第40話 ポレットの聖女日記・16
ポレットはレインニールの気持ちを想像するしかない。
陛下のお気持ちさえも軽んじる。いや、敬うべき陛下からお友達になりたいと言われて簡単に頷きはできないけれど。
フロラン様のお気持ちもきっと知っているに違いない。
会議や集まりがあると必ず、レインニールの隣にフロランがいる。あれだけあからさまな態度を目にして疑う余地はない。
どうしてそんなに頑なでいらっしゃるのかしら。
何かレインニールの態度を崩すことはできないかと思案してもポレットの頭では何も浮かばない。
不満の表情をあらわにしてレインニールに迫る陛下にため息を落とし、アデライドはようやく口を開いた。
「では、こういたしましょう。試験終了までに、レインニールから私たちにお茶会のお誘いをお願いしましょう。礎たちを巻き込んでも構いませんよ」
その提案に、レインニールは目を見開き、他の者は手を挙げて賛成の意を示す。
「レインニール主催のお茶会ね!さすがアデライドだわ」
ばんばんとアデライドの背を叩き褒めたたえる。
「うん、楽しくなってきたわ。試験も終盤に近付くとどうしても息が詰まるもの。息抜きは必要よ」
試験経験者である陛下は自分で大きく頷き、色々と思い出しているようである。
「後は、最近、書庫に出入りしている回数が増えているけれど、何か分からない事でもあるの?」
お茶会だが、候補たちの近況の確認も兼ねていたらしい。
程よく、場が和んだところで陛下は切り出してきた。
ポレットとエメリーヌはお互い顔を見合わせる。
言って良いものか躊躇った。
本当であれば、幽霊の話をしたい。しかし、火の礎ジェラールの件で簡単に話題に出来なくなっていた。
代わりに関連するか分からないが、ポレットは持ち歩いている紙を取り出す。
「実はこれを拾ったのです」
お菓子や茶器の隙間に全員が見えるように置く。
茶色に変色し、色彩もぼやけてしまっているが、そこには二本の虹が描かれてあった。
そして、『虹のふもとに眠るのは だれ?』という文字がかすれながらも確認できた。
陛下とアデライドが一瞬、表情を変えたことに二人は気が付いた。
すぐに笑顔に戻し、陛下はその紙を取り上げる。
「かなりの年代物ね。虹のふもと、ねぇ」
「虹のふもとに宝物が眠る、という話は聞いたことがありますが、人が眠るとは聞きません」
エメリーヌはポレットから相談を受け、あちこちと尋ねたようだった。
しかし、この文章の意味は分からなかった。
「似ているとすれば、虹の向こうには死者の世界があるという話でしょうか?」
ポレットも空いている時間に書庫で調べた。
忙しくてまだ中途半端だったが、自分たちより長く聖域にいる三人はより詳しいのではないかと思われた。
しかし、陛下たちの口は重い。
何度も絵を眺め、日に透かすが答えは出てこなかった。
レインニールは飲んでいた紅茶の器を下ろすとため息を吐くように切り出した。
「書庫の奥には歴代礎たちの日記や使用していた書物、絵画などが保存されています。中には詩集もあります。その一部ではないかと思われます」
「レインニール様は、創作の一部だと?」
「虹を描く際は一本であることが多いように思います。確かに、虹は二本出ます。しかし、肉眼で確認できるのはほとんどが一本。それを二本描いているということは創作である可能性が高いと推測いたします」
確かにレインニールの指摘のとおりである。
昔の礎の手慰みとして書いた詩集が保存され、古くなったため一枚だけ剝がれてしまったのかもしれない。
「もっとも、宝物が眠るのであればその番人がいるのかもしれません」
本気なのか、候補の二人を慰めているのかあいまいな表情でレインニールは締めくくった。
「宝物の番人、ですか。何だか強そうですね」
「虹のふもとにたどり着くのでさえ困難なのに、厳重過ぎるわ」
紙一枚で振り回された二人は思い思いの感想を述べた。
その脇で陛下とアデライドは意味ありげな視線を交わした後、レインニールをじっと見つめるのだった。
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