三章
天地の龍と大烏編
36:再会のその前に
「こいつを仕上げて終わりっ……と」
外からは秋虫が鈴に似た音やガチャガチャという音でやかましく鳴いているのが聞こえる。
頬を撫でる風は冷たくなり、森を時々彷徨う羊飼いたちの姿も目にすることが少なくなってきた。
果実や野菜を漬けたり、干し肉を仕込んだりしながら依頼された道具の手入れや、自分の仕事道具の手入れを行っていたらあっと言う間に秋の終わりだ。
冬になれば、獣は寒さを凌ぐために冬眠をしたり、活動が低下したりするものも多く、
俺は道具の制作や修理を副業にしているからまだマシだが、他の
じいちゃんの時代はどうだったかわからないが、最近の
「あいつらに手紙を書いて……と」
羊皮紙に約束のものが仕上がったという旨を記し終わったところで、背筋を伸ばして一息吐いた。
ふと、家の中で脚を折りたたんでうとうととしているヴォルトに目を向ける。
こいつと出会ってから四年。あの頃は綺麗な青の瞳だったヴォルトも成鳥になったためか、今ではすっかり黒みがかった褐色に変わっている。
まだ若いことには変わりないからか、それとも俺と過ごしているからか、威厳みたいなものはないけれど……。それでも、太い尾や鋭い牙が無くたって、素早さと器用な三本の脚、そして立派な嘴で同じくらいのドラゴンと渡り合える頼もしい相棒だ。
「神話に描かれていた
じいちゃんから聞いた、古い古い時代の話を思い出す。
龍と人が同じ言葉を話し、精霊はこの地に留まっていた時代……、空の龍と太陽の巫女、地底の龍と月の巫女が世界を守っていたって話を。
空の龍の仔だと言っていたセレストのエーテルは、まだ若いドラゴンだった。中型ドラゴンほどの大きさはあるが、爪を見ればわかる。おそらく、本当に子供のようなものなんだろう。
しかし、地の龍はちがう。前脚に生えた爪の龍輪を見た限り、とても長く生きている個体のように思える。数百年……下手したら千年以上は生きているかもしれない。
長く生きた個体は、獣であれドラゴンであれ狡猾だし、人を警戒するはずだ。初対面の俺たちにあそこまで慣れていたのは何か理由があるのだろうか?
「手紙に書いておくか? いや、直接頼むか」
雨季の終わりに出会った時は、確か樹海だったな。今は王都から北の岩山付近に住処を移している。
待ち合わせ場所は、樹海の時と同じく
まだ、あいつらに会うまでに幾分か期間がある。
少し神話について調べておくか。
「王都に行くには気が進まないが」
大きく溜め息を吐く。人間が嫌いなわけではないが、人の多い場所に居座るよりは自然の中で獣を観察している方が気が楽だ。
もちろん、命の危険と隣り合わせだということは、決して忘れてはいけないのだが。
「書物を調べるなら、王都くらいしかアテが無いからな」
それに、王都へ納める獣についての記録書もそこそこ溜まってきた。
王直属の
今、目に入る数冊の記録書を手に取って共用文字で描き直したものをまとめて、もう一度溜め息を吐いた。
「
セレストも、それなりに由緒正しい
それに、龍の腕を持ったニュイ……。あいつも色々と厄介な事情は抱えていそうだが持っていた薬筒といい、龍の義腕といい話していないだけでなにやら重要なことを知っていそうだな。
色々と考えをめぐらせていると、ガサガサという音がした。音の方を見て見ると、ヴォルトが嘴を羽根の間に入れている。
ああ、そうだ……。こいつの予備の義足も手入れをしておかなきゃな……。
次から次へ浮かんでくる仕事をひとまず木板に尖筆で書き込み、ランタンの灯りを消してから俺はヴォルトの隣まで歩いて行く。
干し草が敷き詰められた寝床に靴だけ放り投げて、俺はヴォルトの温かくて柔らかい胸元の羽根に潜り込む。
「ガ」
「起こしちまったか? まだ暗い。一緒に寝ようぜ」
目を薄く開いたヴォルトは、俺の言葉がわかっているのかいないのか、すぐに目を閉じて寝息を立て始めた。
もうじき秋が終わる。ヴォルトの温かさを感じながら、俺も眠りに就いた。
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