパ、
真カッパ「(信カッパに)たーちゃん、そろ
そろ行こ? お爺ちゃん待ってるよ」
と、信カッパの手を取る。
信カッパ「うん」
SE止まって、
潮(後ろ姿)、慌てて膝立ちになって、
潮 「(廊下を向いて)えッ!? あ」
その横で、ちゃぷんと水(庭)に飛び
込む真カッパと信カッパ。
潮 「(驚いて庭を向いて)えッ!」
⑯ 同・庭(朝)
真カッパ・信カッパ「いってきまーす!」
と、水の中から元気よく手を振る。
座敷Aのテラス窓に潮。にっこりと手
を振って、
潮 「いってらっしゃーい」
⑰ 同・一階座敷A(朝)
ばっと勢いよく振り返る潮。一変して
険しい顔。その後ろに見えている庭を
すいすい泳いで行く真カッパと信カッ
パ。仁カッパ、俯せのまま漂い乍ら二
匹についていく。
⑱ 同・廊下(朝)
潮(足元)、バタバタ走り乍ら、
潮 「(大慌てで)あなた! 待って。待っ
て! 玄関!」
⑲ 同・表(朝)
開いている玄関戸(引き戸)に将之。
神職姿。その後ろに潮。将之の袖を掴
んでいる。いなくなっている敦カッパ
と和カッパ。立っていた二匹(シーン
⑫)の残像が点滅して、
──────────────────────
将之「(玄関ポーチを見下ろして)水がきて
るのか」
潮 「えッ!? あぁ、うん。そう!」
⑳ 同・玄関(朝)
長靴を履いて差袴をたくし上げている
将之(後ろ姿)。西参道を歩いて行く。
潮、玄関から見送って、
将之「行って来る」
潮 「いってらっしゃ~い……」
㉑ 同・一階座敷A(朝)
見えている庭。池になっている。良い
天気。水面がキラキラ輝いている。そ
の手前で円卓に朝食の準備をしている
潮の手。
潮のM「今夜……おそうめんの予定だったか
ら、数あるっちゃあるんだけど……」
真カッパの声「お母さん」
座っている潮(後ろ姿)、
潮 「(庭を見て腰が引けて)!?」
庭(水)から顔を覗かせているカッパ
五匹。目から上のみ見えている。
──真横からの視点で。
水(庭)の中に五匹。テラス窓に潮、
四つん這いになってカッパを見ている。
真カッパ、水面から顎まで出して、
真カッパ「タオルちょうだい」
潮 「え?」
真カッパ「(潮に)お爺ちゃんに怒られちゃ
った」
カンカンに怒っている
がC.I、
潮 「……」
× × ×
広げたバスタオル(二枚)の上にカッ
パ五匹。それぞれフェイスタオルを持
って、自分の体を拭いたり、兄弟の頭
や背中を拭いている。その手前に潮。
──────────────────────
カッパ達に背を向けている。
潮のM「(青褪めて)社務所が水浸しよりも、
孫が全員カッパなのはどうなのよ」
将之の声「ただいま」
㉒ 同・庭(朝)
池になっている庭。水面から花を覗か
せている紫陽花。
将之の声「……日の大神の、めぐみえてこそ」
㉓ 同・一階座敷A(朝)
食卓全景。着席位置、第二回シーン➀
同様。真カッパは信カッパと仁カッパ
の間。全員、行儀よく正座で合掌。円
卓上、将之と潮の前には朝食、カッパ
側には青竹笊に山盛りのキュウリ。
一同「いただきます」
T『神職は、朝拝のあとに朝食です』
──仰角で。
潮のM「問題無かった!」
茶碗と箸を持った潮、青褪めてカッパ
達を見下ろしている。その手前にカッ
パ達。キュウリを手にコリコリ食べて
いる。皆、嬉しそうな顔。
イメージBG、T『カッパの食事はキ
ュウリでOK! 言い伝え通り!』。
× × ×
PUNして、神妙な顔で食べている潮。
潮 「ねぇ……」
潮、橋を止めて苦笑し乍ら、
