第41話 ポレットの聖女日記・17
お茶会終了後、候補の二人を先に帰し、陛下はレインニールを呼び止めた。
「レインニール、そろそろ最終選考に入りたいと思っているの」
ある程度予想していたのか、レインニールは頷いて同意を示した。
「よろしいかと思います。ポレットもエメリーヌも聖女王として問題ありません」
「それでね」
一度、言葉を区切る。
「レインニールの力を抑えてもらおうと思っているの」
まだ、力の不安定な二人を見守っているのはもしもに備え、控えているからだ。
どう暴走するか分からない。また、力の加減も分からない。
それをレインニールは陰でそっと力を導いていた。
試験の結果を見るならば、余計なものは省かなくてはいけない。
純粋に聖女としての二人の力を確認する必要がある。
「では、私の力は不要ですね」
冷たい物言いに、アデライドが鋭く反応する。
「言葉が過ぎます!」
「レインニールのことがいらないなんて言ってないわ。ただ、力を抑えてとお願いしているの」
「では、役目は終了ということですか?」
「研究員としてのレインニールの能力に期待しています」
アデライドがきつい口調で答える。
レインニールはやや大袈裟にため息を吐く。
「研究員としての能力は必要、ただし力は使うな、そういうことですか」
「聖女王試験には必要なことです。非常時にはお願いすることになると思います」
「レインニール。お願い、困らせないで。私たちは一度だって、あなたを不要だと思ったことはないわ」
「お気持ち感謝いたします。陛下も聖女王が決まるまでこちらと新世界の調和に苦労されていらっしゃいます。お気を付けください」
「もしもの時は、レインニールも助けてくれるんでしょ?」
「勿論です。特に新世界は生まれたばかりで荒々しいところがありますから、とても興味があります」
「例の幽霊にも聖女王試験のことをお願いします」
ふと、テーブルを振り返る。
絵はポレットが持って帰っている。しかし、三人はまだそこにあるような気がした。
同時に陛下もアデライドも自分たちが以前、見かけた彼女の姿を思い起こす。
「分かりました。お伝えします」
レインニールもあの絵を見たのは初めてだった。
もう眠っている者はいない。
三人はそれを知っていた。
「それからポレットの件、レインニールは何も動かないのよ」
陛下の真剣な顔にレインニールは首を傾げる。
「あなたが何かすれば、余計にポレットが傷つきます」
アデライドが付け加える。
レインニールは二人に責められ、驚く。慌てて顔をきょろきょろと動かし動揺する。
「どういう意味ですか?」
「ポレットがフロランに気があるようなの、知ってるでしょ?」
話の意味を理解する。
ポレットは時間があればフロランのところへ行くのを把握していた。
それは聖女王候補として行動が監視されているからだ。
フロランも水の礎として候補たちを受け入れている。不思議はない。
「レインニールと恋人同士なのかって聞かれたそうよ。エメリーヌも聞いてきたらしいけど、それよりその後のポレットの様子が気になるってフロランが報告してきたわ」
確かにカフェテリアで会った際も、自分たちの事を食い入るように見ていた。
今日も質問攻めにあった。
何か、ポレット自身で自分を納得させようとしているのかもしれない。
助けを出そうにもレインニールからでは余計にこじれるだけだろう。
陛下も肩を落とす。
「レインニールとフロランの気持ちも知っているこっちとしてはこんなことしか思いつかなかったわ」
両手を広げる。
今日のお茶会はその意味があった。
少しでもポレットが元気になる様に、レインニールとポレットが親しくなる様に、そう願った会だった。
「余計に、苦しませるのではないですか?」
「だとしても、その心の傷に向き合ってもらわないと前に進めないわ。そうでしょ?」
レインニールは陛下の言葉を受けて目を閉じる。
胸の奥に疼く痛みは全身を震わせるほどだ。
叶わない思いには猛烈に心当たりがある。
『前に進む』
レインニールにとって何よりも深く突き刺さるものだった。
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