第5話 万物の根源は数5

「それで、その秩序とあの化け物がどう関係してるんだい?」


「要するに、あの化け物は数字が具象化したもの。しかも私たちがしっかりと答えを教えてあげないと、自分の居場所に帰れなくなってしまうの。」


「ちょっと待って!数字が具象化?そんなことあり得るか?」


「実際に数渡君を襲ったっていう生き物は数字が具象化したものなんだよ。その証拠に、答えを教えてあげた瞬間に消えちゃったでしょ?だから、私たちはあのへんてこな生き物の事を〔数の化身〕って呼んでる。でも、数字が具象化したっていうと語弊があるかな。証明問題とかも時々出てくるから。正確に言うなら人間の概念が具象化したものかな。」


 数渡は明の話に全然ピンとこなかった。そんな数渡の様子を見て、明はこんな質問を数渡に投げかけた。


「数渡君って、神様は本当にいると思う?」

「いないと思う。」


数渡は答えた。


「じゃあ本当にいたらどうする?」


「いないよ。だって神様は人間が生み出した概念じゃないか。」


「どうも数渡君は頭が固いよね。そんなんじゃほんとに信じてる人に怒られちゃうよ。でもね、私も驚いたんだけど、人間が単なる概念だと思ってるものは実際に存在する。神様はどうだか分からないけど、数っていう概念は実体として存在するんだ。」


 数渡はまだすべてを信じることはできなかった。だが、まだ聞きたいことがあるので、とにかく話を進めなければならない。


「それで、どうして問題を解かなければならないことになるんだい?」


「それは、さっき言った通り。〔数の化身〕が自分の居場所が分からないままでいると困ったことになるもの。」


「困った事?」


「世界が滅ぶ。」


「そんな馬鹿な!」


数渡は大声を上げた。周りの人の視線を感じて恥ずかしくなり、身を縮める。


「まあまあ、落ち着いて数渡君。確かにびっくりするような話だけどこれは理にかなってるんだよ。」


 一体どこがどう理にかなっているのかさっぱり分からなかったが、数渡はひとまず明の次の言葉を待った。


「〔数の化身〕に答えを教えてあげないと、彼らはずっと自分の居場所が分からないままだよね。そうすると、さっき話してた秩序が崩れてしまうんだ。つまりこの世のものが正しく数字で表せなくなる。分かりやすく言うと〔1〕が〔1〕じゃなくなる。そうなるとこの世のものは存在できなくなってしまうらしいんだ。ちなみにそうなる前の予兆も、向こうの世界にははっきりと現れる。原因不明の地震だとか異常気象って形でね。」


 数渡は明の話を黙って聞いていたが、理解できないことが多すぎて、もはや理解することすら諦めていた。明の話を要約すると多分こうだ。この世界には、数や数学的概念といったものが具象化して存在する。それらは問題を解いて、居場所、というか住処というのか、を教えてあげないといずれ世界を崩壊させてしまう。要するに困った迷子なのだ。そのために、ここの人間は命がけで数学の問題を解いている。まあ確かに、世界一つ救うためだ。人の命一つぐらい安いものかもしれない。ところで、ここまで聞いても数渡には理解できないことがまだ残っていた。数渡はその質問を明に訊いてみた。


「それで、僕は数学が得意でもないし、好きでもない。別に世界を救う救世主にもなりたくない。どうして僕はここに連れてこられたんだろうか?」


 明はその質問に対し、困った顔で笑った。


「さあ。それは君を連れてきたマスに直接聞いてみたらいいんじゃないかな?」


「そっか・・・。」


数渡はそう言って少しの間、黙り込んだ。

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