第16話

あの時の顔を覆った通り魔が姿を見せた。

「なぁ秀一、お前なのか?」

春輝は恐る恐る通り魔に訊く。

通り魔はマスクを取った。その顔は、やはり秀一だった。

「親父が歩道橋から落ちた時、沙耶が階段を登ってきたんだ。俺は捕まる訳にはいかなかった。妹の、サキのために。逆方向に逃げたんだ。そう聞いた時、また同じ状況を作れば、俺が通り魔として現れることによって沙耶が言葉を失えば、そう思って歪みに触れた」

「でも秀一、沙耶は声は出せなかったけど、人に言葉を伝えられなかったわけじゃない。紙に書いたりなんかして人にものを伝えることはできる」

秀一は父親と妹と自分の、一連の事情を春輝と沙耶に打ち明けた。

「でも、俺は結局この手で親父を殺してしまったんだ。日本の警察は無能じゃない。俺はどのみち捕まると思う。あの日、家に帰ると、もう警察がいたんだ。妹とファミレスに行っていたと話したけど、時間の問題だと思う」

秀一も春輝も沙耶も暗い気持ちに包まれた。

「俺は、お前の味方だ」

「私だって」

「済まない。春輝、沙耶……」

オレンジ色の街の中、お互いの姿が歪んでいく。


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