第十七章:宿命の姉妹、その名はペイルライダー/02

 拾い上げた膝立ちの格好のまま硬直するミリアと、そんな彼女の元に立ち上がって近寄っていくレイラ。

 どちらが勝者で、どちらが敗者かは決まった。勝負は着いたのだ。

 もし少しでも右手を動かせば、レイラはミリアを撃ち抜くだろう。ミリアがどれだけ早く動こうと、彼女が構えて引鉄を引くよりもずっと早く……レイラの指は、引鉄を引いている。

 ――――この勝負、レイラの勝ちだ。

「……負けたよ」

 それを悟り、自分に突き付けられたアークライトの銃口をチラリと横目に見上げると、ミリアはフッと笑い。そう呟きながら、そっと銃から手を放した。

 ゴトンと重い音を立てて、彼女の手から滑り落ちたキンバー・カスタムTLEⅡが床に転がる。

「勝負はアンタの勝ちだ。…………さあ、とっとと殺してくれ」

 そうすれば、次にミリアの口から出てきたのはそんな言葉で。ミリアは諦めたように自嘲じみた笑みを浮かべつつ、そっと瞼を閉じていた。まるで、訪れる死を受け入れようとするみたいに…………。

 レイラはそんな彼女を見下ろしつつ、右手のアークライトを構えたまま……その引鉄に人差し指を触れさせたまま、そっとミリアに呟いていた。

「…………あの日、私は恭弥に返り討ちに遭って、そのまま彼に拾われた。ミリアのことは気になっていたし、助けたいと恭弥に何度もお願いした。けれど……無理だった。私には貴女を救えなかった。

 私は、諦めていた。後悔もした。大切な妹を守れなかったと、私はずっと……後悔し続けていた」

 ――――だから。

「だから――――私には出来ない。折角また会えた貴女を、大切な妹を……ミリア・ウェインライトを殺すことなんて」

 言って、レイラは引鉄から指を放し。そのまま銃口をそっと下ろしてしまった。

 親指でサム・セイフティを押し上げ、安全装置を掛けたアークライトを懐のショルダーホルスターに収める。もう戦う意志はない、殺すつもりはないと、暗にそう告げるかのように。

「――――どうしてだ、どうしてなんだよ……姉さんっ!!」

 そんな彼女に対し、ミリアは血相を変えて叫ぶ。

「アンタが勝者で、アタシが敗者! 勝者は敗者を殺す……それがアタシらの生きる世界だろ!?」

「……私はもう、そんな世界はうんざりなの。私はこれ以外の生き方を、殺し殺されの日々以外の生き方を見つけた。だから……私が銃を握るのは、今夜が最後なの」

「戦うことだけがアタシたちの、ペイルライダーの存在意義だろ!? それを……それをアンタは捨てるのか!?」

 目を血走らせて叫ぶミリアを見下ろしながら、目を細めたレイラは……何処か悲しそうに彼女を見つめながら、そっと囁くように答えた。

「――――私はもう、ペイルライダーじゃない。プロジェクト・ペイルライダーで生み出された暗殺者としての私は、あの日、秋月恭弥に殺されたの。

 だから……今の私はセカンドじゃない、ただのレイラ・フェアフィールド。秋月恭弥の一番弟子で、あの子の……久城憐の、守護天使なのよ」

 そんなレイラの答えに、ミリアは「くっ……!」と悔しげに唇を噛む。

 すると、レイラは手を伸ばし、彼女の頭をそっと撫でた。

 指先に触れる金髪の感触、指に絡みつくきめ細やかな細い髪の感触は……あの頃と、何も変わらない。

 目を細め、ミリアの頭を優しげな手つきで撫でながら、レイラは彼女に諭すような口調でそっと囁きかけた。

「ミリア、貴女も別の生き方を見つけなさい。ペイルライダーの暗殺者・トゥエルヴとしての貴女じゃなく、ミリア・ウェインライトとしての……私の大切な妹としての、貴女自身の生き方を」

 レイラに頭を撫でられ、穏やかな口調で諭され。ぐっと唇を噛んでうつむくミリアの、震える彼女の口から出てきたのは「……出来ねえよ」という、絞り出すような声での呟き。

「…………出来ねえよ、出来ねえよそんなの……今更、トゥエルヴ以外の生き方なんて………………っ」

「出来なくても、やるしかないの。私は今日、この日を以て貴女をペイルライダーの宿命から解放する。その後の生き方は、貴女自身が決めなさい」

「ふざけんなよ……そんなの、無責任だろ……?」

 いつしか瞳を震わせていたミリアの、涙の滲む声。

 それにレイラは「そうね、無責任だわ」と微笑みながら答え、彼女の頭から手を放すと……続けて、こう言った。

「でも、私が貴女にしてあげられることは、これぐらいしかない。それが嫌なら銃を取りなさい。それが貴女の意志だというのなら……私は今度こそ、貴女を撃つ。ミリアがそれを望むのなら、私は貴女を十二番目のペイルライダー、トゥエルヴとして殺してあげるわ」

 言って、レイラは再び懐のアークライトを抜く。

 そっと銃口を突き付け、選択を迫るレイラ。

 一瞬、ミリアは床に転がる自分の銃を、キンバーを取ろうとした。

 だが――――ミリアは、その銃を取れなかった。

「……そう」

 レイラはそんな彼女に微笑みかけ、アークライトの銃口をスッと下ろし。そして微笑みながら、ミリアに言った。

「――――――それが、貴女の意志なのね」

 そう言って、レイラはアークライトを片手に独り、歩き出していく。

 彼女が向かう先は、この先の社長室……ミリアにとってのマスター、エディ・フォーサイスが待つ社長室だ。

 ミリアは、彼女を止めるべきだった。マスターの生命いのちを脅かす者は、何人たりとも排除する。自らのマスターにのみ忠誠を誓い、何があってもその命令を遂行する。それがペイルライダーたる彼女に課せられた使命であり、唯一絶対の存在意義レーゾン・デートルのはずだった。

 それでも、ミリアには彼女の後を追うことは出来なかった。遠ざかっていく彼女の背中に、銃を突き付けることも出来ない。

 だからミリアはそのまま、ただそこで静かに項垂うなだれれていることしか出来なかった。遠くなっていく姉の気配を感じながら、大好きだった姉の足音を聴きながら……ただ、そこで項垂うなだれれているしか、ミリアには出来なかった。

「アタシの生き方……トゥエルヴじゃない、アンタの妹としての………………」





(第十七章『宿命の姉妹、その名はペイルライダー』了)

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