第41話 出撃、ウィントレス
デーディリヒの善戦でどうにか4連敗を防ぐことはできたが、それは単に連敗を止めただけでナの国は今だ1勝もしていない。
つまりナの国の筆頭騎士たちは、クの国の機動甲冑に対して一矢すら報いることができなかったのである。
これで活気を持てというほうが酷というもの。
「何とか1勝するつもりだったのだが……面目ない」
あのデーディリヒが陣に戻って開口一番、他の筆頭騎士たちに頭を下げて詫びの言葉を口にするほどである。
言葉使いは慇懃で丁寧でも常に上から目線で何かと癇に障るあの男が、言い訳のひとつもなく己の力不足だと言って敗北の結果を謝罪したのである。
それがどれだけ異様なのか。
「おいおい、やけに神妙だな」
めったに聞けないデーディリヒの神妙な言葉にガイアールたちが目を白黒させたのも無理はない。
だがデーディリヒには己が課した信念があるようで「どのように取り繕うと勝てなかったのは事実。期待に応じられなかったのだから詫びるのは当然ではないかと」と言う。
己を責めるようなデーディリヒの弁を、オルティガルムとマニッシュが「オマエは悪くない。オレたちが不甲斐なかったからだ」と逆に詫び、ガイアールも「2人の言う通りだ」と首を縦に振る。
その上で「それに、だ」となおもガイアールが言葉を続ける。
「オマエさんは「勝てなかった」と卑下するが、引き分けに持ち込んでくれたおかげで、我々の立場を「屈辱」から「不名誉」にすることができた」
「しかし……」
口ごもるデーディリヒをガイアールが「まあ待て」と手で制する。
「もちろんお館様の不興を買うのは変わらない。だが我らは親善試合とはいえ、クの国の機動甲冑と実際に剣を交えたのだ。ただ負けたのではない、きゃつ等の戦いかたや太刀筋をこの身に焼き付けたのだ。次は決して負けやしない」
力いっぱいに力説するガイアールに「それは無論」とデーディリヒも応じる。
「2度と同じ失態は見せないとも」
よほど屈辱だったのだろう、拳に力を込めてデーディリヒが力説すると「オレも」「オレもだ」と他の筆頭騎士たちも後に続いた。
一見すれば筆頭騎士たちの結束の強さを見せているようだが、一人蚊帳の外に置かれたレーアとしては些か……いや、かなり気に食わない。
「最終の第5戦はわたしなんだけど?」
ハッチを開けて自分もいるとアピールするが、当のガイアールからは「姫の戦果はお館様から対象にしないようにと命じられてますので」とつれない返事。
なに、その他人事みたいな言い草。
そりゃ確かに翔太頼りではあるけれど、ウィントレスは他のどの機動甲冑よりも機敏に動くわよ。
「わたしが活躍しないとでも言うの?」
苛立つ感情を押さえて聞くと「いいえ、そんなことはありません」と一応は否定する。
しかし、続くセリフが憤慨もので「存分に暴れてくださいませ」と、見るからに心がこもっていない軽い返事。
なんのことはない、端からレーアを戦力カウントをしていないのである。
「何、ソレ。ムカつくわね」
能力不足での員数外ならば、不本意とはいえまだ納得もできる。
しかしレーア自身はともかく、翔太がウィントレスを駆れば、彼ら筆頭騎士と同等もしくはそれ以上の実力を発揮するのだ。
実際に剣を交えた連中が、それを知らぬはずがない。
だがガイアールの口から「お館様の命ですので」の新事実が発せられる。
「どういうことよ?」
「お館様より、姫さまには「勝敗に関係なくノビノビと試合を楽しむように」との下知を受けておりますので」
答えるガイアールの視線はレーアを捉えておらず、パーセルの顔色を伺っているようにしか見えない。
ゆえに試合についても一切口を挟まないと半ば公言したのだ。
「だからって放置するのはどうなのよ?」
大人げない対応に憤慨すると『そう言ってやるな』と翔太が苦笑い。
『連中にもメンツがあるからな。レーアが頼りだなんて、口が裂けても言わないだろう?』
曰く、今の状況だと善戦でも面目丸つぶれで、もしも勝ったら自分たちの立場すらなとのこと。
そして以前彼ら4人を薙刀で叩きのめしたこともあるから、可能性としてあり得るので微妙な葛藤が生じているのだろう。
なるほど、ありがちなアレか。
「ふん。そんなちっぽけなプライドだから、クの国の機動甲冑なんかにあっさり負けるのよ」
つまらない拘りを一刀両断しながら「そんなことよりも」と言いながら刃挽きされた訓練剣を手に取った。
「今日の得物は剣なんだだけど、これで試合は大丈夫?」
以前ガイアールたち筆頭騎士を圧倒したときに使った得物は、薙刀という独特な使いかたの長槍なのに対して、今回武器として用いるのは長さが半分程度しかない剣なのである。
まったく勝手が違う武具を使うことにレーアは心配するが、翔太は『ノープロブレムだ』と不安の欠片もない余裕のコメント。
「ずいぶんと余裕たっぷりね」
『そもそもオレが習っている陰陽流は剣の流派。薙刀は「やったことがある」というだけで、刀の形状こそ違えど本来やっているのはこっちだからな』
機動甲冑での対人武具ならリーチの有る槍のほうが良いだろうというだけで、自分が使う分にはむしろこちらの方が得意なのだと言う。
「でも何だっけ? 「ボクトー」とかいう木で作った剣でしょう? 今日使うのは訓練用とはいえ本物よ」
重さや振り抜きの感覚も全然違うだろうと問えば『それも問題ない』とのコメント。
何でも木刀に重しを付けて真剣と同じ重量にしているのだとか。
『さすがに試合に真剣は使えないけど、本来は片刃の日本刀だからな、ウチの流派は』
だから問題ないとの返答だが『それよりも……』と、別件でもっと深刻な問題があるのだという。
『ウィントレスで動くのが久々だからな。ちゃんと動けるのか、そっちのほうが心配だ』
ここ最近は機動甲冑に騎乗されることもなく、専らクリスの身体を介しての召還だったので動きに違和感が出ないか不安だという。
呼び出す当事者としては「アハハ」と苦笑いするしかない。
「確かにウィントレスに騎乗するのは久しぶりだものね。わたしだって機動甲冑を自在に動かしたかったのだから、騎乗の時に呼ばなかったのはしょうがないでしょう」
『それで成果は?』
翔太の問いかけにレーアは下手くそな口笛で答える。
『そういう事だからオレがいる訳か?』
半ば呆れつつもやる気になったのだろう。
ウィントレスの主導権がレーアから翔太に切り替わり、試合場の中央へと歩を歩み出した。
いよいよ親善試合の最終戦が始まろうとしていた。
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