プロローグ・人知れず公演は続く【2】
「そこの若者たち」
街を警戒しつつ練り歩いていると突如として声をかけられた。ピリッとした緊張感が走り、腰に下げた武器に手が伸びる。
いつでも抜ける状態にしわたしたちは振り返ったが、目の前には鋭い爪が迫っていてわたしは情けない悲鳴を上げながら咄嗟にしゃがんで攻撃をやり過ごした。
「何やってるんだ!」
「も、申し訳ねぇ…!」
恐ろしいスピードだった。瞬きをする間に距離を詰められていたなんて…。ヴァンパイアの固有能力だろうか?
レーンに文句を言われつつもアッシュとクレアの2人が双剣と二丁拳銃で先にヴァンパイアへの攻撃を行っていることからクレアはすでに周囲に『結界』を張っていた。
彼女の異能力、それは外部の視線を遮断し、一般人が無意識に立ち去るよう促す効果がある。また建物への損傷も最小限に抑えるため、銃撃や火炎といった激しい戦闘も許されるのだ。
「ッ━━━テメェら! ガーディアンズの〈ヴァンパイアハンター〉か!!」
「よく知ってるな。だがこれでテメェも年貢の納め時だ…!」
「灰燼に帰せ!」
アッシュの
「チッ! 外した! レーン! 足止めしろ!」
「言われなくても…!」
大鎌をヴァンパイアに向かって振り下ろすレーン。巨大な得物だったためか躱すのは容易と考えたのかヴァンパイアは余裕ぶって躱しレーンの腹部目掛けて蹴りを入れた。
咄嗟に大鎌の柄の部分でヴァンパイアの足を受け止めたレーンは土埃を上げながら後退し、追撃をしようとするヴァンパイアを屋根の上からクレアが銃撃し、再び距離が生まれた。
「そこっ!」
カァァッ、と熱くなる目。
ヴァンパイアはその場に足から釘を打たれたように動けなくなった。
「何!?」
「喰らえッ!!」
とアッシュの
「ア、ガァ…ッ!」
肉を焼く臭いがする中で、レーンもまた
「いいところなかったユキシアに譲ってやるよ」
「……ドウモ」
ちゃんと動き止めたじゃん…、と複雑な気持ちになりながらも、わたしは左腰に下げた刀を鞘から抜いてアッシュが空けた炎の渦の隙間から中に入る。当然だが中は灼熱地獄。
普通の人間が立っていられるような場所ではない。それでも炎上する肉体を動かす怪物がそこにはいる。
「これで…終わりだよ!」
刀を構え右に振り下ろし、腕を斬り落とす。自己治癒には時間がかかることだろう。そこをついてわたしは心臓を一突きしてヴァンパイアを殺した。
ヴァンパイアは音もなく突きさした心臓から徐々に灰になっていき、最後に核を残し消えた。
「ふぅ…」
「おっ、終わったかー?」
「…うん(慣れないなぁ…まだ)」
未だに慣れない。ヴァンパイアハンターになる道も、人の形をした知性のあるモノを殺すことに。
目の前にいるアッシュたちはわたしを労ってくれる。無邪気にも同期であるわたしの手柄が嬉しいのだろう。彼らからしたらヴァンパイアという生き物は害獣そのもので、そこに人格があることなどは些細な問題なのだ。
「よーっし帰ろぜ~」
「ちょっと待って。核の回収しなきゃ」
ヴァンパイアの心臓には『核』と呼ばれる因子がある。この因子を回収しないとヴァンパイアは何度でも蘇り再び人を襲う。この『核』の活動の抑制をするのが錬金術で作られた特殊な銀を使った武器、スティグマ・ギアを用いて戦う。
そしてもう一つわたしたちには普通の人間が持ちえない武器がある━━━それこそがヴァンパイアハンターを生業にする異能力━━━ギフトだ。
アッシュの炎を操る力もレーンの風を操る力も、クレアの人避けの結界も、わたしの相手をその場に釘付けにした力もすべて
そしてこの
わたしの
【アミュレットナイト・サーカス】はガーディアンズの組織の一つ。ガーディアンズ以外にメンバーもいる。これはある意味サーカス団ならではでガーディアンズ本部からも一般人の専門職を雇えとお達しがある。
【アミュレットナイト・サーカス】自体は今年7年目のサーカス団なこともありやっと安定して来たとも言える。
「新人ちゃんたちお帰り」
「イゾルテさん…! ちわっす!」
「よしよし。今日もいいワンコだこと」
出迎えてくれたのはイゾルテ副団長。柔和な雰囲気のある大人な女性で、大規模な戦闘になると
ただこの
━━━だから【アミュレットナイト・サーカス】は夜にしか公演をしないのだ。
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