5
「アンタたちこそ、公園で何してんの?」
公園なんて、遊ぶぐらいしか目的がないと思うが、あえて聞かないのは俺たちの状況を察してくれたからだろう。多分。
「ここに武器代わりのものを置き去りにしてしまって、それを取りに戻ったんだけど、どこにもなくて・・・。」
「どんな物?」
わずかな期待を望みをかけて指折りながら答える。
「チェーンソーとか、バットとか、ツルハシとか・・・。」
「ハァン!?なぁにそれ、ただのガラクタじゃない、武器の代わりにもなんないわよ。」
割と大きな声が返ってきた。思いっきり馬鹿にされた。そこまで言わなくても・・・。
「そんなガラクタ、掃除屋がとっくに回収して処理場に持ってってるわよ。」
掃除屋!?処理場なんてのもあるのか!?ガラクタ呼ばわりされた事については触れないというか、そっちの方が気になった。思ったよりこの世界は文化的だ!なんて感心を覚えていると、アルツーからピーと高い音が鳴った。
「ゴミを片付ける習慣が無かった為に不服を訴えた人間が一つの文化という形式で広めたものです。」
またも丁寧に解説してくれる。掃除する習慣が無い、ゴミだらけの世界、想像もできない。いや、したくもない。だって、ゴミ感覚でさっきフェンスの外で見たアレがそこら辺に落ちていたと考えると・・・。
「つまりはそーゆーこと。残念ね。」
心底興味なさそうにタバコを蒸している。
「そんな・・・。」
弱った。せっかく取りに戻ったのに、ゴミとして丁重に処理されてしまっただなんて。
「俺のバット・・・。」
俺のだけどな。オスカーは俺以上にひどく落胆していた。手ぶらになった聖音も若干不安な表情を浮かべていた。一行はすっかり落ち込みムードである。
「つーかアンタ邪魔なのよ。」
スージーが誰かに向けて放って言った。それを確認しようとすると同時に、発砲音が鳴った。放ったのは言葉だけではない。銃口を向けて放った弾丸は、アルツーの右胸を貫通していた。驚いたのはそれだけじゃなかった。本当に、一瞬の出来事だった。わずかでも隙があったら止める声の一つもあげれただろう。スージーのぶら下がっていた右手が上がって腕が静止した「瞬間」に撃ったのだ。撃つ動作が、まるで速すぎる。無駄な動作どころか最低限の動きすら目で捉えられなかった。
・・・・・・。
早撃ちに気を取られていたが、俺たちの驚きはまだ終わるのを許さない。
撃つところを見ていなかった聖音は口をあんぐりと開けたまま固まっている。オスカーでさえ絶句していた。アルツーはしばらく棒立ちで、口からではないどこからか機械音の混じった声を途切れ途切れ発していた。
「ア・・・ア・・・コ・・・。メ、デー・・・メーデー、ア。」
「うるさい。」
バン、バンと二度。胸の近くを撃つ。今度は普通に撃つ動作を確認できた。アルツーは撃たれるたびに体を跳ね上がらせ、しばらくすると綺麗に後ろへと倒れた。
「・・・・・・。」
何事もなかったようにスージーは銃を太もものケースにしまう。
「・・・ええっ!?え、えっ!!?」
時間が止まっていたかのような沈黙の中動き出した聖音が、仰向けに倒れているアルツーとタバコを嗜んでいるスージーをせわしなく交互に見ている。
「なんで!?」
としか言えなかったが、理由はちゃんと明白だ。邪魔だった!?多分何も邪魔らしき邪魔はしていないと思うけど。でもスージーなら「いるだけで邪魔」とか言いそう!そうなったら元も子もない!
「どうせ監視機能ついてんでしょ?迂闊にアイツの悪口も言えないじゃないの。」
それだけ?意外にもそういうこと気にするんですね!?
