第十三話 頭を使わない探偵部


 午後12時(正午)前。

 5人で大テーブルを囲い会談を始める。

『これからを考える会』と名付けられたそれはその名の通りこれからの5人の生活について考える会議だ。


「まず俺。俺はこれからお前ら全員をこの家に居候させる。そして誰かの身に危険が起きた時迅速に対応する」

 順に目的や計画を口にすることとなっている。


 エリカ、

「私は悠くんに誘われてここで暮らすことにしたよ〜。目的は悠くんと結ばれるためだね〜」


 ノア、

「家がなくなったのでここに住むことにしました。目的は私に服従能力を使った犯人の捜査です」


 白翼、

「オレはここを隠蓑にさせてもらう。あーちゃんとオレの問題については随時考える」


 あーちゃん、

「私はお姉ちゃんと一緒にいるの。悠斗さんたちに力を借りてお姉ちゃんを守るの」


 と、一同の宣言が終わる。


「よし、大体方針?は固まったな。各々の部屋は今まで通りで、白翼とあーちゃんは2人であの和室を使ってくれ」

 個室の確認と未来設計?を終え解散しようとするが――

「あ、ちょっと待って! 提案なんだけど……」

 エリカが挙手して立ち上がる。その激しい主張に注目が集まる。

 エリカは一度皆を見回すと声を出す。


「探偵所、始めない?」


 唐突に切り出した。


「「「「は⁉︎」」」」


 全員が声を上げる。

「何でまたこんな時に」

 悠斗が素直な疑問を口にする。白翼とあーちゃんを目立たせたくないという今、余り注目を浴びるようなことをするべきでない。

「だって人増えるからお金が足りないでしょ? で、何かないかなーって考えたんだけど、悠くん人助けとか好きでしょ? だからいいかなって」

 なるほど理はかなっている。資金源としての職業をしようと。どうせするなら好きなものでということだ。

「俺はいいが他が……」

 周りに目を流すと全員首肯する。問題ないとのことだ。

 ハーフ姉妹が迷いなく首肯したことは意外だった。

「じゃあ決まりだね〜、準備は進めておくから気にしないでいいよ〜」

 不思議と積極的なエリカに一任することを決めた一同。

 遅れて気づいたがこの5人に探偵が務まるのだろうか。

「うっし、なら解散で、自由にしていいぞ」

 解散の合図をして我先と退室したのは他でも無い悠斗。

 ゲームのイベントが今日の3時までらしくそのイベントを走るために自室に籠った。

 そんなこんなで色々ありつつこの日は終わりを迎えた。




 朝、いつものように目が覚める。

「はあ……」

 いつも以上に登校する気が起きない悠斗。

 理由ははっきりとしている。

 憂鬱な気分になりながらも全員を起こしてまわる。

「お兄ちゃん元気ないですね」

 ノアに気を使われるほど顔に現れている。

「どうしたの悠くん、今日から私たちも学校だよ! 一緒に通学だよ! もっと楽しもうよ」

 エリカが割り込んではしゃぐ。朝から鬱陶しく思いながら支度を進める。

「それだよ。お前らが学校に来てどんな問題が起きることやら、心配なんだよ」

 問題が起きる前提の未来を見ている悠斗。

 見張りという名目で学校へ連れて行く予定だったが、4人ともなればそれは難しい。

 そもそもノアとあーちゃんは学年すら違う。


「本当にオレたちも行くのか?」

 外出に消極的なハーフの2人。外に出て関係者に見つかることを恐れている。

 それは悠斗も承知の上だ。しかし学校には関係者はいなさそうだし、通学も数分で目立ったりはしない

「2人だけの時に家に襲撃がある方が怖いからな、こっちの方が何かと安全で楽だ」

 白翼と話をする時が一番気が楽だと痛感する悠斗。話しやすい上、エリカやノアみたいなふざけた性格と変な好意を見せてこないからだ。

