第6話 1月11日 希望

やはり1月10日は終わらない。


髪に着いたチョークの粉を振り払いながら考えた。

そういえば、1度だけ僕は1月11日を迎えたことがある。

渚が亡くなった"あの日"だ。


繰り返す時とそうでない時の差を考えてひとつの結論にたどり着いた。

"あの日"、僕は寝なかった。

寝ることすら忘れるほどに混乱していたが、振り返って考えてみれば、1月10日を繰り返す起点はいつも僕が寝た時だ。

それなら僕が今すべきことは、、、


「ん、んん~、おふぁよお」


渚が目を覚ました。


「おはよう。渚、今日帰りにカフェでも寄っていかない?」


きょとんとした顔の彼女。でも寝足りなさがまだ染み付いている。


「急にどうしたの?普段は私からしか誘わないのに」


「なんでだろうなぁ。しかも今日は僕の奢りだよ?」


さらに不思議そうに考え込んだ後、彼女はハッとしてこちらを向いた。

どうやら気がついたようだ。


「あ!分かった!今日私が誕生日だからでしょ!」


「正解。誕生日おめでとう。渚」


「へへ、ありがとね。拓海もたまには優しいんだね」


彼女はからかったつもりだろうが、大袈裟にはしゃいだその笑顔が嬉しさを隠しきれていない。


「たまにってなんだよ。僕はいつも優しいはずだよ」


いじけたつもりだが、かくいう僕も彼女の笑顔に当てられて同じような顔をしている気がする。


よし、下準備は済んだ。

今日僕はある実験をすることにした。

それは単純、寝ずに明日の朝を迎えること。

繰り返す1月10日の起点が確定すれば、きっと終わらないこの日を終わらせる糸口だって見いだせるはず。

そして何より、彼女が死なない1月10日を現実にするために。


そう決めた僕は10日の夜を寝ずに明かした。

あまり徹夜をしない僕には辛かったが、日の出とともに希望が見えた。

11日の朝は訪れた。

これで確定した。


繰り返す10日のトリガーは"僕が寝ること"だ。

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