お父様とお母様、そしておばあ様

娘と呼ばれ、母と呼ばせてくださいね


 皇太后様がシリアル食品をお持ち帰りになり、どうやらお気に召したのか、翌朝、お食べになったとか……

 なぜ知っているのか?

 皇太后様付きの女官が、皇后様付の女官に口を滑らし、皇后様の耳に入ったのですね。


 そして土曜日、学校から帰って、お昼を食べようとしていた時、突然、皇后様がお越しになったというわけです。

 丁度、この日は洋子様も文子様にも、ご実家に里帰りをしていただいた日なのです。


 だってね、皆さん、ご家族がおありで、たまには家族団らんも必要と考えたのです。


「皇太后様に『シリアル』という物を贈ったとか聞きましたが?」

 慌てましたね、なんせ、庶民の食べ物を出したのですから……


「申し訳ありません、庶民の食べ物ですが、皇太后様が食べて見たいと……」

「責めているのではないのです、私も食べて見たいと思いましたね、まさか皇太后様に下さいとは云えないでしょう?」


「そうそう、雪乃さん、皇帝陛下に『父の日』のプレゼントを差し上げたとか、陛下はことのほかお喜びで、私も頂きました」

「ねぇ、私もね、娘が欲しかったのよ、雪乃さんはお母様をほとんど知らないのでしょう?」

「皇帝陛下を『父』と呼ぶなら、私も『母』と呼んで欲しいわ♪」


「皇后様……」

 突然、抱きしめられた私……


「私は雪乃さんのことを、娘と認識しているのよ、貴女はまだ十三歳なのよ、幾ら聖女といえど、大人びた物腰は疲れるでしょう、たまにはこの母に甘えなさいな」

 私、こんな言葉に弱いのです……

 人の親切な心に触れると、涙が出そうになります。

 

「私は……前世の記憶があります……その記憶では……誰にも甘えられなかった……普通の女の子の生活をしたかった……いつもいつも気を張り、何かと戦っていた……男のように生きるしかなかったのです……」

「雪乃さんは、可愛い普通の娘さんよ、その前世の記憶には、お母様はおられなかったのですか?」


 母?そういえば前世の私の母は……記憶を探るように過去を思い起こすと……そうだ……母は私を産んで直ぐに……この世界の母の記憶と同じ……


 父は……そうです、私は男と間違えられて育てられた……女性仮性半陰陽というのが判明したときが十二歳……そして父に棄てられた……

 父はお金持ちだったが、私は最低減のお金を渡され、別棟の家で一人で住んでいた……そうだ、十二歳から食事も一人でしていた……

 高校に入ってからは一人暮らし……


 遠い目をしていたのでしょうね……

 皇后様が、「嫌なことを思い起こすことはないわ」と云ってくださりました。


「いえ……前世の母は今生の母と同じく……私を産んで直ぐに亡くなっています……父は私を男のように育てて、私が十二歳になったら、構ってくれなくなりました……お金だけ渡されて……」

「もういいわ、もういいのよ、神様は貴女に、幸せな女の子にと思われたのよ……」


「私……女の子としては……何も知らなくて……ごめんなさい……いいお嫁さんになれなくて……」

「謝ることはないのよ……ねぇ、本当に雪乃さんは私の娘、これは事実でしょう?」


 私は頷きました。


「だからね、私は母として色々と教えてあげるわ、だから甘えてね♪まず手始めに、私を『母』と呼んでくれない?」

「……お……かあ……さま……では、お母様は私をことをさん付けはおやめください……どうか雪乃と呼び捨ててください……」


「では『雪乃』」

「お母様!」


 再び抱きしめられた私……


「お母様!お昼はまだでしょう?私、心を込めてご飯を作りますので、ご一緒に食べてくださりませんか?」

「なら一緒に作りましょう、こう見えても娘時代には料理もしたのよ♪」


 二人でお台所にたち、ご飯を作ったのです。

 結果的には、お母様は、お料理は得意ではない……でも……とても幸せなお昼となりました。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る