第4話 試験は本当の数学ではなく、技巧的なゲームに過ぎない3
数渡が目を開けた時、視界には真っ赤に輝く長い長いポールのようなものが百メートルほど離れたところに見えた。蛍光灯のような光を放っており、直視していると目がずきずきしてくる。数渡は大層不思議な気持ちになった。百メートルほど離れたところにあるポールのようなものは、長すぎて上も下も数渡の視界には収まりきらない。
こんなに長いものを数渡は生まれてから一度も目にしたことはなかった。何とかその先端を確認しようと体をのけぞらせてみる。
すると数渡の頭上三百メートルぐらいのところに、水平に長い同じようなポールが二本確認できた。縦に長いポールを含めた三本の赤く輝くポールは、それぞれが垂直に交わっている。三本のポールが交わっている場所は、直視できないほど真っ赤に輝いていて、数渡に小さな太陽を連想させた。
不思議なことは他にもあった。数渡がいるこの場所には、赤く輝く三つのポール以外何もなかった。本当に何もない。人が何もないという時、大抵の場合そこには何かが存在する。樹であったり、草原であったり。しかしそこには地面さえなかった。数渡は宙に浮いたような状態で不思議な空間を漂っていた。空気はないのかと言われれば、それはあるのだろう。
数渡は自分の浅い呼吸を聞きながら考えた。他にも自分が何もないと思っているところには何かがあるのかもしれない。その何もない空間は、途方もなく白かった。ただ白いだけの空間であるので、奥行きさえも測れない。一体どこまでこの空間は続いているのだろうか。周りが白い分、真っ赤なポールががんと目に入ってくる。その輝きで目が焼けてしまいそうになるぐらいに。
数渡の心は意外なほど落ち着いていた。汗は引き、心臓の鼓動は止まってしまったのかと思うぐらい静かでゆっくりだった。数渡は自分の落ち着きについて考えてみた。
仮に自分の頭の中に柵で覆われた領域があるとする。許容範囲とか理解の及ぶ範囲とかそういったものだ。人間はこの柵をぐいぐい押し広げていろんなことを知っていくのだろう。時に、それには驚嘆とか畏怖とかが付きまとう。ガリレオの地動説というのは良い例だ。昔の人は地球こそが宇宙の中心だと信じていたから、地動説という新しい境地に踏み入れることに畏怖を覚えただろう。人は自分の常識が崩されることを怖いと思うものだ。自分だって幼いころに女性にはペニスがないのだと初めて聞かされた時には内心仰天してしまい、その事実を怖いと思った。数渡はここ数日の事を考えた。
ここ数日で起きた怪奇現象とも呼べる様々な出来事は、数渡の頭の中の柵をずぼっと引き抜き、かなり範囲を広げたところに再び柵を築いた。数渡は驚きと畏怖の気持ちでいっぱいでついて行くのがやっとだった。しかし今度のこれは違う。頭上の空からユーフォーキャッチャーのアームのようなものが降りてきて柵の中の数渡をつかみ、どこへともなくゆらりゆらりと数渡をさらっていく。そうして柵から数十キロも離れたところで数渡は降ろされる。数渡は驚嘆することも、畏怖を感じることもなくただ茫然とするしかないのだ。
数渡が前方にそびえるポールを注意深く観察していると、背後に何かの気配を感じた。数渡は地に足がついていないので、体を回転させて振り返る。心臓が凍り付いた。
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