「壊しちゃった!ど、どうするの!?アマリリアさんのだよ!?なんて謝ればいいの!?」
と言って聖音が動かなくなったアルツーの肩を掴んで力いっぱい揺さぶる。がくんがくんと頭が動く様はロボットとは思えないリアルさで、見ていて怖い。しかし、こうして一緒に連れ出してまで外へ出たからには責任はおわなきゃいけない。素直に言って、謝るしか・・・。
「んなのわかってるわよ。あとで直せばいいんでしょ。」
「直せるのか?一体どうやって・・・。」
そこまで言って思い出した。スージーが、車を拾う為にした無謀。車を壊した後にあっという間に直した、魔法みたいな力。
「スージー、自分が直接壊してなくてもあの力は使えるのか!?」
対して彼女は自信満々のご様子だ。
「モチのロンね~。どんな方法であれ、アタシが破壊したモノなら破壊する前の状態に戻す事が出来る。これが魔法ではない、固有の
「すげぇ・・・けど、かっこつけてるのか?それ。」
急にゲームぽくなったな。
「アタシが名付けたわけじゃないし・・・。」
と、目を下にそらして呟く彼女は少し恥ずかしそうでもあった。名付けてない、というのは信じるが、結構堂々と言い切っていた気もする。
「あっ、思い出した思い出した。ちょうどアタシもね、アンタ達に用事があったのよ。直接話せてよかったわ。」
急に話題を変えたかと思えば、モッズコートのポケットから二つに折りたたんだ封筒を取り出す。所々、血がついていた。
「キャメロンってガキがオスカーにこれ渡しといてくれって。」
差し出された封筒を乱暴に受け取り、封を開くと中からは切り取られたノートの一ページ。俺と聖音には見えないよう裏を向ける。
「これは・・・なんっ、マジかよ・・・。」
驚きで瞠った目はゆっくりとアルツーとスージーを交互に見つめたあと再び紙に視線を戻す。
「・・・あとで見るわ。」
封筒に戻し、さらに小さく折り畳んでズボンのポケットに無理やりねじ込んだ。
キャメロン・バルバーニー。俺たちのクラスメイトでありながら、不登校なので会ったことがない。セドリック曰く、「変わり者の天才で、みんなを馬鹿にして誰とも友達になろうとしない。オスカーとは違う意味で嫌われ者。」だそうだ。俺のいるクラスには二人、不登校児がいる。そのうち一人がキャメロン。もう一人は・・・。
「おい、そのあとどうなった?」
しかしオスカーとはなんらかの交友関係でもあったのだろうか?あいつが特定の誰かを気にするなんて珍しい。
「会った時はすでに死にかけだったからね。もう助かっちゃいないでしょう。」
「・・・・・・。」
まだ助かったかも知れない命を放置したような言い方に、オスカーは何も言わず表情すら変えなかった。
「・・・ガッコウを出るときに、会ったのよ。コレを、中にいるアイツにってね。」
建物の中が安全とは言い切れないが、危険だらけの外に出て、自分の命を顧みずに、そこまでして一体、何を伝えたかったのだろう。
それにしても、スージーの言うガッコウとは話の流れ的に俺たちの通う学校のことだろうか。
「仲間を放置したままだったし、ちょっと気になってたからもう一回行ってみたのよ。」
理由はなんであれ、わざわざ赴いてくれたのは個人的に嬉しかった。
「・・・中はどうなってた?」
そして、同時に嬉しい知らせも待っていた。
「どうだったも何も、いい知らせなら真っ先にマシューに伝えてるわよ。」
そうだよな・・・。
後悔が押し寄せる。俺も自分のことでいっぱいいっぱいだったとはいえ、助けに行く為に時間を割くこともできたのでは?と考えた後に、俺が行った所で何が出来るんだろうという虚しさも感じる。悪い知らせをすぐに伝達しないのもなんとなく察した。彼女なりの気遣いだった。
「諦めなさい。ついでに言うと無理に他の仲間を助けに行こうとせずに自分達が生き残ることだけ考えんのよ。どうせそれぐらいしかできそうにないんだから。」
そう。これは彼女なりの・・・。
「ハッ、言われなくてもそうするね。」
と胸を張ってほくそ笑むオスカーと、アルツーのそばで聖音はややぎこちない真面目な顔でガッツポーズを決めていた。
「も、もうこうなったら仕方ないよ!やれることだけのことをやろう!」
事情を知らず、巻き込まれただけだからこそそこまで気負わずにいられるのか?俺はこの二人に何を感じたらいい?罪悪感?それとも信頼と安堵?
「何白けた顔してんだよ。むしろ余計な手間が省けてラッキーじゃねえか。」
「そーゆー事じゃなくて・・・。」
オスカーは多分、本気でそう考えている。聖音は慌ててフォローするが。俺はお荷物が減ったとは思っていない。後悔は消える事は絶対にない。だとしても、みんなの励ます気持ちは素直に受け取ってもいいのではないか?複雑な気持ちが胸の中を回る感じがする。
「ししょー!」
突如、またも聞いたことのある声がした。マシューの声だ。スージーがきた方向の遠くから聞こえてくる。
「どおー?そこもダメだったのー?」
師匠、もといスージーが声を張り上げて返事をするとすぐに返ってくる。
「はいー!ここもダメです!」
「そんなに周り潰してダメならもう全部ダメなんじゃないかしら・・・。」
深いため息とともに手首で眉間を押さえ、ひどくうなだれた。実年齢を知らないが、一瞬にして老けて見えるほどの疲れが顔に出ていた。
「何やってたんだ?」
スージーはもうだいぶ小さくなったタバコを惜しそうに蒸した。
「何って、マシューのアレができる場所を探してるのよ。」
どうもわかりやすく助かる説明でありがたいことこの上ない。もちろん、皮肉だ。
「アレってなんだ?」
アレでわかるわけないだろ。
「アレよ、アレ。二つの世界を行ったり来たりできるマシューだけの特別な力。なに?聞いてないの?」
聞いていない。初耳だ。
・・・なんだって?
