第十七章:宿命の姉妹、その名はペイルライダー/01
第十七章:宿命の姉妹、その名はペイルライダー
「さあ来いレイラ! レイラ・フェアフィールドォォォォッ!!」
「ッ――――!!」
ベネリとキンバー、二人の向け合った銃口はほぼ同時に火を吹いた。
レイラの構えたベネリからはダブルオー・バックショット散弾が、ミリアが右手に握り締めるキンバーからは四五口径ACP弾がそれぞれ撃ち放たれる。
それに対し、レイラは最小限に身を捩ることで、ミリアはバッと大きく横に飛ぶことで回避してみせた。
逃げるミリアを銃口で追い、レイラのベネリM4がズドンズドンと続けざまに火を噴く。
だが、それに対してもミリアは身軽にステップを踏むことで回避し続け、その合間にキンバーを連射することで逆にレイラを追い詰めていく。
「っ……!?」
そんなミリアの銃撃を、レイラもまた走りながら避けていたが……しかし飛来した四五ACP弾が一発、ベネリの機関部に食い込んでしまった。
着弾の衝撃で思わずパッと放したレイラの手から、傷付いたベネリM4が転がり落ちる。
見ると……機関部を側面から殴られていた。ドングリのように太く大きい四五ACP弾がここまでめり込んでしまえば、もうベネリは使い物にならない。
「やるわね……!」
自分の手札を見事に一枚減らしてみせた妹に対し、レイラは素直な称賛の言葉を口にしながらバッと飛び退き、一度手近な柱の後ろに身を隠す。
「はははっ、遅い遅い! なぁ姉さん、アンタのウデ、
そんな中、ミリアもまた別の柱の陰に身を隠していて。弾を切らしたキンバーを再装填しながら、そんなことをレイラに叫んでいた。
「言ってくれるわね……!」
ミリアの声を聴きながら、レイラもまた懐から愛銃アークライトを抜く。
アークライトとキンバー、奇しくも同じ1911ベースの自動拳銃だ。違いがあるとすれば一点物のカスタムガンと量産品、三八スーパー弾と四五ACP弾というぐらい。
そんなそれぞれの得物を手に、レイラとミリアは互いの間合いを測り合い……そして意を決すると、ほぼ同時にバッと柱の陰から飛び出していた。
「さあ来なさい、ミリア……!」
「来いよ姉さん! アタシが相手だァッ!!」
互いに逆方向に走りながら、大きく円を描くように走りながらの、銃撃の応酬。
ズドンズドンと撃ち放たれる、三八スーパー弾と四五ACP弾。互いの放った銃弾はそれぞれ至近距離を掠め、時には頬を浅く切り裂き、時には髪の傍を掠めては、パッと僅かに髪の欠片を舞い散らせる。
手数の上では、装填数の多いレイラの方が有利だ。通常の四五ACP弾仕様の1911ならば、弾倉容量は八発。それより小口径の三八スーパー弾を使うレイラのアークライトに関しては、一発多い九発の弾倉容量だ。
だから、手数という面ではレイラの方が有利だったのだが……しかしミリアは素早い再装填でそれを補い、彼女と互角に立ち回ってみせていた。
「ふっ……!」
「ヘヘッ……!!」
そうして回りながら撃ちまくる二人の距離は、段々と近くなっていく。
最初は大きかった円の直径も、段々と小さくなり……やがて二人は至近距離にまで接近すると、ほぼ同時に次の一手を打っていた。
「ハッ……!」
「らぁっ!!」
レイラが左手で作った手刀と、ミリアの振り上げた右脚とがほぼ同時に互いを襲う。
すると、ミリアの脚はレイラのアークライトを蹴っ飛ばし、逆にレイラの手刀はミリアのキンバーを捉え、それぞれの得物を床に吹っ飛ばしてしまっていた。
そうして互いに得物を失えば、すぐさま格闘戦に移行。ミリアは蹴り技主体で、そしてレイラは防御からのカウンターを主とした戦い方で、互いに拳と拳を交え合う。
「はっ……!」
「フッ! ハッ! でりゃぁぁぁっ!!」
「っ……!!」
「そらそらそらそらァッ! どうしたどうしたァッ!!」
「この……っ! 調子に乗って……っ!!」
