第9話 渚の誕生日
「痛っ」
「おーい、寝るんじゃねえぞ。今が受験に向けて一番大事な時期だからな。」
時計は真っ直ぐ上を刺し、黒板には頭が痛くなるようなたくさんの数字が書き並べられてい
る。
今は4時間目、数学の時間。
僕は授業中に寝てしまった。
今どき珍しくチョークを投げつけられて起きた僕は、隣を見て確信した。
僕には今日、"すべきこと"がある。
「渚、起きて。ヤマ先に怒られちゃうぞ」
少し面倒くさそうに起きた彼女。
「ん、んん~、いいんだよぉ私は。怒られたことないもーん」
大きく伸びをして彼女は僕を見る。
「髪にチョークの粉ついてるよ?さてはまたヤマ先アタックくらったな?」
からかいつつ微笑みかける彼女。
「そろそろ受け止めれるようにならないとね」
冗談交じりで笑って返す。
放課後、帰り道はいつも渚と一緒だ。
家が近くて付き合いが長いから、ただそれだ
け。
「今日はこっちの道から帰ろうよ」
「え?別にいいけど、、、拓海なんか今日へんだね。」
「ヤマ先アタックくらったせいかな」
その後、しばらく沈黙が続いた。
そしてそれは彼女が遮った。
「拓海、それより言い忘れてる事ない?」
少し前を歩きながら、僕の顔を覗く彼女。
あるさ。たくさんあるんだ。言いたいこと。言い忘れていたこと。
僕を抱きしめてくれた彼女は僕に沢山のことを教え、気づかせてくれた。
その教えは数え切れやしないが、いちばん大切なこと。
繰り返す"今日"は彼女のせいじゃない。
僕のせいだ。
僕にはやり残したことがあった。
きっと、その悔やみが10日を繰り返させたのだと今は思う。
「拓海〜、聞いてる?もしかして忘れてないよね?」
「うん。もちろん」
寝癖はない。制服の襟も曲がってない。
靴紐も固く結ばれている。
「渚、好きだ。」
「へぇっ?えっとあの、そうじゃなくて、、、」
「うん、分かってるよ。誕生日おめでとう、渚。」
「えぇっ!あ、ありがとう。えっと、その、、、」
彼女は、珍しく慌てた素振りを見せる。
「好きだ。渚、付き合ってください。」
立ち止まって、彼女を見つめる。
不思議と緊張みたいなものはなかった。
「ええっ、びっくりした。拓海、やっぱり今日へんだね。」
からかいつつも照れくさそうに顔を隠す彼女。
「こういう時、なんて言うのが正解なんだろうね。えーっと、、、そうだな。ふつつかものですが、よろしくお願いします!」
僕の大好きな彼女は、僕の大好きなその満面の笑みで返事をしてくれた。
その日、僕はやりきった達成感と共に寝床に着いた。
1月11日、ついに僕は朝日と共に目覚めた。
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