「なんだって!!?」
聖音、オスカーと俺の三人見事にハモった。それはもうまるで背後に雷が落ちたみたいな、脳天に鈍器でも振り下ろされたような衝撃だった。
「アイツ、そんなことできるのかよ!!」
「ねえ、私達、帰れるんじゃないの!?」
運悪くもうっかり口を滑らしてしまったスージーが二人に詰め寄られる。俺はその勢いに負けてしまって後ろにのけられてしまった。
「ああもう鬱陶しい!じきに来るから、直接聞いて!」
一歩のけぞり、さすがに気圧されている。話しておきながら無責任にも本人に丸投げしようという試みに、近づいてくるマシューが案の定かかってしまった。
「誰と話してるんですかー?」
「ほら!あそこ!」
スージーが振り返るとそこには、いつもの服を着たマシューが駆け寄ってきた。
「あっ!リュドミール君!!オスカー君と聖音さんも、なんでここに、わっ!?」
聖音とオスカーが、今度はなんにも知らない
マシューを早速質問責めにした。
「やいテメェ!おいコラ!なんで今まで黙ってたんだこの畜生!!」
オスカーはただの脅しだ。質問になっていない。
「え、な、何が?」
マシューの反応もごもっともである。
「二つの世界って、私たちのいた世界とこの世界ってこと!?ねえ、そんなすごい力、なんで隠してたの!?」
聖音のおかげで察したものの状況はいまいち理解できていない。だって、話していないにもかかわらず知っているんだから。
「なんで知ってるの!?」
マシューの顔から血の気が引くのがわかる。まあ、隠していたかどうかは知らないが、話さないのは何か訳があったんだろう。そんな秘密を勝手に誰かによって明かされたらそんな表情にもなる。だからこそなのもあるけど、俺も一緒になって責め立てたら更にかわいそうな気もしたので少し離れたところで様子を伺う傍観者でいた。両手で静止しようとしてもそんなもので二人の勢いを抑え込むなんて無理だろうに。
「アタシが話したからに決まってるじゃない。」
「なんでぇ!?」
スージーは自分から矛先が別に向けられて他人事みたいにタバコを吸って俺と同じく防寒していた。いやいや、決まってるじゃないって。事情を知らなかったのを置いといてもまるで開き直ったような言い方だ。マシューは泣きそうな顔だ。哀れにも程がある。
「だーかーらー、もう話したもんだと思ってー。別にいいじゃない。コイツらにしたらアンタ、救世主よ。」
そう言うスージーが顔に浮かべた笑みは皮肉めいたものを感じた。
「僕だって、成功するなら話していたよ!」
二人の勢いがぴたりととまった。
そして、沈黙。何回長い時間だんまりすればいいんだ。しかも黙るたびに気まずくなる。
「・・・チッ、なんだそーゆーことかよ、使えねぇな。」
舌打ちと一緒に返ってくる、あまりにも辛辣すぎる言葉。
「なーんだ・・・でも、話すだけ話してくれてもよかったじゃん。」
そういう風にがっかりされるのが嫌だから話さなかったんだろうが。マシューも、きつく叱られた後の犬みたいなしょげ方してるじゃないか。
「うぅ・・・。」
かける言葉も浮かばない。するとスージーがもう吸う場所もなくなったタバコだったものを足元に捨てて爪先でただの塵になるまで潰したあと、心底呆れ顔でこっちにきてはマシューの肩に肘を置いた。
「勝手にお邪魔しといてそれはないでしょうよ。アタシ達も別に無理して付き合う義理はないんだからね?」
その通りだ。こうやって協力してくれているだけでも有り難いんだ。二人の気持ちもわかるが、それを当たり前にしてはいけない。
「・・・でも不思議は不思議よね。なんでまた急にそんな不具合が生じたのかしら?」
至近距離の女性と目があっても、慣れた仲からか特に動じることなく首を横に振るだけだった。
「詳しくは知らないが、その力の成功率はそもそもどれぐらいのものなんだ?」
そう訊ねると。
「百パーセントさ。ただし、条件があるんだ。どこでもその力が使えるわけじゃなくて、特定の場所に行かないと力そのものが使えない。」
「セーブポイントと同じね~。」
と、少し安心した様子で答えるマシューに横からスージーが割り込んだ。そういった類のゲームもしないことはないのでわからなくもないが・・・と、スージーは空いた手をマシューの目と鼻の先で、なにやら催促し始めた。すると表情一つ変えることなくコートの中から何かを探り始め、そこからタバコとライターが出てきた。スージーはそれを受け取ると軽快な手付きでライターの火を点ける。