「そんなもんか、まあそんな事よりちゅーがく証明書とかいうのは無かったけどいいのか」

「中学卒業証明書な。電話で確認したら取り敢えず今日来てから考えるってよ」

 白翼とあーちゃんには卒業証明書どころか、まともな戸籍すらないらしい。どうやって入学を許可するつもりなのかわからないが物は試しで行ってみることにした。

「悠斗さん本当に優しいの。とても素敵なの」

 お世辞か本心かはさておきそう言われると気恥ずかしくなってしまう物で悠斗も例外なく照れた仕草を見せる。

 自宅が賑やかになった事が未だに信じられない様子で室内を見渡す悠斗。


 苦笑して一同は家を後にした。

 手続き等を含め時間が掛かるためいつも以上に早く登校。

 通学路を教えながら道を進んだが、幸いにも同学年他学年を含め誰にも出会う事なく到着した。

 正門を潜り職員室と事務室へ向かう。


「失礼します、2年3組の神本です。入学手続きの件できました、伊龍いりゅう先生はいらっしゃいますか」


 室内に先生の存在を認識しながらも定められた言葉を通す悠斗。その言葉に伊龍が応じて出てくる。

「連れてきましたか」

 敬語を使用する教師に疑問符を浮かべる悠斗。その悠斗を見て小さく口を開けた伊龍。

 後ろの4人を一瞥してすぐに悠斗に向き直る。

「全員こちらへ、校長との面会があるので」

 いつもの無気力そうな先生の声に従い後ろにつく一同。

 学校事情は知らないがこういう時に校長も含めて話すのか些か疑問に感じた悠斗。

 そのまま無言で校長室へたどり着き伊龍がノックすると入るように指示を受ける。


「こんにちは皆さん、校長の露無つゆなしです」


 全員と向かい合うその男性は若い。

 校長とは思えないほどの外見で歳も30代とされていた。

 この学校の教師は苗字も異常だが、人間としても非常に変わっている。

「君たちが入学希望かね。戸籍がないとのことだがそれは誰かな」

 既に耳に届いているのか、白翼とあーちゃんのことも認知していた。悠斗は2人を前に進ませ説明を始める。

「こちらの2人です。事情があって戸籍がないそうで、指示通り連れては来ましたが……果たして入学してもいいのでしょうか?」

 悠斗の問いに対して校長は数度頷く。

 何かを思案している様子に捉えられるが、やがて顔を上げると伊龍に言葉をかけた。

「伊龍先生、この子たち全員が入学したらクラスはどうなるかな」

 生徒たちの前で堂々とクラス決めの話を持ち出す。

 生徒側は動揺するが、教師側はまるで平然としている。


「はい、写野絵理花まのえりかさんは2年3組、神本乃愛かんもとのあさんと黒金白愛くろがねはくあさんは1年1組、黒金白翼さんは2年1組です」


 暗記をしてきたのか全てをつらつらと述べる伊龍。

 悠斗は全員に偽名を作るように頼んだら中々珍しい名前を掘り当ててきた。結果として異常な名前が出来上がってしまった。聞いていて耐えることがかなり辛かったが、実在する名字と知って驚いた。

 それを聞き終え露無はしばし唸っていたが突然声を出す。


「よし! 伊龍先生、君に一任する、頼んだよ」


「「「「「ええっ‼︎‼︎」」」」」


 生徒陣の驚嘆の声が校長室に響く。

「分かりました、それでは失礼しました。さあ、君たちも早く退室を」

 状況についていけない生徒を催促して職員室隣の応接室へ誘導する。

 未だに理解が及ばない悠斗だが、とにかく認めてもらえそうで安心した。


「それでは全て受理した。本日使用する教材はこれらだ。放課後残り全ての教材を渡すからもう一度職員室へ来るよう。クラスはさっき言った所だ、担任を呼ぶから後でそれぞれ従うように」

