第12話

 自室に戻り、侍女の手を借り服を着替える。普段の楽な格好で、それでいて客に無礼の無いように、軽い外套を羽織る。化粧直しを、と侍女が言ったが、崩れて無ければそれで良いと断った。

 防衛大臣の資料を眺めて待つことしばらく、城内に鐘の音が木霊す。皇帝は資料を畳んで外套の内に差し入れると、立ち上がり自室を後にした。

 議場では、例の議員三名と、書記二名、外務大臣、防衛大臣、財務大臣に加え補佐官が既に待っていた。議員達は一斉に立ち上がると、皇帝に片手を差し出しながら言った。

「お目に掛かれて光栄でございます、皇帝陛下。お噂はかねがね伺っております。なんでも弱冠八歳で即位なされたとか」

「既に五年も前の話だ。年齢が重要か、連合議員」

「いいえ、滅相もございません。お若くてお美しい、それでいて凛々しくもあらせられる。対して我ら連合国議員と来れば、最も若くて齢六十と、恥ずかしながら爺婆の集いにございます。陛下のようなお年頃の少女が頭首とあらば、民も兵も、さぞかし鼻が高いでしょう」

「世事ならば不要だ連合議員。席に着け。話すべきは山とあるはずだ」

 皇帝は差し出された手を無視して、自分の席に腰を下ろす。大臣達も続くと、議員は顔色一つ変える事無く席に着いた。

「それで、議題についてだが。共和国への対応を協議したいとのことであったな」

「左様にございます、陛下」

 机を挟んで、正面の議員が言った。ウィザードの老婆で、三人の中でもリーダー格と思われる。謁見の間でも常に話して居たのが彼女で、この者を中心に交渉を進める気だろう

 皇帝から見て右隣にはハーフリングが、反対に左側には何かの獣人が座る。どちらもウィザードが言った通り、相当の年を食っているようだった。

「先日の海戦について、既にお耳に入っておられると存じます。我が連合は共和国に大敗を期し、海洋における力を失いつつあります。連合傘下の国々には小さな島々も含まれるのでございますが、生活物資を交易に頼り切っている島も存在します。こうした土地で暮らす人々を守るためにも、残された武力は蛮族への対応に回しとうございます。そこで、共和国への対応より先に、帝国とは休戦の申し入れを致します」

 皇帝は足を組み、頬杖をつく。

 申し出としては予想通り、であった。蛮族云々言ってはいるが、ただの口実に過ぎないだろう。だが分があるのは帝国だ。

「休戦を受けたとして、帝国に何の益がある?」

「内へ力を注ぐことが可能となります」

「帝国の力を侮るでないぞ議員。お前たち連合と共和国の前線を維持しながらも、控えの兵員は潤沢にある。わざわざ休戦してまで捌かねばならぬ問題など無い」

「現状ではその通りでございましょう。しかし今後もそうかと尋ねられれば、また別の話にございます」

「何が言いたい」

「巨龍災害に黒炎の魔神と、聞き及んでおります皇帝陛下。並々ならぬ問題が帝国を襲ったと」

「事実だ。だが全て解決済みだ」

「勇者の力を使って、でございましょう」

 議員はわずかに笑ったような気がした。

「皇帝陛下、勇者の平均寿命は十六にございます。勇者の大半を占める転生者が、十から十五で転生するのを考慮すれば、わずか五年しか生きていられない事となります。今の世は紫ランクが四名に、前代未聞の紫超が一名と、まさに勇者の黄金時代であるのです。黄金時代である内は、いかなる脅威も撥ね退けるでしょう。龍であろうと、神であろうと、現に勇者は勝利してきた。しかし勇者も我らと同じく人であり、生物でございます。いつかは死ぬ。生きとし生ける者ならば、絶対の真理にございます。なればこそ、勇者の消えた世界に向けて、勇者に頼らずとも脅威を撥ね退けるだけの力を、蓄える必要があると思いませぬか」

「将来的には、な。だがお前は未来では無く、今に生きておるのだ。今、目の前の問題を片づけるのが先決であろう」

 皇帝は足を組み換え、手を組むと机の上に置いた。

「条件がある。その一、帝国船籍の入港を無条件に認めよ。その二、帝国に労働力の提供。その三、帝国製品に対する税の免除。その四、主要航路の護衛は帝国が行う。その五、港での犯罪は帝国の法に則るものとする。以上を認めるのであれば、休戦に応じてやってもいい」

「なればこちらも一つ条件を追加したく存じます」

 述べよ、と皇帝が促すと、議員は皇帝を真正面から見据えながら口を開いた。

「帝国が抱え込んでおります、紫以上の勇者五名を手放していただきとうございます」

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