嵐のようなミリアの回し蹴りのラッシュを捌きつつ、隙を見て掌底や肘打ち、足払いを仕掛けるレイラ。
それをミリアは的確に受け流しつつ、アッパーカット、フック、ストレートと両腕をフルに使った殴打を放つ。
レイラは上手く受け流しつつ、ミリアの右腕を掴んで関節を極めようとするが……ミリアはそれを聡く察知し、すぐさま脱出。バックステップを踏んで小さく距離を取る。
バンッと踏み込んで、間合いを取ったミリアの懐に潜り込み……レイラは素早い変幻自在の拳で彼女を翻弄。そうしてミリアの注意が散ったところで、必殺のチョップを両手で首元目掛けて放つ。
当たればかなりの致命傷だ。だがミリアはそれを察知し、ギリギリのところでレイラの両手首を掴んで防御。そのまま彼女の足を払ってバランスを崩させると、力任せに彼女の身体を放り投げた。
「うらァァァァァッ!!」
ミリアの雄叫びとともに、レイラの身体が宙を舞う。
危うく壁に激突するところだったが、レイラは上手く空中で身を捩って姿勢を整え、無事に着地。そうすれば再び拳を構え直し、ミリアと相対する。
(……流石ね、ミリア)
(流石だぜ、姉さん)
そうして互いに睨み合いながら、レイラとミリアはお互いの技量を内心で認め合っていた。
――――互角。
今までの戦い、特に徒手格闘戦に於いて、ミリアはレイラと互角に立ち回っていた。
普通なら考えられないことだ。相手の動きも何もかも、目で見なくても肌で察知できるレイラを……尋常ならざる気配察知能力を有した彼女を相手に、ここまで互角に立ち回れるなんてことは普通あり得ない。
だが……相手は他でもないミリア・ウェインライトだ。彼女の格闘技術も、射撃技術も。およそ戦いにまつわるありとあらゆる技術は、全てレイラが叩き込んだもの。故に、互角に立ち回れてもおかしくはない。
実際こうして直に手合わせするのは、果たして何年振りのことだったか……。ミリアは昔と同様の、レイラと施設で過ごしていた頃の強さを保ったままだった。
「ヘヘッ……! 面白え、面白えぜ!」
ミリアはニヤリと犬歯剥き出しの獰猛な笑みを浮かべながら、右手を腰に走らせ……ジーンズのポケットから抜いた折り畳みナイフをバチンと起こしていた。
だが、そのナイフは単なるナイフではない。カランビット・ナイフという特殊な形状の戦闘用ナイフだった。
――――カランビット・ナイフ。
東南アジアを起源とした、特殊な形状の戦闘用ナイフだ。その源流には諸説あるが、農民が使っていた収穫用の鎌を戦闘用に転じた……という説もある。
その説の通り、ミリアが抜いたカランビットの刃は鋭く湾曲した、まるで猛獣の爪のような……それこそ鎌状と喩えるに相応しい刃だ。
グリップの底には人差し指を通すための大きなリングもあり、ミリアはそのリングに指を通し、逆手でカランビットを握り締めている。
ミリアの抜いたそれは、数あるカランビットの中でも最高峰と名高いエマーソン社製のスーパーカランビット。少なくとも、折り畳み式としては最高クラスの代物だ。
カランビットは戦闘用としては強力の一言だが、その使い勝手には癖があり……使いこなすには、相応の技術が要る。
だが、ミリアが優れた使い手であることをレイラは誰よりも心得ていた。何せ彼女にカランビットの使い方を教えたのは……他ならぬ、レイラ自身なのだから。
故にレイラは油断せず、自分も懐からマイクロテック・ソーコムエリートの折り畳みナイフを抜く。
バチンとブレードを起こし、そのままクルリと回して右手で逆手にナイフを構える。
そうして一定の間合いを保ったまま、睨み合うこと数秒――――先に仕掛けてきたのは、ミリアの方からだった。
「らァァァァァ――――ッ!!」
ダンッと踏み込み、弾丸のような勢いで懐に飛び込んでくるミリア。
そんな彼女に対し、レイラは回避で応じる。
