五
第15話
打って変わって謁見の間、だった所に無数のテーブルが並ぶ。肉に野菜に魚と、種々様々な料理が並び、見る者の腹を刺激する輝きを放つ。
食事の一つに手を着けず、皇帝のすぐ隣で、補佐官が会談の記録を見ながら言った。
「一年間の休戦を認める代わりに、帝国船籍の入港の許可。共和国に対する情報の連携。主要航路の自由化。随分とひかえめな条件と致しましたね」
「仕方あるまい。それ程までに奴の口が達者であっただけの事。少々見くびっておったようだ」
間に響く音楽に合わせて、大勢の帝国貴族や領主が踊る。フルート、オーボエ、クラリネットに、ドラムやピアノにヴァイオリン、その他名前があるのかも怪しい楽器が幾つか並ぶ。楽し気に踊る貴族たちを見ながら、皇帝は空になった杯を置いた。
「まぁ良い。今は酒だ! ほら早う注がんか!」
「陛下、もう五杯目にございましょう。自覚されておられぬようでございますが、お顔が真っ赤になっております。少しはお酒を控えねば」
「何を言うておる。晩餐会だぞ! 酒無くして何を楽しめと言うのだ」
皇帝はもっと寄越せと杯を差し出す。補佐官が渋々酒甕を取り、注ぎ入れた時だった。人手が二つに割れて、議員達が入ってくる。一時的に音楽も止まり、全員の視線を一身に受けながら、皇帝の前で跪いた。
「皇帝陛下、かような立派な晩餐会にお呼び立てして頂き、心より感謝申し上げます」
「おぉ、来たか。良い良い、酒宴はまだ始まったばかりであるぞ。お前たちも酒と食事を楽しむと良い。ほらどうした、音楽が止まっておるぞ!」
議員は深く頭を下げて、皇帝の隣に座る。皇帝は酒甕を補佐官より奪い取ると、議員の杯を取り上げて並々酒を注いで出した。
「火竜酒と呼ばれる酒だ。帝都の特産品でな、特別な場でしか振舞うことを許されんのだ。さぁ、飲んでおけ」
「有りがたき幸せにございます。良い酒であると、見ただけでも分かります。とはいえ大変心苦しくありますが、酒が飲めぬ体質ゆえ、こちらは陛下にお譲り致しとうございます」
「酒が飲めぬと申すのか」
「恐縮ではありますが、左様にございます」
「もったいないのう。実にもったいない。ならば遠慮なく私が頂くとしよう」
残念だと言いつつも、嬉しそうに自分の杯を一気に飲み干す。空の杯をテーブルに叩きつけるようにしておくと、無遠慮に議員の杯へ手を着けた。
「正直、協議が始まるまでは舐めておった。お前ほど謀が上手い者もそうは居まいて」
「お褒めに預かり光栄でございます、陛下」
「聞くが、上達の秘訣でもあるのか? 今後の為にもなろう、ぜひ聞かせて欲しい」
「秘訣という程の事はございませぬ。平時より手札を集め、相手の手札を探り当てる。相手の目的、益となる事象を整理する。理路整然と納得させるだけにあらず、時として感情を刺激する。等でございましょうか」
「手札は私の方が優位であったはずだが」
「確かに、陛下の手札は軍事力と、この上なく強力なカードでございました。しかし強力すぎるカード故、切り方が雑であったとお見受けします。手札とはご自身でも気づかぬ内に増えている場合もございます。ご自身の何が手札として利用できるかを見つめなおし、軍事力を軸に据えつつ補佐していくと、より高い効果が発揮できたかと存じます」
「なるほど。優位であると油断するあまり、絡め手に対して疎かになっておったと」
「左様にございます」
「私もまだまだ未熟であるな」
「陛下はご自身の弱点を真摯に受け止め、克服すべくこうして長けた者に話を聞いていらっしゃる。何事においても、その姿勢が大切なのでございます。今すぐに、は不可能でございましても、経験を積まれてゆけば、より偉大な皇帝となるでしょう」
「当然だ。私は既に偉大な皇帝であるからな。こうして美味い食事と酒を用意できるのだ」
皇帝は笑って杯を一気に飲み干す。そして厚い肉に齧り付くと、口いっぱいに頬張った。
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