 何の説明もなしに入学許可が降りてしまう。

 納得できない悠斗は説明の途切れ目を狙って質問する。

「あの、どうしていいんですか?」

「入学か? 校長がいいと言うので」

 まるで校長のことを疑っていない伊龍。


 はたから見れば丸投げとも捉えられる状況だが、全く気にせず説明を再開する。

「部活動への入部申請は、そうだな……全員一度私に話を通すように。ちなみに部活動紹介が17日にあるからそこで見てもらっても構わない」

 一通り説明を終えると、そそくさと応接室を後にした。

 取り残された5名はポカンと口を開けて棒立ちになっていたがはっと我に帰る。

「オレたちもいいのか?」

 よくわからないと悠斗に尋ねる白翼。しかし悠斗も完璧には理解できていない。

「よくわかんねぇけどいんじゃね? とにかくこれらの荷物持って職員室だ、担任を呼び出して話をつけておこう」

 謎が尽きない交渉だったが、容易に入学できたことを喜ぶ5人であった。




「ではここで転校生を紹介する」

 担任、伊龍の言葉に教室がざわめくが扉のスライド音で一斉に静まり返る。

 現れるのは絶世の美女。長い桃髪を揺らし日本人の中にわずかに異なる顔立ちが混じった少女だ。

 男子女子を問わず全ての注目がその転校生へと向く。


「今日からこの学校に転校してきたミス…………写野絵理花です、よろしくお願いします」


 本名が出かけたが偽名を強調して名乗り違和感を消す。

 お辞儀をした瞬間にクラスがどっと湧き上がった。

 美少女の転入に男子は勿論女子も歓喜しているのだ。

 不意打ち気味に転入したエリカだが、悠斗は初めから知っていたので驚くこともないが、周りには不審がられたくないため驚いているふうに装う。


「はい、静かに。本日私たちのクラスに写野さんが入ったが他クラスでも編入生が来ている。2年1組と1年1組だ、困っていたりしたら助けてあげるように」

 淡々と説明を進めるため、悠斗以外は未だ動揺している。

 しかし時間を無視することもできず話は進行して行く。

「席をどうするか……よし、取り敢えず一番窓際の最後尾でいいな。周りも仲良くするように。これでホームルームは終わるぞ」

 一切表情を変えず式?を閉める伊龍。そのまま退室し職員室へと降りていく。

 だが、ここまでは問題なく進んでいる。席も悠斗的には有難いことにかなり離れている。進級仕立てのこのクラスの席は出席順で、エリカの置かれた位置は席がないため「わ」行にあたる場所だ。それに対して悠斗は「か」行、廊下側の最後尾だ。

 視界に捉え様子を窺えるがちょっかいをかけられない位置という完璧なポジションだった。

 エリカの周りの人間は嬉しそうにエリカに声をかけており、エリカもまともに対応していた。

 他クラスも心配しつつ、その日は問題なく終わった。




 下校時刻。

 教材を全て回収し、大荷物を持って帰宅していた。


「部活作ろう!」


 エリカが突然叫ぶ。

「何だよいきなり」

 少し驚いた悠斗がそれを隠しつつ呆れ顔をする。

「探偵所作ろうって言ったでしょ? その宣伝として学校でも探偵部作りたいなって」

「そりゃ確かに有効かもしれないけど……許可が下りるか」

 悠斗が真っ先に心配した点はそこだった。

 乗り気なわけではないが別段嫌というわけでもない、しかし先生に承認されなければ建部はできない。

「ダメって言われたらその時考えよ〜」

 何とも行き当たりばったりだが、悠斗はそんな性格が嫌いではなかった。

「お前らはそれでいいのか?」

 確認として他3名にも一応聞くが、当然のように頷き返してきた。

「わかったよ、明日申請してみる」

 入学すら不正に近いものな上にこんな自由でいいのか不安だが、試すだけ試すことを決める。


「お前ら今日の学校どうだった」

 話題をガラッと変え学校の雰囲気を聞いてみる。

「オレは別に変なことはなかったぞ。オレってのを色々言われたけど……」

 コンプレックスなのか意外と気にしているようだった。


「私たちは――」

「――問題なかったの」

「「ね!」」


 2人で言葉をわけ楽しそうにしている年下二人組を悠斗は微笑ましげに見る。

「私は普通かな〜。悠くんの隣が良かったけど、クラスの人は優しそうだったし」

 エリカからその発言を受け悠斗が盛大に驚く。

 今まで悠斗にしか興味を示さないように見えたエリカが、クラスを評価していた。この事実だけでも大きな仰天ポイントだ。


「ま、楽しそうで良かったよ……全員な」

 学校生活初日を振り返りながら帰路を進む一同であった。


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