第11話
「やはり式事は好かん。息が詰まる」
侍女に杖と外套を纏めて一緒に押し付ける。腰から下げた剣を外し、こちらは防衛大臣へと渡す。頭に載せた冠だけは自分で取ると壊してしまいそうな気がして、補佐官を急かして外させた。
「式典が苦手なのは皆同じにございます。国と国との交流である以上、お互い無礼を働く訳には行きません。ですが国によって、礼儀作法は異なります。儀礼的な式典ならば、お互い無礼もありませぬ故、円満な国交を築けるというものです」
「そんな事はわかっておる。ただ好かんというだけだ」
「同意でございます。ところで貢物ですが拝見しても?」
皇帝は侍女に受け取った貢物を持ってこさせる。改めて中を開くと、剣を出して補佐官に渡した。
「刃まで見ないことには断言致しかねますが、ここに残ります鍔の意匠から見て、帝都内にて一般流通している剣と見てよろしいかと」
「うむ、どう見ても雷の勇者が捨てたものだ。まだスマホの方が心躍る。こんなものを有り難がるとは、まさに他山の石であるな」
「モノの価値を決めるのは品質だけにございません。モノに付いてまわる物語によって、ただの石も、賢者の石となるのです」
「何も成せぬ賢者の石は、ただの石と相違あるまい。繰り手の意志に沿う力以上を発揮してこそ賢者の石と称されるのだ。欲しいのであらばくれてやるぞ?」
「遠慮いたします」
補佐官は剣を箱に戻す。二人の会話を聞いていた侍女は、いかがなさいましょう、と尋ねた。
「街の鍛冶屋にでも持っていけ。奴らなら喜ぶだろう」
侍女は頭を下げてその場を離れる。入れ違いにやってきたのは外務大臣であった。
「陛下、今しがた連合にて活動中の情報員から暗号文が届いたのですが、いかんせん内容が乏しくお役に立てるかどうか」
「議員についてだったな。構わん。述べよ」
「連合では、先日の共和国との海戦による壊滅的な被害を受けて、二つに割れている状況にございます。元来力を持っていた右寄りの勢力は責任追及の猛攻を受け疲弊し、少数であった左寄りの勢力が攻勢に転じておるようです。かの三名の議員がいずれの立場であるかは不明でございます。議会での発言も乏しく、また各々が納める国も弱小故に求心力も無く、情報員としても重要視して来なかったと」
「ふむ。真意は不明という訳か。だが、推察する事ならば可能だ」
皇帝は玉座の肘置きに腰掛ける。そして二人に対して、ではなく、自分の考えを整理するかのように話し出した。
「結論から言えば、外交を使った内政だ。貢物と言い、小物議員と言い、侮蔑とも取れる程の対応だ。だが疲弊しきっておる連合が、無傷の我が帝国を挑発して何の得がある? 第一から第五の我が師団が前線を押し上げるのに全力を期せば、首都近くまでは押し上げるのも容易い。連合は避けたいはずだ。奴ら議員を送り込んだのは、帝国と何らかの協定を結ぶことで、国民に対する安心と、議会における求心力の回復が一番の目的と推測できる。なればこそ小物議員を派遣した勢力は、連合において、より窮地にある側となる。詰まる所、此度の来訪者は右寄りの考えを持つ者と見て良いだろう」
「となりますと、帝国側が圧倒的優位でございますね。血を流す事無く譲歩を引き出す事が可能でしょう」
「うむ。防衛大臣。ここへ」
防衛大臣はすぐに気が付き加わった。
「防衛大臣は第一から第五師団の兵員および武装数と位置、加えて活動拠点、行動可能範囲、前線、継続作戦日数を急ぎ報告せよ。また確認された連合艦隊の船舶と、残る連合拠点を共に資料に纏めて提出しろ」
防衛大臣は頭を下げて、その場を離れる。皇帝は間髪入れずに第七師団長を呼んだ。
「お前は紫越えした勇者の動向を探れ。何事も無ければ帝都内にいるはずだ。船舶を失った分、勇者を雇う余裕は無いはずだが万が一に備え、何らかの動きがあらば直接私に報告しろ」
「既に手配済みです。皇帝陛下」
「よろしい。では後の者は、自室に戻り英気を養え。奴らを叩きのめすぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます