第14話
「この情報は連合としても苦労したのでございます。共和国は機密を徹底しております故、極めて優秀な密偵のみ感づきました。しかし暗号文を送る段階で、共和国の刺客に襲われたのでございます。刺客は密偵に成り済ますと虚偽の情報を寄越したのでございます。折しも助かった密偵により、かの情報を掴むに至りましたが事の深刻さを鑑みて、こうして参上した次第でございます」
「文書の偽造など頻繁にある事であろう。見抜けなかったというのか」
「仰る通りにございます。連合としても多重鍵暗号方式を採用しており、そう易々とは偽造できぬよう仕組化しております。にも関わらず偽造されたのは、偽造したのが本人だから、に他なりませぬ」
皇帝は目だけで、続けろ、と促す。
「ドッペルゲンガー。ご存知でございましょうか」
「あぁ、聞いたことがある。共和国領内に生息する上級蛮族であったな」
「知能も高く、剣も上々。有する魔力もさることながら、類い稀なる、変化の力を以って我ら人族を苦しめて参りました。一瞬とて奴の目に触れれば姿形を模倣され、充分な時間を与えれば、記憶までもを奪い取る。勇者ギルドにしても、奴が関わる依頼は全て青以上に分類される。それ程の力を持つ難敵にございます。それが共和国と手を組んだとあらばいかに危険か、火を見るよりも明らかでございましょう」
「我が帝国の情報員も、餌食になった可能性がある訳か。対策は?」
「模索中にございます。魔法さえ確認すれば、真か偽かを見定める事は可能でございます。魔法はその性質上、魂に深く根付いております故、いかにドッペルゲンガーとても、魔法までは真似できませぬ。しかしながら、この手法では直接会って確かめる前提がございます。遠距離での活動を主とする密偵に当てはめれば任務の性質上、対策の施しようがない、が現状にございます」
皇帝は片手で額を抑えると言った。
「厄介だな。ドレイクが可愛く思える。勇者ギルドは?」
「状況証拠しか持ち得ない状態にございます。依頼するにも確たる証拠を用意できねば、報復措置と勘繰られて断られるのがオチでございましょう」
「雷の勇者ならば姿も見られず攻撃するのも容易いというのに」
「いずれにせよ、連合と帝国でいがみ合う理由はござらぬはずです。ここは一時的であろうとも休戦し、共通の敵、共和国とドッペルゲンガーに対応することを進言いたします」
「信用して良いのだな?」
「もちろんですとも。本件に関しては連合としても全面的に協力する気概でございます」
議員の言葉を聞いて皇帝は机から降りると、腰に手を当てて言った。
「良かろう。癪だが目下の脅威は共和国だ。しばらくの間は協力してやる。だが忘れるな。艦隊は前線から引かせぬぞ」
「構いませぬ」
議員は自分の席へと戻る。着席するのを見届けると、皇帝は扉の外へ呼びかけた。
「休憩は終わりだ。皆を呼んで参れ。協議を再開する」
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