潮 「(将之に)息子達の様子……気がつい
た?」
将之「(箸を止めて)ん?」
キュウリを食べている敦カッパ。青竹
笊に手を伸ばす和カッパ。キュウリを
食べている仁カッパ。モグモグ嘴を動
かしている真カッパ。キュウリを一口
大に割って、口に入れている信カッパ。
を、一匹ずつ止めながら順にPUNし
ていって、
──────────────────────
──真横(潮側)からの視点で。
将之「(冷静に)好き嫌いなく育ってくれて
感謝している」
潮 「(強く将之に)そこか! 確かにキュ
ウリしか食べてへんけどな! それか、全
力で大ボケかましたつもりか、自分!」
イメージBG、T『ここは京都、東山。
大阪育ちの二人あり!』。
× × ×
円卓上、青竹笊の上にキュウリ三本。
それをぱっと取る敦カッパ、和カッパ、
仁カッパの手と、取れなかった真カッ
パの手。
真カッパ「あ」
しょんぼりと肩を落として、空の青竹
笊を見ている真カッパ。仁カッパ、手
のキュウリを半分に割る。と、
仁カッパ「ん」
と、分けたキュウリを真カッパに差し
出す。
真カッパ「(嬉しそうに)ありがとう!」
手にしたキュウリを食べている仁カッ
パと真カッパ。真カッパ、にこにこし
て嬉しそう。
潮のM「可愛い……」
信カッパ、一口大のキュウリを真カッ
パに差し出して、
信カッパ「もうちょっと食べる?」
真カッパ「ううん。たーちゃんが食べていい
よ」
潮、じーんと感動して、
潮のM「カッパになっても変わらない」
和カッパ「(手を出して信カッパに)くれ」
真カッパ、信カッパを制して、
真カッパ「(強く)あげちゃダメ。かずくん、
いっぱい食べたでしょ。ちゃんと見てたン
だからね」
潮のM「(冷静に)食いしん坊も変わらない」
イメージBG、T『カッパになっても、
和之は和之』。
──────────────────────
㉔ 同・庭(朝)
紫陽花の奥に見えている座敷A。合掌
している一同。
一同「ごちそうさま」
㉕ 同・一階座敷A(朝)
朝食が終わっている円卓。台布巾で円
卓を拭いている真カッパの手が伸びて
来る。P.Uして真カッパ(横顔)。
円卓を拭いている真カッパと信カッパ。
開け放たれた襖の外、廊下を(玄関に)
歩いて行く将之と、続く敦カッパと和
カッパ。頭にきちんとたたんだタオル、
落ちない様に顎紐で縛っている。和カ
ッパ、顎紐を結び乍ら、
和カッパ「お前等、タオル忘れンなよ」
真カッパ「(気づいて和カッパに)解った」
㉖ 同・表(朝)
玄関戸(引き戸)に将之と、敦カッパ
と和カッパ。その後ろに潮。相変わら
ず玄関ポーチの階段下まで浸水。将之、
長靴を履いて差袴をたくし上げている。
和カッパ「(後ろに向かって)返事は『はい』
だろ」
真カッパの声「(渋々と)は~い」
将之「行って来る」
潮 「いってらっしゃい」
㉗ 同・一階廊下(朝)
座敷Aの入口に潮。
仁カッパの声「終わったよ」
潮 「(中に向かって)ありがとう」
信カッパの声「お母さん」
㉘ 同・一階座敷A(朝)
──やや俯瞰(潮の視点)で。
両掌を見せている信カッパ。
㉙ 同・庭(朝)
──────────────────────
座敷Aのテラス窓に潮、その膝の上に
信カッパ。潮の右手側に正座の仁カッ
パと、潮の背中に真カッパ。潮、手に
爪切り。皆、庭を向いている。
仁カッパ「(自分の両手を見て)俺も」
真カッパ「(ぴょんぴょん飛び上がって)僕
もー」
潮 「じゅ、ん、ば、ん」
㉚ 同・一階座敷A(朝)
──真横からの視点で。
