第33話 まあそうなるよね。

 仮設のテントに居る。

 戦闘の様子を偉いさんである騎士団長のザックが見ていたらしく連れてこられたのだ。

 ザックは40歳前後のガタイの良い大男だ。

 甲冑も凄く分厚く居るだけで圧倒される。

「学園から送られてきた魔導兵だと聞いている。

魔導鎧の訓練はまだだと聞いていたが、どうして動かすことが出来たのか説明してもらおう」

「趣味で模型を作りたり工場で見学したりと色々と学ぶ機会がありました」

「鎧騎士の資格がなければ乗ってはならないと言うことを知っているな?」

 車の免許みたいなものだ。

 あの状況で魔獣から逃げ切る事は不可能だ。

「はい、生き残れる最善を尽くす事が大切だと思い決断しました。

覚悟はできています」

「では罰として独房に一週間入ってもらう」

 秩序を守るためなのは解るが放置していたら、このおっさんはあの魔獣を撃退できたのか?

 顔色一つ変えず堂々としているな。

 頑固そうで融通が効かない感じの顔だ。

 口答えしたらひどい目に合わされる気がする。

「はい、反省します」



 最前線から後方に下がった所に街がある。

 そこまで輸送され砦の独房に入ることになった。

 狭苦しい場所だ。

 床にゴザが敷いてあるだけで、後は壺があるだけだ。

 壺の蓋を開けると異様な匂いがする。

「これはトイレみたいだな。

はぁ本当に一週間もここで過ごすのか」

 ハッピーな事があれば災難が待っているのはなんだかな。

 勢いのまま、彼女の唇を奪っておけばよかったか。

 いやあり得ないな。

 カルメラと会いたい。


 暫く寝転んでいるが退屈だ。

 何もしない出来ないと言うのは苦痛で仕方ない。

 なんかないか?

 ポケットを調べるとペンが出てきた。

 これがあればこんなちゃちな木の扉は破壊できるけど。

 

 魔法の球体を投げて遊び始める。

 壁にぶつけて跳ねるのを上手く受け、また投げるの繰り返しだ。


 暫く遊んでいると兵士がやって来て扉の前で怒鳴り声をあげた。

「こら! 壁を叩くんじゃない!」

 やばい。

 怒られた。

 まだ子供だから許される気がしたがそんなことはなかった。

 退屈なんだよな。

「さてどうしたものか」


 俺はヒーローになりたかったのかも知れない。

 それで皆からちやほやされてモテモテになる。

 そんなロマンと程遠いんだよな。


 魔獣との戦闘はゲームみたいで面白かったな。

 画面越しに見てるからよりゲーム感があるよな。

 ぼんやりと考え事をしている内に寝ていた。



 扉を叩く音がして目が覚める。

「尋問の時間だ。

付いてこい」

 まるで犯罪者みたいな扱いだ。

 ……実際そうなのか、無免許運転だものな。


 個室に連れて行かれた。

 そこにはフードで顔を隠した怪しげな奴が席について待っていた。

 テーブルの上には二人分の食事が用意されている。

「そっちの席に座れ」

 カツ丼みたいな感じののりなのか。

 食べて良いんだろうか。

 丁度、何も食べて無くて腹減っているんだよな。

 席に座り対面する。

「久しぶりですね。

ユウキさん」

 誰だっけ……、顔見えないし声も聞いた様な記憶がないな。

「えっと、誰でした?」

「以前は宝玉を取り返す手伝いをして貰いました」

「もしかして姫様……」

「食事をどうぞ」

 焼き鯖だ。

 これを食すのは久しぶりだよな。

 ここは港街じゃないよな、川や池で取れたりはしない。

 ということは養殖のやつか。

「脂が乗って美味しい」

「貴方が人魚を保護するようにと願い出たことで、

ここの食事事情は変化しました。

新鮮な魚が安く手に入り料理の幅が増えたのです」

「それは良かった。

尋問って聞いていたから、何を聞かれるのか凄く不安だったんだ」

 食事が半場ぐらい進んだ所で彼女は食事を止めた。


「あの森にはエルフが住んでいました。

ですが10年前に森を切り開くために追い出したのです。

それ以来、魔獣が増加する一方で被害が深刻化しています」

「もしかしてエルフが魔獣を撃退していたのか?」

「それだけではないようです。

エルフは意図的に魔獣を育成し王国へ放っています」

 土地を奪われたのだから取り返す為に動くよな。

 エルフと交渉は、人魚みたいに出来るのか?

 人魚は比較的に友好的だったから出来たことだ。

 敵対心を持って魔獣を送り込んでいるとしたら、絶望的じゃないのか。

「そんな話を聞かせると言うことは、

俺に交渉をさせるのか?」

「いいえ、魔獣をすべて蹴散らせて下さい。

そのための力を授けましょう」

「独房で反省している所だ」

「私の権限で鎧騎士の資格を与えましょう。

それで何の問題もないはずです」

「独房から出られるのか?」

「はい、勿論です」

 あんな狭苦しい所に閉じ込められているのはきつい。

 正式に魔導鎧に乗って戦えるならその方が面白くていい。

「よし引き受ける」

 

 うまい話は、そうそう無いものだ。

 きっちり独房に一週間閉じ込められた。

「うわぁぁぁ、姫様!」

「騒ぐな、今出してやる」

 姫様の言った出られるは時が来たら出られるという意味だった。

 幾ら姫様でも騎士団に関与することが出来ないと言うことが解っただけでも大きい。

 

 砦の外に用意されていた魔導鎧を見て驚いた。

 巨大な猫の姿をした鎧だったのだ。

 確かに言ったけど、本当にやるとは思っていなかった。

 鎧の前で待つ姫に近づく。

「獣型と言うだけで、貴族達は嫌悪し乗ってくれません。

ユウキさんなら抵抗はないですよね?」

「乗ってみないと解らないな」

「では一緒に乗りましょう」

「一人乗りじゃないのか?」

「一人では情報が多すぎて処理ができません。

なので二人乗りとなっています」

 猫型の鎧は腹の部分から開き階段となっている。

 中にはいると結構広く、護衛の兵士が2人も先に乗っていた。

 それでもスペースがあり、10人ぐらい詰め込めそうだ。

「奥の扉を開いて下さい」

 兵士が扉を開く。

 操縦席があり前後に並んでいる。

「俺はどっちに座ればいい?」

「前が基本的な動作をします。

そちらに座って下さい」

 前後の足で操作を分けたりしたら二人三脚みたいに息があってないと無理だぞ。

 本当に大丈夫なのか?

 前の席に座り、操作するボタンやレバーがコンパクトに少なく成っていた。

「意外と操作が少ないんだな」

「人工知能と呼ばれる仕組みが入っており、

操作自体は制御されています。

私達は何処へという命令を出すだけでそのとおりに動くように成っています」

 マニュアルからオートマをすっ飛ばしてAI制御に成ったのか。

 凄い発展だな。

 だったらコントローラーみたいな入力端末にして欲しいな。


 レバーを倒した方向へ進み、簡単に動かすことが出来た。

「よし、一気に加速するぞ」

 アクセルを踏み一気に掛けた。

 振動は殆ど無く画面の揺れもない。

 上下しているのだから激しい振動や画面の揺らきがあっても不思議ではない。

 それを瞬時に調整し表示しているのだろうか、それとも中心が振れないように工夫されてるいるんだろうか。

 感激だよな。

「では、そのまま最前線を目指して下さい」

「大丈夫なのか?」

「実戦で活躍している所を見せなければ、

この鎧を開発した意味が有りません」

 姫様の命令だ。

 これで怒られたりなんて無いよな。

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