「百パーセントのそれが、条件下でも成功しなくなったと?・・・あっ、いや別に責めてるわけじゃなくて。」
聞かなくてもよかったかもしれない。再び彼の顔に影が落ちた。
「まあ、つい最近おかしな事があって、それからだよね・・・。」
隣からくる白い煙を片手で叩きながら続けた。
「ついこの間。ちょっとした用事でそっちの世界にいた所、力を使ったわけじゃないのに急にこっちの世界に呼び戻されたんだよ。それから何度も試したけど、向こうの世界に入ることができなくなってしまって・・・。」
今度は落ち込むというより、まるでうんざり、みたいな疲れも混じりなんとも苦労のにじみ出た暗い顔だ。それにしても気になる話だ。マシューの力については大雑把に理解したものの、そっちにもいつもとは違う異変があった事。俺たちが起こした異常と関連づけるわけじゃないが。
「こんなの初めてだ。できるなら君たちや迷いこんだ人間をみんな、連れて返ってあげたかったんだけど・・・ん?あーっ!?コレは・・・!」
突然、仰向けで胸に風穴開けてフリーズしているアルツーを指差す。え?今気づいたの?結構存在感あると思うんだけど。
「このロボ・・・アマリリアの!?」
マシューもすっかり顔なじみのあのロボットである。
「大丈夫よ、ぶっ壊したから聞かれちゃいない。」
俺からしたら「大丈夫」が全然大丈夫って感じしないが・・・。
「よかった。こんなの、他の誰かに聞かれたりしたら大変どころの騒ぎじゃないから・・・。」
まあそれもそうだ。彼を誰かが利用する事は間違いないだろうし、人間に異様な執着する奴らが蔓延る化け物だらけの世界と異常に対応できない人間の世界が共存なんてとんでもない。そうなる前にとんでもないことになる。そんな予感しかしない。
「ねえ。個人的な意見なんだけど、聞いてくれないかな?」
しばらく黙っていた聖音がおずおずと手をあげる。
「なんだい?」
「勘に近いんだけど・・・。」
すう、と息を吸ったあとの真顔の聖音は微妙に雰囲気が変わったように感じた。今までとは別人みたいだ。初めて見た。
「この世界はしばらく、なんの変化もなかったんだよね?」
突拍子もなくいきなりスケールの大きい質問をぶつける。マシューは表情を和らげて普通に応答してくれた。
「この世界自体に異変はなかったね。」
「マシュー君は、何もしてないのに異世界に戻されたって言った。けど、「ここにいたのに、違うところにいた」って風にも考えられないかな。」
マシューのいうことを理解しているかいないのかわからないぐらい間髪入れずに次を問う。
「どう言えばいいかな。・・・目で見た感じは「世界が一瞬で変わった」みたいな。」
今度は独り言に近い感じだった。一人で勝手に名推理している、みたいな。
さすがにマシューもぽかんと丸い口を開けている。
「それと、スージーさん、今ある建物はここ数日でいきなり現れたとか、ない?」
今度の矛先はスージーに向けられた。
「まさか。そこのガキの家だって、だいぶ前からあのままの形であったわよ。」
俺の家だ。でもこの世界では、俺の家ではなく別の建物として機能していたろうに。
「そっか・・・ねえねえ、リュドミール君かオスカー君、それか他のみんなで「この世界に迷い込む前かその瞬間」外でどんなことが起こった?というか、どうやってここにやってきたの?」
今度は俺たちだ。なんだこの、尋問のような光景は。普段の聖音にはこっちが言い返せる隙があるのに、今の聖音には、迂闊に言い返せない雰囲気があった。オスカーと同じく、彼女にもまた意外な一面を垣間見せている。
そして、俺に危機が迫りくる。カミングアウトの危機だ。ドクン、と心臓が大きく脈打つ。表情で悟られないよう、下を向いた。
「俺は学校の教室にいたぜ。そしたら急によ、グラウンドにクソ高い光の柱が立って、なんつーか、一瞬で広がったんだよ。光が。そしたら教室にいた奴らはほぼ消えちまって、代わりに化け物が湧いて出てきた。なあ、スージー。中にはどれぐらいいたんだ?」
視線だけをあげる。オスカーの淡々とした説明に何回か頷く聖音。説明ついでに質問されたスージーはくわえていたタバコを二本の指に移した。
「仲間からの情報を合わせると十数人ね。」
「それが気がかりだけど・・・。」
何が気がかりなんだ?聖音は何を訊こうとしている?急に、どうしたんだ?
