第39話 ポレットの聖女日記・15
「遅くなりまして申し訳ございません」
いつもと同じ研究員の制服姿で現れたレインニールに陛下は不服の顔を見せる。
「休日くらい、私服で来てよ」
「あいにく持ち合わせておりませんので、ご了承ください」
空いている席にさっと腰かけると、自分で飲み物を注ぎ始める。
アデライドが慌てて手を出すが、お構いなく、と全て自分で準備を整えてしまった。
その態度にポレットは何だか苛立って唇を噛んだが、陛下がいる手前、胸の内に押し込める。
同時に、レインニールの作法が洗練されていて目を奪われる。
そういえば、カフェテリアで見かけた際も、その動作は優雅でくぎ付けになったことを思い出した。
注目を浴びていることに気が付いたレインニールは顔を上げる。
「何か付いていますか?」
「あ、ごめんなさい。違うんです。仕草が綺麗で、つい見とれてしまって」
ポレットの言葉にレインニールは目を瞬く。
「ポレットも気を付けてね。今は良いけど、その内、アレクシから厳しく躾けられるわよ」
代わりに答えたのは陛下だった。
行儀が悪いとアデライドが隣で小さく指摘したが、陛下は両肘をテーブルに乗せ続ける。
「アデライドはご両親から躾けられたから良いのよ。私の両親は放任主義だったから、テーブルマナーなんて教えてくれなかったわ。アレクシは鬼よ、言葉がきついから何度、泣いたことか」
同意を示すようにレインニールが頷くのをポレットは見逃さなかった。
「では、レインニール様もアレクシ様から?」
「私は聖域で過ごしたことがあります。その際、礼儀作法や一般常識などアレクシ様よりご教授頂きました」
珍しくレインニールから私的な情報が出たため、エメリーヌは身を乗り出す。
「聖域で過ごされたのは何かわけがあるのですか?」
「生まれ故郷で育つには難があったからです」
難が具体的に何を示しているのか、教えてはくれないらしい。
中々、詳細を教えてくれないレインニールにエメリーヌは歯がゆい思いをする。
すでに生まれた場所が無くなっていると知っているだけに追及できない。
知らないふりをして尋ねられるほど、器用にはできなかった。
代わりにポレットが質問をする。
「聖域ではどのくらいお過ごしになったのですか?」
「学舎の初等科入学までです。その後は寮に入りました」
どのくらいの年月を聖域で過ごしたのかは濁された。
「先ほどから質問ばかりですがどうしたのですか?」
さすがにレインニールが怪訝な表情を見せる。
「そんなの決まってるじゃない。レインニールが二人と交流していないからでしょ?」
陛下から指摘されたが、首を傾げる。
「交流と言われましても。講義や課題の件では色々とお話しさせていただいております」
「そうじゃなくて、レインニールの好きなものとかプライベートで何をしているとか二人は知りたいのよ」
聖女王候補たちは大きく頷く。
一方、レインニールは困ったように眉をひそめ、納得できない顔をする。
「聖女王試験には関係ありませんが…」
「関係なくても、毎日顔を合わせているのに、試験も終盤というのに、ちっとも距離が縮まってないじゃない」
「試験ですよ、陛下」
冷静に返され、陛下は悔しさのあまりテーブルを叩く。
「もう!レインニールと仲良くしたいの。お友達になりたいの」
「陛下、それは前にお聞きしました」
「そうよ、私が試験中の時にも言ったわ。なのに、今まで一度だってレインニールからお茶のお誘いを受けたことはないわ」
ポレットとエメリーヌは顔を見合わせる。
どうやら陛下はレインニールの態度を少しでも改めさせようと躍起になっているらしい。
幼子のように駄々をこねているが、いつもなら止めるだろうアデライドは静かに紅茶に口を付け、我関せずを貫いていた。
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