くすっと笑う潮。真カッパ、覗き込ん
で、
真カッパ「なにがおかしいの?」
× × ×
潮の両掌の中に、信カッパの小さな両
手。
潮 「ちっちゃいお手て、可愛いなって」
㉛ 藤之宮神社・拝殿の前(朝)
──やや仰角で。
拝殿下手側、立派な藤の木(花の季節
は終わっている)。
㉜ 同・座敷B(朝)
──真横からの視点で。
墨を磨っている敦カッパの手元。その
奥に同様の和カッパの手元。机上、毛
筆の道具。
× × ×
──真後ろからの視点で。
平机に並んで正座している敦カッパと
和カッパ。二匹、静かに墨を磨ってい
る。
㉝ 同・庭(朝)
水面を滑って行く笹船。
㉞ 同・一階座敷A(朝)
潮、ふと(仁カッパを)見る。
──────────────────────
──やや俯瞰(潮の視点)で。
潮の隣で笹船を作っている仁カッパ。
㉟ 同・庭(朝)
──やや仰角(水面からの視点)で。
座敷Aの仁カッパ、四つん這いになる。
と、水面に笹船を置く。上がったお尻
に小さな尻尾。その後ろに潮。膝の上
に信カッパ、手に爪切り。じっと仁カ
ッパを見ている。
潮 「……」
㊱ 同・一階座敷A(朝)
──真後ろからの視点で。
潮、仁カッパの尻尾をピッと摘まむ。
と、ビクッと飛び上がる仁カッパ。
× × ×
正座している仁カッパ、両手で尻尾を
隠して、
仁カッパ「(真っ赤になって潮に)なに?」
潮 「(赤面して)いえ、昨日まで無かった
から、どんなのかなって」
仁カッパ「(真っ赤になって)え?」
真カッパ、水面から顔を出して、
真カッパ「お母さん、えっち~」
潮 「(赤面して)ごめんなさい」
潮のM「えっちって事は、お◯ん◯んと同じ
定義なの? 丸出しで?」
セリフの◯印に自主規制音。
㊲ 藤之宮神社・拝殿の前
シーン㉜同様。
㊳ 同・座敷B(朝)
襖が開く。と、立っている慶之。神職
姿。
慶之、平机の前に座る。と、
慶之「(にこにこして)どら、見せてご覧」
半紙を見せている敦カッパと和カッパ。
敦カッパの半紙に『尻子玉』、和カッ
──────────────────────
パの半紙には『きゅうり』の文字。共
に初段の上手な字。
慶之「ほう、なかなか上手く書けとるの」
㊴ 藤原家・庭(朝)
水面に笹船。波に揺れる。
㊵ 水中の景色
水の中に紫陽花。差し込んでいる朝の
光が美しい。横切って行くメダカの群
れ。続くコイ。信カッパと真カッパの
影。
見上げる信カッパ。
水面、首を突っ込んでいるカモの頭。
信カッパ「!」
㊶ 藤原家・庭(朝)
水面から顔を出している信カッパ。そ
の目の前に数羽のカモ。頭を水面に突
っ込んでエサを獲っている。真カッパ、
水面からぴょこっと顔を出して、
真カッパ「(笑って)どこから来たんだろう
ね~」
信カッパ「うん……」
㊷ 同・一階座敷A(朝)
──真後ろからの視点で。
膝に仁カッパを乗せている潮(後ろ姿)。
見えている庭(池)に信カッパと真カ
ッパ。二匹潜る。と、そこへ降りて来
るアオサギ。
仁カッパ「(静かに)お母さん」
潮 「(優しく)ん?」
× × ×
──真横からの視点で。
潮の横顔をP.Dしていく。と、膝の上
に仁カッパ。潮、爪切りの
パの爪先を削っている。
仁カッパ「(爪先を見乍ら)俺達、めんどく
さい?」
──────────────────────
止まる潮の手。
潮 「そんな訳ないじゃない」
× × ×
仁カッパ、信カッパをぎゅっと抱き締
めている笑顔の潮。その背中にくっつ
いている真カッパ。
