第32話 敗北

 王国は西から迫りくる魔獣の群れに頭を悩ませていた。

 西に広がる森から巨大な魔獣が現れ南北に伸びる壁を破壊しに来るのだ。


 毎年兵を派遣し防衛を行っているらしい。


 俺が付いた時には壊滅的になっていた。

 崩れ落ちた支城、敗走する兵士達。

「どうなっているんだ」

 獣の雄叫びが響き渡る。

 ダンプカーぐらいの巨大な狼の群れが迫って来る。


 ラーレッケはその光景を見て叫んだ。

「ああああぁぁぁ!」

 彼女を抱きしめる。

 これしか彼女を落ち着かせる方法はない。

 彼女が過呼吸に成り息を吸い続けている。

「正気を持てってくれ暴走なんかしたら困る」

 落ち着くように背中を撫でる。

 徐々に彼女は落ち着く。

「ゆ、ユウキ君、逃げよう……、皆死ぬ」

「君は逃げてくれ。

俺は足止めする」

 

 重装甲の甲冑を来た兵士が巨大狼に頭から噛みつかれ持ち上げられた。

 咄嗟に彼女の目を手で覆い隠す。

 人が食われる瞬間なんて見たくはない。


 俺は杖をかざす。

 魔気よ集まれ!

「大地よ刃となり敵を貫け!」

 石の塊が空気との摩擦で光熱に成り巨大狼の額に直撃し爆発を起こす。

 狼は地面に溝を作りながら反動で下がった。

 額から血がこぼれ出たがまだ戦意を失っていないようで俺を睨みつけてきた。

 

 俺の魔法の中では最大威力なんだが……、これが効かないってやばいな。


 大地を揺らし地響きをあげながら数体の魔導鎧がやって来る。

 巨大狼にとって脅威なのは魔導鎧の方らしく視線は魔導鎧の方へ向いた。

「これで助かる」

 だが目の前で、その魔導鎧が巨大狼達に噛みつかれ破壊されていく光景が広がる。

 脆い。

 腕を引き裂かれ、足を噛み砕かれ崩れ落ちる。

「なんだよ、こんな姿を見たいわけじゃない」

「早く今の内に逃げましょう。

ユウキ君の力でもどうしようもないでしょう?」


 魔導鎧の胴体は壊せないようで、手足を破壊すれば巨大狼は離れていく。

 魔導鎧の構造は研究して知っている。

 模型だって作った。

 手足ぐらいなら魔法で再現出来るはずだ。

「もし勝てるチャンスがあるとしたら、今しかない。

俺を信じて付いてきてくれ」

「……命を預ける。

死ぬ時は一緒よ」

「有り難う」


 

 魔導鎧が全滅する前に、壊れた魔導鎧に乗り込む。

 巨大狼は近づいても、関心がむくことはなく魔導鎧の側に来ることが出来た。

 魔導鎧は腹の部分から乗り込むことに成る、扉が開いており中に誰も乗っていない。

「中に入って」

「はい、壊れた鎧に隠れるなんて灯台下暗しよね」

 気づけばパロマは何処に行ったのか居ない。

 逃げてくれたのだろうか。

 中に入り扉を締める。


「初めて動かすことに成る。

君は席の後ろで捕まっていてくれ」

「もしかして、これを動かすつもり?」

「そのつもりだ。

魔法で手足を構築する」

「それは私に任せてくれない?

ユウキ君が消耗してしまったらいざという時に詰む」

「解ったけど、内部構造は理解しているのか?」

「魔法の干渉を使えばユウキ君の想像通りに変えられるでしょう?

