十三・復活 その17(終)

 いささか緊張気味の上、青ざめた顔で答える警官。

「全員、首を切断されていました。発見された現場は、若い男女らしき遺体が紫鏡湖北西のほとり――」

「ああっと、そういう点はいい。それよりも、九人だって?」

「はい」

「昨夜、このキャンプ場にいたのは、従業員と泊まり客を合わせて、全員で十人だったと聞いているが」

 刑事が手を挙げ、話を遮ると、警官の方は恐縮したらしく、背筋をぴんとさせ、踵を揃えた。

「これは失礼しました。一人、生存者を発見しております」

「何? 名前は?」

「それが……要領を得ないのであります」

「ん? 何故だ。ちゃんとした大人なんだろう? 外国人がいるとも聞いておらんしな」

「よく分からないのですが……恐怖心で頭がおかしくなっているみたいなんです。その、記憶喪失というやつかもしれません……」

 言って、首を捻る警官。自分の報告内容に、自信がないと見受けられた。

「ううーん、つまりだ、その生存者は、自分の名前さえ答えられない状況にあると、こういうことだな?」

「はい、そうであります」

「よし。では、身元を示す物はなかったか」

「それですが、本人の身なりと、他の被害者達の身元から推測して、ここの従業員の一人だと思われます。あの、これは室田警部補の考えですが」

「何だ。じゃあ、名前も推測できてるんだな?」

 目つきを鋭くして、刑事は苛立たしげに言った。

「はい。えー、吉河原隆介という男だと思われます……」

「ふむ。その吉河原は、どこで見つかったんだ? 凶行を目撃しているとしたら、ぜひとも証言がほしい」

「バンガローの地下にある、野菜や何やらを保存しておくスペースに身を隠していました」

「そうか……。凶行を目撃してから、そこへ逃げ込んだのかもしれん。望みは捨てないでおこう」

 そう言うと、刑事は警官に案内を命じた。


             *           *


「記憶の混乱が見られたそうですが、大丈夫ですか」

「ええ。まだ戻ってはないのですが、短時間なら問題ないでしょう」

 医師の承諾を得、刑事は病室のドアの前に立った。

「一人だけにさせてくれますか」

「うむ……まあ、いいでしょう。くれぐれも、患者を興奮させないように」

 医者のもったいを付けた返事に舌打ちをしてから、刑事はドアをノックした。

 返事はなかったが、医者が促すので、ドアを押し開けた刑事。

 すぐに、中にいた患者と目が合った。

「大変でしたね」

 笑みを作り、話しかける刑事。

「刑事さん……ですか」

 ベッドに上体を起こしていた患者は、かすれ声で言った。

「そう。覚えていてくれたのかい」

「は、早く、あいつを見つけてくださいっ」

「そのジュウザを逮捕するために、あなたの証言がほしいんだよ」

 大男が震える様を前に、半ば哀れむように刑事は言った。

 吉河原は背を丸め、巨躯を小さくして答えた。

「え、ええ。ぜひ、聞いてください。あんな恐ろしい目に遭ったのは、初めてです。次から次に、人が殺され、首を跳ねられていく……。あいつは化け物だ」

 そう答える彼の顔は、どこか笑みを隠しているように――。


――終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

十三の夏 小石原淳 @koIshiara-Jun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画