潮 「皆──ひとりひとり、大切な息子なん
だから」
と、潮、四十三歳の顔になる。満面の
笑み。同様に笑顔のカッパ達、それぞ
れ八歳の仁之、七歳の信之、五歳の真
之の顔がO.Lして、
㊸ 同・一階座敷A(夕)
SE、夕拝の太鼓の音(シーン㊼迄)。
──正面からの視点で。
瞠っている潮の目。さっとT.Bする。
と、円卓に両肘をついて体を起こして
いる潮。元の顔。肩にタオルケット。
㊹ 同・庭(夕)
まだ陽が高い初夏の夕方(五時半)。
美しい紫陽花にキラキラ光る滴。雨上
がりの庭。しかし池になっていない。
潮のM「朝拝……」
㊺ 同・一階座敷A(夕)
壁掛け時計。
る。
潮のM「違う。夕拝の太鼓」
潮、肩のタオルケットに気づいて、
㊻ 同・一階台所(夕)
潮のM「お夕飯の支度、しなくっちゃ」
テーブルの上にメモ、綺麗な文字で
『お昼は冷蔵庫のおそばをいただきま
した 信之』、その文字のすぐ横に、
別の綺麗な字体で『仁之』。
㊼ 石塀小路・入口(夕)
──────────────────────
──仰角で。
雨上がり。まだ陽が高い(シーン54迄)。
西洋風の街灯。ガラス面に『石塀小路』。
㊽ 同・中(夕)
石畳が続く、閑静な歴史的景観。静か
に行き交う観光客達。暖簾を上げる料
亭の女将。
㊾ カイラーサ・表(夕)
京町屋。入口(引き戸)の横に、縦書
きの木製看板。『KAILASH』。引き戸
に下げ札『営業中』。それを外す陸
(手)。再びかけられる下げ札『本日
は終了しました』。
50)同・店内(夕)
難しい顔の陽生。額に汗。手にした瓶
(魔女の飛行薬)をじっと見ている。
陽生、ぐりんと振り返る。と、入口に
陸。手に『営業中』の下げ札。陽生の
視線にびくっとする。と、
51)同・表(夕)
陸、『営業中』の下げ札を手にしたま
ま
陸 「(苦笑して)お疲れさまでしたーッ!」
陽生「(店内から)待てぃ!」
52)同・店内(夕)
陽生、陸の眼前に迫って、
陽生「(不気味な笑みで)特別に、できたて
ほやほやを試させてやろう」
陸 「(泣いて)嫌じゃぁ!」
陸の声「使いたくないんだろう! ホントは」
図星の陽生、紅顔して「ぐっ」と身を
引く。
陸 「(頭をかき乍ら)ったく」
陸の声「ガマの油って、幻覚作用あるだろ?」
紅顔して「ぐっ」と身を引く陽生。額
──────────────────────
に汗。手に『魔女の飛行薬』の瓶。
陸の声「サソリなんかも入ってるし!」
更に「ぐぐっ」と身を引く陽生。頬を
伝う汗。青褪めている。
陸の声「とどめに棺桶の溜り水で煮込んだし
!」
両手で頭を抱えて、縮こまる陽生。大
汗で真っ青な顔。
陽生「(小声で)ぴ~」
気を取り直した陽生、片手に瓶。反対
側の手を腰に当てて、
陽生「(引きつり笑いで胸を張って)塗るん
だけどなー。飲むんじゃなくて」
陸 「同じだ!」
陸、(陽生を)指して、
陸 「(厳しい顔で)使う気が無いんなら、
初めから作るな! どれだけ藤之宮に迷惑
かけたか解ってるのか?」
陽生「使うつもりが無いんじゃ」
53) 藤原家・庭(回想・朝)
陽生「(OFF)ないんだよ~……」
──やや遠景で。
美しく咲いている紫陽花。良い天気。
開いている座敷Aのテラス窓。庭から
腰かけている陽生、手に『魔女の飛行
薬』が入った瓶。座敷Aの潮、興味津
々で乗り出している。
潮 「それが『魔女の飛行薬』?」
陽生「はい」
× × ×
陽生「塗り薬なんです、コレ」
と、瓶の蓋を回す。と、
陽生「(OFF)ただ、仕上がりが」
