華族高等女学校の『春のバザー』 其の一


 待ち合わせ時間より、5分ほど早かったのですが、神津小百合さんが待っていました。

 待ち合わせ場所といっても、受付の横ですけどね。


「お姉様方!お待ちしていました!」


 制服姿の小百合さん、とても可愛く、元気いっぱいです。

 附属尋常女子小学校は、制服があるようですね。


 やはり女性ばかり、若い殿方はほとんどおられません。

 そりゃあ、そうですよね……


 むせかえるほどの白粉の匂い、なかには香水の香りもまじっています。

 若い女学生が、店員さんをしているのですね。


 あれ、食べ物屋さんですが、タコ焼きなんてなさそうですね……

 ふむふむ、『ケーキや』さん?

 『ケーキや』さんはパウンドケーキでしたね……

 『クレープや』さんも見つけました。


 あっ、『お寿司や』さんがありました……

 珍しいですね、五目ちらしを押し固めて、切り出すタイプのものです。

 なるほど、魚は入っていません。


 概ね、品の良い物ばかりですね。


「小百合さん、なにか食べたいものはありますか?」

「ケーキやさん!」


「ケーキや」さんで、パウンドケーキを購入……


 校庭中央にテーブルとイスが置いてあり、ここでお茶、または紅茶を頼めば、購入した物や持参の物を食べられるようなのです。

 テーブルチャージといいますか……総じてお値段は高いのですよ、でも利益は全て孤児院へ寄付するそうです。

 こうなると孤児院出身としては、お金を落とさなくてはなりませんね♪


 私たち、普段はお金を使うことがないのです。

 なんせ、必要な物は全てメイドさんが取り寄せしてくれます。

 下賜金という形で処理されているようで、今着ている服も洋子様が選ばれたのですが、メイドさんがついてきて支払ったそうです。


 なんでも、例のペニシリンの売り上げ、特許をたてに帝国が国営企業として製薬会社を設立、かなり高価に売っているとらしいのですね。


 慶子様にこっそり下賜金についてお聞きすると、内緒ですが、この国営企業が私の為に王国や共和国の特許も取っており、売り上げは莫大とか……


 私への下賜金は機密費に分類されており、その横に特許分配金と添え書きされているとか?

 機密費の内訳は委細公表されない決まりです。


 家のメイドさん、永年奉公と聞いていますが、慶子様がこっそりと、メイドさんの債務の購入代金も、この下賜金の中より出されているとか……

 皇后様と皇太后様が、私の為に、見目麗しい方を調達したようです……

 

 それでも、私がどんなに使おうと減らないようですね。


 紅茶はお湯が沸騰しすぎて、せっかくの香りがとんでいました。

 パウンドケーキも美味しいとは云えませんね……


「お姉様のクッキーの方が美味しいかも……」

「小百合さん、声を控えて……」

「申し訳ありません……」


「じつはお土産にお菓子を持ってきたの、ここで食べる?」

「頂いていいのですか!」

「勿論よ」


 ああ、小百合さん、尻尾を全力で振っているチワワに見える……可愛い♪


「今は六月、サクランボのチーズタルトを作ったの、これを食べてね」

「これなら今日明日ぐらい持ちますからね♪」

 ホールではなく、小さいものを六個作っていたのです。


「飾り付けすると持ちが悪いから、見てくれは悪いけど、美味しいと思うの」

 小百合さん、聞いていない……


「私たちはこのパウンドケーキを頂くわ、だって食べなくては作った方に悪いでしょう?」

 でも、ボソボソで頂くのに苦労したのです。

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