私はおぼろげに形を形成するから、詳細は任せます」

 魔法好きだけあってよく知っている。

 彼女が壁に手を当てる。

 その上に手を乗せた。

 どんな形を作れば良いのか想像する。


「外殻は鎧のように、中は空洞で細い糸が通ってる。

幾つもの線が交わらず伝達のために存在しているんだ。」

 骨もなければ歯車すら無い。

 魔法の浮遊力によって操られている。

 糸で動かす操り人形に過ぎない。

「出来たわ。

これで動くと良いのだけど」

 操作するボタンやレバーの数に唖然とする。

 まだこんな旧式を使っているんだ。


 俺は邪魔で使わないボタンを外し初めた。

 それを見た彼女は驚き聞く。

「何で壊すの?」

「間違って押す可能性がある。

必要なものは意外と少ないんだ」

「ふーん、でも必要だからあるんでしょう?」

「いろんな状況に対応するなら必要でも、

素早く動かすには無用だ」

 沢山ボタンを覚えないといけないと混乱して迷う。

 その遅れが動きに響いてくる。

「随分と詳しいのね」

「頼みがあるんだが俺がレバーって言ったら、そのレバーを引いてくれないか?」

「はい、これは?」

「扉を開くためのレバーだ」

 

 手足を使い操作を始める。

 足のペダルは力加減を調整するものだ。

 車のアクセルみたいなものだ。


 魔導鎧の頭部からの映像が正面の壁に映っている。

 青空だ。

「さあ起き上がれ!」

 景色が変わっていく、そして目の前に巨大狼が見えた。

 大剣を掴み構える。


 それに気づいたのか巨大狼がこちらに向かってきた。

 彼女が叫ぶ。

「動きが早い間に合わない!」

「早く動く必要はないんだ。

相手が来る位置に剣を運ぶだけだ」

 飛びかかってくる狼の首が吹き飛ぶ。

 大剣で切り裂き跳ねたのだ。


 霧状に消滅していく巨大狼を踏み潰し前へ進む。

「どうして前に出たの、無駄に動けば消耗が激しくなって保たない。

魔法で作られた足だって解っている?」

「だから進むしか無い、待っていたら時間切れになる」

 手と足を魔法で構築しているが、魔気がなくなれば崩れ落ちる。

 それが長くない事は良く解っていた。


 巨大狼が左右から襲ってくる。

「片方の腕はくれてやる。

だが一匹は確実に倒す」

「私はもう無理、腕を構築するだけの魔力は残ってない」

「片手で大丈夫だ。

軽くなって動きやすく成る」

「じゃあどうして再生したの?」

「立ち上がるために必要だったからだ」


 噛みつかれ衝撃が伝わる。

 砕ける音が響く。

「喰らえ!」

 遅れて来るも一匹に大剣を突き刺す。

 大きく開いた口の中に入り頭を貫く。

 突進してきた勢いを乗せてもう一匹に回転斬りを食らわせた。


 血みどろの無茶な戦いだ。

 彼女は青ざめつつも撃退する度に喜んだ。

「ユウキ君、凄い。

愛してる」

「君の愛は軽いね」

「この状況で惚れないなんてありえない。

あの騎士団でも手も足も出せずに負けたのにたった一人で3匹も撃退したのよ」

「状況を覆すには絶望的だ」

 目の前には5匹の巨大狼が横並びしている。

 既に他の魔導鎧は破壊されてしまったのだ。

 

 連帯出来れば勝ち目があったかも知れない。

 だがもう一対五で戦わなければならない。

「それなら最後に口づけしてくれない?

私を守るって約束を守れなかったから、

願い事を聞いて欲しい」

「本当に絶望的に成ったらそうさせてもらう」

 覚悟を決めて突撃した。

 

 一匹は確実に撃退する。

 巨大狼は左右に分かれる。

 囲って襲ってくるのは目に見えている。

 初めは牽制で2匹が前に出る。

 それを剣を振り怯ませた。

 来る。

 返す剣で斬りつける。


 頭部に命中し砕いた。

 同時に両足が噛み砕かれ倒れる。

「今だ、レバーを!」

「はい」

 彼女がレバーを引くと同時に俺は彼女を引き寄せ抱きしめた。

 扉が開くと俺達は飛び出た。

 巨大狼が俺を目掛けて飛びかかって来る。

「天に舞え!」

 杖が空中に急激に浮かび上がる。

 抱きしめあったまま上空へと来た。

 下で狼がぶつかり合っていた。


 彼女は聞く。

「この後は?」

「口づけだろう」

 彼女は目を閉じた。

 爆音と共に、魔導鎧が木っ端微塵に飛び散る。

 巨大狼はもろに喰らい崩れていく。

 彼女の頬に口づけする。

「はぁ、私を騙したのね。

あれは自爆のためのレバーでしょう?」

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