第65話
レインニールの学舎への入学は順調だった。
聖域で礎たちや周囲にいる研究員たちのお陰で最高の環境が整い、必要な知識と教養を身に付けることが出来たからだ。
また、健康状態も補佐官の心配をよそに正常であった。これはまだ、レインニールが若いということもあるだろう。
同世代の子どもたちと話をすることはレインニールにとって新鮮だった。
村にいた時代は話をするといっても家の手伝いの延長であることが多かった。
自分のことを話すのは苦手だったが、それでも、幾人かは友人と呼べるような関係をつくることが出来た。
真面目に授業を受けていたが、環境に慣れるにしたがって、聖域の事が気になり始める。
聖女王の事、礎の事、その力の事。
学舎でもそれらについて学ぶのだが、実際にそれらが作用するところを見ているレインニールにとって、物足りなさがあった。
以前に比べ頻度は減ったが、パンドゥラとともに世界を駆けることは続けていた。
その中で見る世界と学舎で見る世界の違いに、苛立ちを募らせてしまう。
パンドゥラから直接話があったわけではないが、世界が限界に来ていることを何となく肌で感じている。その焦りがレインニールを襲い、居ても立ってもいられなくする。
久しぶりに学舎の寮に戻ったレインニールをアダンが引き留めた。
食堂に入って、食事を受け取ったばかりだったので盆を抱えたまま、部屋の隅まで連行される。
「お前、何処に行っていた?」
アダンはクラスでも世話役を引き受けていた。
面倒見が良いためか、クラス全員の大体の事情を知っている。
「えっと…」
何処、と言われてすべてをレインニールは答えられない。
何故なら、礎の任務は極秘であることも多い。そして、立ち寄った先は一つではない。
言いよどむレインニールにため息を落とす。
「良いか?お前、そろそろ出席率が危ないぞ」
その件はすでに担当教官から注意を受けている。半年、もしくは一年間、どのくらい講義に参加していたかは成績にも進級にも影響を及ぼす。
「先週の授業で、お前は俺と同じ研究グループに入れられたことも知らないだろう?」
ぽかんとするレインニールを見て、アダンも肩を落とす。
「ちゃんと、知らせていただろう?読んでないのか?」
「バタバタしてて、あまり…」
欠席している間に決まったこと等、アダンは詳細に書いてレインニールに寄越していた。
感謝していたが、一つ一つを確認するには時間と手間がかかる。外出中は他の事に気を取られているため、ほとんど読んでいない。
「良いか?中間報告まである程度、形を作っておきたい。今回はエラーブル地方の件だ」
「エラーブル?」
「そう、本来なら先月には本部で最新データが更新されるはずだが、今のところ、時間がかかっているんだよな。去年のを参考に一先ず、見当をつけて作るしかない」
「それなら問題ない。近日中に、本部でデータが更新される」
「は?」
「去年から今年にかけて、大きな地震が幾度か起きた。山が崩れて環境が変わっている。川の流れがせき止められ、大雨も降った。結果、下の街が洪水で流されて」
「待て待て待て」
レインニールが息つく間もなく話をするのを無理やり止める。
「地震の話はこっちも聞いている。大雨で街が被害にあったとも。原因は山が崩れたことか!」
「地震によって、山が崩れた。その後も色々あって、そのせいで、今年の報告をまとめるのに時間がかかっている。増員もされたし、報告書はもうできているから時機に」
「見たのか?」
レインニールは視線を外す。
見たのは聖域の水の礎サシャの執務室だ。それをアダンに言うわけにはいかなかった。
「ざっとしか。今年の分だけど、最新はまた変わっているかもしれない」
気象も環境も人もあっという間に変わっていく。
レインニールはパンドゥラと一緒に世界を回り、意識を共有する。その影響で多少、時間の感覚がずれてしまっているのだが、本人に自覚はない。
「そこまでなのか」
「状況は改善していると思う。でも、」
聖女王の力も礎の力も十分、届いているはずだ。だが、うまく作用していない。
それが歯がゆいのだが、それをアダンに訴えても詮無き事だ。
「メンバーを至急集める。方向を変えないと間に合わないな。本部が公開するまで待つか、いっその事、直接、支部へ資料提供を依頼するか」
「聞いてみても良いけど、期待しないで欲しい」
「そうだろうな、管轄の支部も忙しいだろうし。聞くだけならただか。…って、伝手でもあるのか?」
つい幾日か前に、サシャと護衛官たちとそこにいたとは言い辛かった。
「人づてなら何とかなるかもしれない」
自分が、ではなく、わざと間に誰かいることをほのめかす。
実際に、人を介することも出来るが、それをすると他の生徒と差が大きくなる。
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