卒業面は褒められないそうです。
六月の第一日曜日、神津小百合さんのお誘いに答えるために、華族高等女学校に出向く日です。
「洋子様、ご用意は出来ましたか?」
「雪乃様こそ、お土産は出来ましたの?」
この日のために、洋子様と協議の結果、小百合さんのためにおやつなんて用意することにしたのです。
お出かけ用の普段着、もう六月というので夏服となります。
いわゆる『大正モダンガール』ですよ♪
長い丈のワンピース、幅広の帽子……
淡青の服に淡黄の帯のようなリボンのような物を絞めています……
帽子は白い麦わら帽子……
我ながら似合っていますね……
これは洋子様が選んで下さった物です。
「さあ、都電の電停はこの先です、華族女学校へは一度乗り換えですから……」
近頃、洋子様に私は頼りっぱなしです……
「バザーということで、何でも女学生がお店を出しているそうで、お昼はそのお店で買いましょう♪」
「そういえば、私たちの学校では、そんな行事はないような……」
私が言うと、
「何をいっているのですか、秋に校内バザーがありますよ、規模は小さいですけどね」
「じゃあ、今回は参考にさせていただきましょうね♪楽しみですわ♪」
華族高等女学校は附属尋常女子小学校を併設しており、華族高等女学校と一体となっているのです。
ここは明らかに上流階級の花嫁学校、男子禁制の女の園ですが、四季折々に『バザー』を開催、女性に一般開放しているのです。
殿方は生徒の父兄、親族関係まで、つまりこの行事で、上流階級の子息の花嫁を物色する意味があるようです。
「ここに通うと、婚約や契約をしないで卒業すると、あまりよくいわれないのですよ♪」
洋子様が情報を披露してくれます。
「何故ですの?」
「卒業面――明治・大正の頃の言葉で、寿退学が出来ない、美人ではない、との意味らしい、by作者――と言われるそうです」
「はい?」
「帝国第一高女ではそんな風習はないのですが……私たち、まだ発表はされていませんし、華族高等女学校にいたら大変な事になるでしょうね♪」
「ごめんなさいね、私が洋子様の卒業を希望したことで……」
「雪乃様が気にすることではありません、雪乃様のお陰で売り飛ばされることもなく、こうして学校へも通えるのですから……私は雪乃様のお心のままに従いますよ♪」
「洋子様、メイドじゃないのですから、一蓮托生と誓った仲ではありませんか?」
「雪乃様……お慕いしております……」
こんな話をしながら、ふと思うのです。
私も、このおかしげな世界に毒され始めている……
なぜか、ぱっとしない親王殿下を愛している……
それが嬉しい……
まぁいいでしょうね、二度目の人生、女というのに、望み得なかった女の一生、楽しまなくっちゃ……
誰かを愛し、心待ちにし、胸をときめかせる……いいものよね♪
ただ、この『爛れたレズ』の社会風習……
あれ、どっぷり浸かって楽しんでいるではありませんか……
都電は華族女学校前につきました。
「記帳をお願いします」
受付の生徒さんがおっしゃいます。
皇后様より頂いた万年筆など持ち出して、『岩倉姫宮雪乃』と書きます。
なにもおっしゃいませんが、じっと万年筆を見ておられました。
なんせ、この万年筆、皇家の紋章入りですからね。
洋子様も万年筆を取り出していました。
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