鼓動が止まらない。何度も何度も体全体に響いて煩く、不快だ。嫌な汗が大量に吹き出て顔面を覆う。血の気が引くといった表現をそのまま体感している。寒気がする。
たった十数人?あの瞬間に一緒に消えたのか?
「そらもう、世界が変わったように見えたぜ。」
オスカーはあの瞬間を違うところから見た?
でも、この世界に外側からやってきたことには変わりない。
消えたみんなは、そう。元の世界にいるんだ。
「リュドミール君はその時、どこで、何をしていたの?」
「え・・・。」
とうとう、俺だ。この中で原因を知っているのは俺しかいない。どうしよう。どうしよう。隠している秘密が大きいだけに、口が頑なに開こうとしない。
「コイツはセドリックとハーヴェイと外へ出ていたな。ジェニーも一緒だったが。コイツに聞いてもしかたねえだろ?俺らと同じ巻き込まれ組だ。」
そう、遠目から見ると俺たちが何をしているかわからない。興味もないから見てもいないはずだ。オスカーは俺が外で遊びにいった。それぐらいの認識でしかいない。今言ったのがまさしくそう言っているようのものだ。
俺は・・・。
「で、何が言いたいのよ。」
スージーがいい加減、聞くのにも疲れた、といった感じだった。
「あくまで可能性だよ?」
真剣な顔で念押しする。
「私たちがここに迷い込んだんじゃない。この世界に、私たちのいた世界が侵食されてしまったんだよ。」
と、続けた。衝撃で、一周回って感情がぷつんと切れて空っぽになる。
「オスカー君の話を聞いたらそんな気がして仕方ないの。」
「また頭の痛くなる話ね・・・。」
「僕の力が使えない理由にもつながる。だって、飲み込まれてしまって二つが一つになっ世界で二つの世界なんか、行き来できるわけがない。だとすると、世界規模の大問題なんじゃあ・・・!?」
頭が真っ白だった。一応、ここまでの会話は絶え間なく耳に入っていたが、それに対しての思考が一切できない状態だった。
「待ちなさい。聖音の説で言うなら、もっと人間がいたっていいんじゃない?」
「そうだぜ。もっといろんなところにたくさんの人間がいるもんじゃないのか?」
「あー、それもそうだよね・・・。」
声色と雰囲気が、いつもの聖音に戻ったところで、ようやく考えられる余裕ができた。話の内容は理解したつもりだ。聖音のとんでも思想に、ツッコミが入った事で多少落ち着いていられた。人数については、その通りと肯ける。でも、聖音の仮説を完全否定できなかった。
違うところはあれど元いた世界とほとんど同じ風景、マシューの発言とオスカーの証言、そして、俺たちの方からこの世界に入ったとするなら、あの瞬間に俺の身に何か少しでも異変があってもおかしくないのではないか?眩しい光に目がくらんだだけで、体に感じたものは何もなかった。
これは、俺たちが考えもしない、とてつもない事態を引き起こしてしまったのかもしれない。
「例えばの話、たくさんいた中で一気に数が減ったとしても大騒動には変わりないわよ。」
「あくまで可能性の話だから・・・。」
「ったく、変な事言って掻き乱すなよな。」
耐えられない。今ここでいうべきかわからない。ていうか、全てを知っている俺が言わないでどうするんだ。
「ごめん!!」
「はえっ!?」
咄嗟に出たのはこんな重大な秘密を自己防衛も含めてずっと黙っていた事についての謝罪だった。当然、みんなは「何で急に謝ったのか」と不思議な顔で俺を見つめる。
「ど、どうしたの?急に・・・。」
聖音が心配そうに様子を窺っている。関係ない。俺は続けた。
「本当は、事が終わってから話そうって思ってたけど・・・。こっちの世界の人にも迷惑をかけている以上、もう黙っていられないと言うか・・・。」
セドリックには後で謝ろう。状況を話せば、わかってくれると信じて。もう限界だった、色々と。
「何だい?話してごらん。」
マシューのお言葉に甘えて、不安要素であるオスカーを横目で見た後、自分が目の当たりにした全てをここで思い切って話すことにした。
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