あなたがいないと生きられない(2)
「ただいま帰りました」
「
「あ、はい」
こういう時、私は困る。自分の家とは思えないこの家に帰ってくることも、それを迎え入れられることも、慣れないし違和感があるし落ち着かない。
それ以上何も言えないままここにいることもできなくて、階段を駆け上がった。どうしようもない、私はいつも、どうしようもない。優しくしてもらっても、上手く受け取れない。
「絃ちゃん」
「
「明日さ、一緒に学校行かない? せっかく同じ家から同じ学校に行くんだしさ」
嫌だ。絶対嫌。なんでわざわざ登校するのまで一緒じゃないといけないの。ただでさえ、同じクラスで嫌気がさしてるっていうのに。
「わかった……」
陽葵は、私に罪悪感を持っているみたいで、嫌だ。息が詰まる。自分の姉のしたことを、止められない自分を責めて、見ていないところで私に優しくしようとする。罪滅ぼしのつもりなんだろうか。私は別になんとも思っていないのに。何も求めてないのに。
でも、今は、姉を亡くしたという状況でもあるから、私の方も優しくした方がいいだろうか。
「今日なんか良いことあった?」
「別にないけど。てかもういいでしょ。部屋入りなよ」
この家に来て、まずバイト禁止を言い渡されて、大学進学を約束させられた。別に行きたくもないのに。万人が万人同じ選択をするわけじゃないのに、多数派は偉そうだ。普通を通ってきた人はいつもふんぞり返っている。
「絃ちゃんおはよう」
「おはよ…」
ああ、そうだ。一緒に学校行くんだったな。面倒だけど、上手くやるためのひとつの手段だから、仕方ない。
「絃ちゃん、
朝のみならず昼まで誘ってくるなんて、なんて物好きな。結愛と来緒というのは、いつも陽葵が一緒にいる友人だ。私にとってもクラスメイトではある。
私を敵視する姉がいなくなった今、堂々と仲良くできるとでも思っているのだろうか。
「二人は嫌じゃないの?」
「なんで? そもそも、言い出したのも来緒ちゃんだし」
「とりあえず、今日、お試しで。どう?」
なるほど。今日限定の話でもないのか。まあ、女子同士の世界はそんなもんか。むしろ、こんな時期に輪に入れるなんて幸運と思う人もいるのだろうか。
「……わかった。じゃあ今日お試しで」
ダラダラと準備して、それでも時間通りに家を出た。準備時間はそれほどかからない。陽葵の方は、髪を結うのに随分と時間をかけてたけど。
「いってきます」
陽葵の声に便乗してろくな発音もせずに家を出る。奥から、おばさんのいってらっしゃいが聞こえる。
学校までの道を、陽葵のクラスメイト小噺をBGMにしてのんびり歩いた。
「おはよう!」
元気な声が聞こえて、思わず後ずさる。仕方ないと思う。このテンションはなかなかついていけるものではない。陽葵は呑気におはようと返しているけど。私にはどちらも理解ができない。
「あ、
「捕まっちゃった?」
「お昼の犠牲者に推薦しておいたから」
マイペース丸出しに登場した十朱さんは、何をもって私の名前を出したんだろう。一人だったから? 陽葵と私が親戚だから?
「なんで私なの」
「テンションが近そうだと思って」
なるほど。それはちょっと分かる。十朱さんも、二人のテンションについていけないから、同じくらいついていけない私が巻き込まれたのか。
「嫌だったら別に逃げてもらってもいいよ」
「嫌だけど逃げるほどでは」
「わかる。逃げるのも疲れるしね」
そう思うのなら、私を巻き込まないでほしいんだけど。と言っても無駄なんだろうな。嫌われてなさそうなのが少し意外で、拍子抜けしたけど。
「認識されてないと思ってた」
「それはないでしょ。嫌がりそうだけど怒らなそうだから、巻き込んでみた」
嫌がることは予想ついてたのか。怒らなそう、そうか。周りからはそう見えてるんだな。
確かに、あまりよく怒るタイプではない、かな。というより、誰かに怒ったりするほど人と関わりを持ってないだけな気もするけど。
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