華族高等女学校の『春のバザー』 其の二


「これ、美味しいですわ♪お姉様方、お料理がお上手なのですね♪」

 小百合さんが、お口にいっぱいタルトをほおばりながら、感想をくれました。


 洋子様が、

「雪乃様がお作りになられたのよ、私なんかが作ったら、このパウンドケーキよりも更に美味しく無いかも知れないわ」


「雪乃様、どうしてそんなにお上手なのですか?」

「私なんて、ばあやにしごかれるのですが、ご飯を炊くのがやっとで……それも芯があったり、べちょべちょだったり……」

「私はね、孤児院で育ったの、だから嫌でも上手くなるのよ」

 と嘘をついてしまいました。


 だってね、神様のとんでもないお力を頂いている、なんて云えないですから……

 まぁ、洋子様はさっしておられるでしょうけど……


「雪乃様……ご苦労されておられるのですね」

 えっ、洋子様、私が聖女と知っているのでしょう!

 あっ、そうでした、聖女とは知っておられるけど、どうして生まれたかは……

 私が愛人の娘で、最近久光お兄様のお陰で認知された……そして見込まれて皇帝陛下の養女に……そう思っていたのですよね……


 こればっかりは真実は言えませんよね……


「そんなこと、些細なことでしょう?いまはお友達になれて、幸せなのですから」

 洋子様、なにか嬉しそうで、ほほに紅が差しているようです。

「小百合さん、お料理はね、誰かに食べていただきたいと、心より思ったとき、上手に作ることができるのよ」

「小百合さんも誰か好きな殿方ができ、その方の食事を作るとき、きっと上手く作れるようになるわよ」


「そうなのですか……」

「そうなのですよ」


 さて、パウンド・ケーキだけではお腹が減りましたね……


「お昼になりましたが、ケーキだけではね……『お寿司や』さんで、なにか買いませんか?」

「そうですね……さすがにこのケーキではね……」

 洋子様、かなり頑張って半分食べられておられましたが、丁寧に包んでお持ち帰りの態勢です。


「お食事なら、脇坂のお姉様のお店でお願い出来ませんか?」

「脇坂のお姉様?」

 あぁ、お弁当を強奪していった方ですよね……

 脇坂様が、料理が下手な姉とかおっしゃっていましたが、これ以上、『まずいお食事』は……

 洋子様と顔を見合わせたのですが、致し方無いと、顔がおっしゃっています。


「では、脇坂様のお店に伺いましょう」

 

 脇坂のお姉様は文子様とおっしゃって、当年十六歳、現在華族高等女学校の五年、スポーツ万能の方のようです。

 あの脇坂様が頭が上がらないようですね。


「あのお店です!文子お姉様、あのお弁当をお作りの方をお連れしました♪」

 文子様、エプロンなどしてお米を潰していました。

 どうやら、お店の売り物は『五平餅』のようなのです。

 でも商品が並んでいません……


「あのお弁当、貴女がつくったの?」

「弟が美味しい美味しいって云うので、なら試しに私にも食べさせなさいと怒ったら、本当に持ってきたのです、ご迷惑をかけたと恐縮したのよ」

「本当に美味しくて納得したわ、でも普通の女はあんなお弁当、作れないので安心したのよ」

 なんていいながら、カラカラと笑うのですよ。


「ところで何をされているのですか?」

「五平餅の為のお米を潰しているの、でも上手くいかなくて……」

 断りを入れて、そのご飯なるものを食べて見ますと……

 かなり柔らかいような……ある程度柔らかくても五平餅は作れますが、あまり美味しく出来ないでしょうね……

 

 おおらかな文子様ですが、かなり焦っておられるようです……

 見ると失敗したご飯が、かなり大量にお店の裏にあるのです。


 最高学年の薙刀部のバザーのようで、相当にごつい方たちばかり、文子様も背が高く、かなり美人ですが、ごついのですね……

 卒業面も納得の方々です。

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