第38話 ポレットの聖女日記・14
試験も終盤に近付いたころ、聖女王とその補佐官にお茶に誘われた。
『女の子だけでお茶会しましょ』
と陛下からウインクとともに言われたら断ることが出来なかった。
場所は陛下のプライベートスペースだった。
いつもはドレス姿だが、ワンピースに着替え身も軽くしている。
ウッド調のテラスに白いパラソル付きのテーブル、茶器は白地に赤い花が縁取り、薫り高い紅茶が注がれる。
所狭しとケーキや焼き菓子が並べられ、見ているだけでポレットは頬が緩む。
「焼き菓子はアデライドの新作よ!感想をお願いね」
「えぇ、できれば具体的にお願いしますわ。陛下は美味しいしか言ってくれませんからね」
「他にも言ってるわよ。イチゴが入っているわね、とか茶葉が練り込まれているのね、とか」
「使っている材料ではなく、入っていることでどう感じるかを知りたいんです」
陛下と補佐官アデライドがまるで親しい友人のように言葉をかけ合う姿にポレットとエメリーヌは眩しそうに微笑む。
「レインニールは遅れると連絡がありました」
「最近は時間が空くと支部にすぐ戻るんだから」
陛下は自分より支部の仕事を優先されたと頬を膨らませる。
その横でアデライドが肩を落とす。
「仕方ありませんわ。もうずいぶん、支部を空けていますから気になることもあるのでしょう」
ここでもレインニールは噂の人である。
私的な交流が少ないためか、いろいろな憶測を立てるのだろう。それが行き交い、おかしな方向に行くのかもしれない。
エメリーヌはちらりとポレットを見たが、視線を陛下へ向ける。
「レインニール様は支部長に就いてすぐ、聖女王試験に補佐としてこちらに来られたそうですね」
やや声を落としてしまうのは、慎重になるからだろう。
「もともと、レインニールは私たちの聖女王試験も補佐として参加することになっていたのよ。聖域に顔は出してくれたけど、常駐はしてくれなくて、依頼してもそれを拒否して辺境周りをするから、私が就任した後すぐに呼び寄せたの」
「はじめは聖域に、という話でしたが、何を言っても拒絶するので妥協して今の支部に入ってもらいました。私たちが呼べば聖域に来てくれますが、長居はしてくれません」
陛下とアデライドは落胆しているようだ。
「聖域がお嫌なんでしょうか?」
ポレットの何気ない問いに、陛下は首を振る。
「そうでしょうね。今はまだ、それ以上、言えないわ。ごめんね」
悲し気な顔をされ、エメリーヌも落ち込む。
「申し訳ございません。学舎で色々な噂を聞いてしまい、本人には聞くことも出来ず、つい」
「レインニールに興味を持ってくださるのはとても嬉しいわ。中々、打ち解けてはくれないけれど味方にすれば、何よりも心強い人よ。陛下も私も頼りにしているわ」
「そうなのよ。やっぱり、敵わないのよね。アレクシもフロランもレインニールを信頼しているし、研究員の幹部もレインニールに恩を感じている人ばかりなのよ」
陛下がレインニールに敵わないと思っているとは由々しき事態なのではないか?と候補の二人は不安になる。
そして、フロランの名前にポレットはため息を隠す。
前に聞いたフロランの告白がまだ胸につかえている。うまく消化できないで重く残っている。
「ほら、ポレット。イチゴは好き?こちらのミルフィーユ、食べてみて」
陛下が切り分けられたケーキを差し出す。
幾層に重ねられた生地の間にクリームとイチゴが見える。
脳裏にはまだあの衝撃があったが、ミルフィーユを口に含むとそのカスタードクリームの甘さでいくらか飛んでいった。
勧められるまま食べることに集中する。
そのため、他の3人がじっとポレットを眺めていることに気が付かなかった。
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