振り上げたカランビットの刃がひゅんッと空を切り、レイラの眼前を過ぎ去る。
レイラは振り上げたミリアの右腕を自分の左腕で捌きつつ、スッと身を低くして右手のナイフを横一文字に閃かせるが……しかしそれは、ミリアの左腕で払われてしまう。
続く袈裟懸け、横一文字、下からの斬り上げといったミリアの猛攻を、レイラは両腕を使って上手く捌いてみせる。
逆にミリアの方も、レイラが繰り出す横一文字、横腹を狙った刺突、関節を極めつつの攻撃、ナイフを瞬時に順手に戻しての刺突や斬撃などの攻撃を、ひとつひとつ上手く捌いていた。
互いのジャケットが浅く斬られながらも、互いにナイフを握り締めた右手を外へ外へと払い合う。
類い稀な技術を有した二人、ペイルライダーの暗殺者同士の熾烈なナイフファイトは、斬り付けては払われての繰り返しで……半ば千日手の様相を示しつつもあった。
だが――――そんな戦いにも、いつしか終わりは訪れる。始まりあるもの、必ず終わりがあるように……永遠に終わらぬ千日手と思われていた熾烈なナイフファイトにも、いつか終わりは訪れるのだ。
「ふっ……!」
「ヘヘッ……!!」
ギィンっと甲高い音が木霊して、レイラのソーコムエリートとミリアのスーパーカランビット、二つの刃が真っ正面から激突する。
顔をしかめるレイラと獰猛に笑むミリア、互いに一歩も引かぬ鍔迫り合いの状況下。激突した刃同士がジリジリと鈍く擦れ合う中、レイラは不意を突いてチェック・メイトを掛けに行った。
「うぎっ!?」
戦いの最中、ミリアの鈍く短い悲鳴が響く。
ニヤリとするレイラと、そんな彼女を睨み付けるミリア。見ると……レイラの右足が、ミリアの左足を強く踏み付けていたのだ。
「大技ばかりで足元がお留守なのは悪い癖よ。変わらないのね、そういうところ」
「ほざけ……ッ!!」
不敵に笑むレイラに凄みながら、ミリアは必死に左足の拘束を脱しようとするが……しかし、どうやっても離れない。
ミリアの左足は、踏み付けるレイラの右足によって文字通りの釘付けにされてしまっているのだ。
そうして、ミリアの注意が足元に逸れたところで――レイラは今まで敢えて遊ばせていた左手を、ミリアの右手へと伸ばした。
「ふっ……!」
ミリア・ウェインライトの晒した大きな隙を突いて、レイラは瞬時に彼女の手からカランビットを取り上げる。
「んなくそ……ッ!!」
そうして彼女の手からカランビットが弾き飛ばされた瞬間、ミリアもまた動いていて。同じような動きで左手をレイラの右手に走らせると、彼女の手からソーコムエリートを弾き飛ばしてしまっていた。
「ッ! やるわね……!!」
「負けられっかよ、アンタにだけはァッ!!」
叫びながら、飛び退いたミリアは強烈な回し蹴りを放つ。
レイラはそれを右腕の甲で受け止めつつ……しかし威力があまりに強すぎて、衝撃を殺しきれずに小さく吹っ飛んでしまう。
そんな風に彼女が吹っ飛んだのを見て、ミリアは傍に落ちていた自分の拳銃、キンバー・カスタムTLEⅡを拾おうと身を屈めた。
「遅い……!」
だが――――レイラが吹っ飛ばされた先にも、彼女の愛銃たるアークライトが落ちていて。レイラは吹っ飛ばされた勢いのまま床に背中を叩き付けると、寝転がった格好のままでアークライトをサッと右手で拾い上げ……その銃口を、ミリアへと突き付ける。
そうしてレイラが銃を突き付けたのは――――ミリアが自分の拳銃を拾うよりもずっと早く。自分が完全にチェック・メイトを掛けられたと気付いたミリアは、キンバーを拾い上げようと膝立ちになった格好のまま……しかし右手に握り締めた愛銃をそれ以上動かせぬまま、ただ硬直するしかなかった。
――――この熾烈な戦いを、ギリギリのところで制したのは……レイラの方だった。
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