第45話 ポレットの聖女日記・21
ぐったりと緊張の抜けたポレットの体を火の礎ジェラールが抱える。
「良かった。一時はどうなるかと思った」
ポレットと別れた後、彼女が不安定になっていることに気が付き、地の礎アレクシに報告した。
アレクシは神官たちを集め、ポレットに会いに行ったが、部屋には戻っていなかった。
少しでも届けとポレットの居場所が分からない風の礎コルネイルは楽器で落ち着くような曲を奏で、水の礎フロランはポレットが喜ぶようなものをメイドたちとともにかき集めた。
「全部、お前が持っていくのか」
いち早くポレットを見つけ、暴走を止めたレインニールをジェラールは睨みつける。
「そういうな、ジェラール。レインニールでなければ出来なかっただろう」
アレクシがレインニールを庇う。
「ありがとう、レインニール。被害が最小限度に抑えられたのは良かった」
「いえ、これも仕事ですから」
珍しくアレクシが笑顔を向けるのでレインニールはすっと視線を外した。
「ポレット!」
辺りが落ち着いたことが確認され、エメリーヌが駆けつける。
後ろからコルネイルも走ってくる。
不安げにポレットの顔を覗き込む。
すでに呼吸は安定し、表情も柔らかい。体力の消耗により深い眠りについているようだった。
「エメリーヌ、すまないが暫くポレットを看てくれるか?」
アレクシの提案に彼女は素早く頷き、ジェラールを部屋へ案内すべく歩き出す。
その背を見送ったあと、ややアレクシは顔を強張らせる。
「で、レインニール。ポレットの力の暴走はどうやって止めたのだ?」
「どうと言われましても、表現しにくいですね」
レインニールは依然、アレクシから顔を逸らしたままだ。
「簡単に言えば、私の中に取り込んだという感じでしょうか」
聖女王候補の力を取り込む、アレクシはその言葉に呆れたように深い息を吐く。
そんなことが可能なのかと問い詰めようとして、昔、先代水の礎の力を増幅させたことを思い出す。
「お前というやつは…!」
「そんなことよりも、えいっ!」
掛け声とともにフロランが、レインニールの足を払う。
突然の事で体勢を崩した彼女を、気合の一言を付け加えて横抱きにする。
すっぽりとフロランの腕におさまったレインニールは状況が分からず目を瞬く。
「アレクシ様、お小言は後で受けます。今は勘弁してください」
「フロラン!」
「フロラン様!」
「その場から動けないほど、消耗してるんでしょ?簡単に私の腕に入っちゃって」
ふふふ、とどこか嬉しそうである。
アレクシは先ほどから視線が合わない理由に思い至った。
「どうして早く言わない!」
「アレクシ様が質問攻めにするし、まだ、安定していないから、自分の力も使えないんでしょ?」
図星だったのか、レインニールは何も答えない。
「ひとまず、レインニールを休ませます。良いですね?」
有無を言わせない迫力がフロランにはあった。
「この場の収束はお任せします。コルネイル、手伝って」
「手伝うって、何だよ」
「靴脱いじゃったから、持ってきて」
歩き出したフロランのスカートの裾から靴が転がる。
「俺はヤローの靴を拾う趣味はない」
「私が降ります!」
「だめ、レインニールはじっとしてて」
コルネイルはレインニールの顔と転がったフロランの靴を見比べる。
「あー、もう。分かったよ」
ため息を盛大に吐き出し、靴を拾う。
「てか、お前。何で踵が高い靴を履いてるんだ?」
「だって、ドレスには必要でしょ?」
可愛らしく首を傾げる姿にコルネイルはうんざりする。
「フロラン様、もう大丈夫ですから降ります。靴を履いてください」
「ごめんね。もうちょっと力があったら靴を履いたまま抱えることが出来たと思うのよ」
いや、どうやったって無理だと思うぞ。
コルネイルは思わず胸の内で突っ込んだ。
レインニールの顔が見たこともないほど焦っているので黙っていることにしたのだった。
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