瓶からばふっと立ち込める怪しい煙。
瞬時に、覗き込んでいた潮の頭をもは
っと包み込む。
陽生「(青褪めて)!」
54) カイラーサ・店内(夕)
──────────────────────
陽生、手に『魔女の飛行薬』の瓶。蓋
を開けている。その中から漂っている
怪しい煙、おどろおどろしく画面いっ
ぱいに広がっている。
陽生「(泣き乍ら)思った以上にえげつなか
っただけだよぅ~……」
イメージBG、泣き乍ら思いっきり咳
き込んでいる潮と、瓶の蓋を開けたま
ま固まっている陽生。青褪めて泣いて
いる。
イメージBGの手前に青褪めた陸。冷
や汗を流し乍ら目を剥いて、両手で口
を押さえて、
陸 「(喘いで)ぐぇ」
陸、口から手を離して、
陸 「(重く)さては陽生」
陸、思いっきり陽生を差して、
陸 「昼飯をおごってやらなかったの、恨ん
でるな!」
陽生「(泣き乍ら)なぜ解るッ?」
真っ白になって、見合っている二人。
共に額から汗。
カウンターの上に『魔女の飛行薬』の
瓶。しっかり蓋をされている。
陸の声「とにかくコレは使えんな」
陽生の声「ゔ~ん」
陽生、食品用ポリ袋に瓶を入れ乍ら、
陽生「かと言って、このまま捨てるのはなぁ
~……」
冷や汗をかいて見ている陸。苦笑。
陽生(後ろ姿)、手に瓶。暖簾を捲っ
て、
陽生「後で何とかしよう」
と、台所(土間)に入る。元に戻る暖
簾に、意味深にT.Uしていく。
55)同・表(夕)
──俯瞰で。
陽が高い情景から夕暮れて。
カラカラと音を立てて開く入口(引き
──────────────────────
戸)。
沢田の声「ただいま~」
56)同・店内(夕)
シーター、台所(土間)から暖簾を上
げて、
シーター「あ、店長。お帰りなさい」
入って来た沢田。手に仕出し弁当(四
ケ)を包んだ風呂敷。
沢田「陽生は?」
シーター「(悪戯っぽく笑って)ご飯食べに
行きましたよ。
57)同・座敷(夕)
台所(土間)、店内から暖簾を上げる
沢田。手に風呂敷。T.Bして、座敷の
円卓。帳簿と電卓が広げられている。
沢田、気づいて、
58)同・店内(夕)
沢田の声「なんだー、まだ仕事してたのかァ」
入口の前にシーター、
シーター「(苦笑して)さっきまで出てたの
で、今、やってました~」
59)同・台所(土間・夕)
SE、施錠する音。
調理台の前に沢田。調理台の上に置か
れている風呂敷を解く。と、見える弁
当の折り詰め。
沢田「(店内に向かって)なら、弁当、食っ
てくか?」
シーター「(喜んで)いただきまーすッ!」
SE、照明のスイッチを切る音。
気づく沢田。
調理台の隅に、『魔女の飛行薬』の瓶。
食品用ポリ袋に入っている。そこに伸
びる沢田の手。
沢田、『魔女の飛行薬』の瓶をポリ袋
から取り出して、
──────────────────────
沢田「? 佃煮か?」
瓶の蓋を回す沢田の手。
60)タイトル画面A
真っ黒な画面に、白いタイトルが不気
味に浮き上がって、
T『この後、店長がどうなったのか。
誰も知らない』
61)タイトル画面B
楽しそうな盆踊り風の音楽。
T『魔女の飛行薬には、幻覚を引き起
こす材料が含まれております』
前述のTより小さなポイントで。
T『ご利用は計画的に』
フレーム前方にカッパ五兄弟。一列に
並んで、音楽に合わせて可愛らしく踊
っている。最後に、カメラ目線で決め
ポーズ。
第三回『魔女の飛行薬、その後』終
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