第64話

 その時、入室を求める者がいた。

 アレクシは相手が補佐官だと知り許可する。


 彼女はやや慌てた様子でテーブルまでやってくるとざっと料理を確認する。

「如何されましたか?」

 何かあったのだろうかとアレクシは立ち上がる。


 今回の会はアレクシ主催である。

 料理から会場のセッティングまで全て彼の手で行われた。

 先ほどからラウルに飲み干されているワインもアレクシが揃えたものだ。


「せっかくの会を邪魔するのは申し訳ないのですが…」

 補佐官の目がレインニールに止まる。

「レインニール、その料理、全て食べる必要はないのよ?残して良いのよ?」


 きょとんと目を丸くしてレインニールは言われた意味を理解しようとしたがよく分からなかった。いつもアレクシとともに食事をする際は全て食べるようにしていた。

 勿論、無理はするなと言われていたが、アレクシを真似て食べるうちに完食するようになっていた。


「アレクシ。レインニールはまだ子どもです。このメニューは基準があなた方になっていませんか?」

 礎はみな、レインニールより年が上である。歳が一番近いジェラールはすでに成人男性と変わらない身体つきをしている。


 アレクシは並べられた料理をゆっくりと眺める。

 メニューの指示は自分が出した。

 レインニールにも自分と同じものを出すように言い含めた。それは手本となる自分が違うメニューを食べていては意味がないからだ。


 続けてレインニールを見る。

 今はやや怯えた顔でアレクシを見上げている。

 隣に座るサシャと何となく比べる。もちろん、レインニールは小さい。


 そういえば、メニューを決める際、何度も厨房の者から確認が入った。毎回、メニューだけでなく量の確認も細かく指示を求められた。

 自分と同じものを。

 何度もそう答えていた。


 ラウルが肩を揺らして笑いだす。

 思わず、アレクシは睨みつけるが、責める資格は自分にはないことに気が付き、呆然とする。

 傷付いた姿があまりに憐れでジェラールがそっと目を逸らす。


「サシャ。普段はどうしていた?」

 アレクシの声には力がない。

「えっと、ほとんど厨房任せかな。たまに辛い物が食べたくなって要望だすけど、その時は大抵、レインニールは別メニュー」


「レインニール、ほら貸せ。半分食べてやる」

 ラウルが皿ごと渡すように手をひらひらさせる。半分と言いながらそれ以上を切り分け、自分の皿にのせるが、一つ頷き、それを更に分けるとジェラールの皿に問答無用に置く。

「パンもジェラール、お前が食べろ」

 勝手に配分して、レインニールの料理が切り分けられる。


 不安げにしているレインニールにラウルは片目を瞑る。

「心配するな、デザートは取らない」

 そういう意味ではなかったが、一先ず首肯する。


 マナーが、そもそも量が等、はっきりとしない言葉がアレクシの口元から漏れる。

「大丈夫だ、アレクシ。本当に食べきれないなら、レインニールも言うはずだから」

 あまりに気の毒でサシャが慰めるが、アレクシには届いていないようだった。


 補佐官は礎のそれぞれの様子を見て、ため息を落とす。

 レインニールはまだ幼い少女である。

 あまりに彼らに任せすぎた自分を責める。


 偶々、廊下で運ばれる料理を見たので飛んできてみればこの事態であった。

 反省すべきは自分のほうだ、と恥じる。


「レインニール。明日、私に時間を頂けますか?」

「はい。分かりました、補佐官様」

 まだ、聖域にいるうちに、女性である自分が教えなければならないことがあると補佐官は決意したのだった。


 ~~~~~~

 出されたものは全部食べます。レインニールは貧しい家で育ちましたので食事を残すという考えはありませんでした。

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