第13話
皇帝は思わず目を細める。組んでいた足を解すと、腕を肘掛けに置いて、やや前のめりになって言った。
「ならぬ。勇者達は自分たちの意志で帝国に居るのだ。残れと命令した訳では無い」
「しかし居場所を提供したのも陛下でございましょう。道中大層立派な勇者ギルドを拝見致しました」
「己の立場が理解できていないようだな議員。私の指示一つでお前の居場所を奪うこともできるのだぞ。何故それ程勇者に固執する。雷の勇者に壊滅させられたからか」
「水の勇者」
「なに?」
「紫超の勇者の内、転生者が三名。時空の勇者は蛮族出身でありますが、水の勇者はこの世界の、しかも帝国出身でございましたな。そして種族は人工の肉体を持つレプリカント。かの者は、どういう訳か、通常のレプリカントを大きく上回る力を有しておりましたな。そう言えば、どことなく雷の勇者に似た雰囲気を帯びている、と思いませぬか」
議員の目が光を受けてわずかに光る。皇帝は机に手を付き立ち上がると、遮るようにして言った。
「休憩だ。今から休憩に入る」
「しかし、予定よりも随分と早いかと」
「予定など知ったことか。私が疲れたと言っておるのだ。黙って休憩に入れ」
察したらしい大臣達が立ち上がる。補佐官も退出しようとした時、まだペンを持つ書記に気づくと、彼らの肩に手を置いて半ば無理矢理連れ出した。
「何を知っておる」
「何も。でございます陛下。ただ、密偵を他国へ送り込むのは良好な関係を築く上での基本である、とだけ申し上げておきましょう」
「今この場で貴様を殺してやっても良いのだぞ。優位にあるのはこの帝国だ」
「左様でございましょう。が、何ら解決にもならないことは、陛下自身、ご理解いただけているかと存じます。御心配なさらずとも、この情報を握っておりますは我ら議員三名と、片手で足りる程でございます」
皇帝はため息をつき、机の上に腰を下ろす。腕を組み、そして足を組むと、低い声で言った。
「何が望みだ」
「真意は隠しておくべきにございます、陛下。が、敢えて口にするとあれば、平穏、でございましょうか」
議員は静かにそう言うと、立ち上がり窓に近づく。雨の中に浮かぶ帝都を眺めながら、そっと窓に手を触れた。
「近年、転生者が数を減らしていると聞いたことはございませぬか。統計の難しさもあり、学会でも可能性の段階であると念を押された話でありますが。万が一、これが事実ならば、勇者ギルドにより保たれているバランスも、近い将来失われてしまうでしょう。我ら人族三大国が、いがみ合うだけならば、まだ救いがあると言えます。数を増やしつつある魔神と言い、蛮族と言い、勇者の力無くしては甚大な被害を受けるでしょう」
「蛮族や魔神に対する考えは帝国も変わらぬ。だが何故この会談でその話をする。共和国への対応を協議するはずだが」
「連合が掴んだ情報によりますと、共和国が蛮族と手を組んだのでございます。確信的な証左はありませぬが、状況からして両者は結託しております。思うに、昨今の豪雨に伴うダメージを蛮族と手を組むとこで補強する形を取ったのかと」
「なれば我が情報員より報告があって然るべきだが」
「その情報員はどこまで信用できますかな」
議員は窓に背を向けると、両手を組んで寄り掛かった。
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