第16話
あの時の顔を覆った通り魔が姿を見せた。
「なぁ秀一、お前なのか?」
春輝は恐る恐る通り魔に訊く。
通り魔はマスクを取った。その顔は、やはり秀一だった。
「親父が歩道橋から落ちた時、沙耶が階段を登ってきたんだ。俺は捕まる訳にはいかなかった。妹の、サキのために。逆方向に逃げたんだ。そう聞いた時、また同じ状況を作れば、俺が通り魔として現れることによって沙耶が言葉を失えば、そう思って歪みに触れた」
「でも秀一、沙耶は声は出せなかったけど、人に言葉を伝えられなかったわけじゃない。紙に書いたりなんかして人にものを伝えることはできる」
秀一は父親と妹と自分の、一連の事情を春輝と沙耶に打ち明けた。
「でも、俺は結局この手で親父を殺してしまったんだ。日本の警察は無能じゃない。俺はどのみち捕まると思う。あの日、家に帰ると、もう警察がいたんだ。妹とファミレスに行っていたと話したけど、時間の問題だと思う」
秀一も春輝も沙耶も暗い気持ちに包まれた。
「俺は、お前の味方だ」
「私だって」
「済まない。春輝、沙耶……」
オレンジ色の街の中、お互いの姿が歪んでいく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます