第31話 変化
無事に巻物を先生に渡し訓練を終え寮の自室に居るのだが。
ラーレッケが猫なで声ですり寄ってきていた。
どうしてこうなったのか、全くわからない。
気づいたら彼女は俺に惚れていたのだ。
彼女が杖を向けた所までは覚えているが気づいたら外に出ていたのだ。
それからだ。
彼女がつきまとい抱きついてくるように成った。
「ユウキ君、ねぇ私の事を守ってくれるって言ったよね」
「君にうつつを抜かしている余裕はないんだ。
やるべきことがある」
「……冷たい、また引き篭もろうかな」
うう、そう言われると困るんだよな。
「いや、君みたいな美人が居ると恥ずかしくて。
側に居て良いけど離れてくれないかな?」
彼女は顔を赤らめ俯き少し離れた。
Nクラスに成ったことでひと回り小さい部屋に移動することに成った。
カルメラは不機嫌そうにこっちを見ている。
リーリョはベットで横になり欠伸をして暇そうだ。
正直なところはカルメラと二人切りの方が気が楽だ。
「ここで寝ていい?」
ラーレッケの言葉にカルメラは直ぐに反応した。
「駄目です。
ご自分の部屋で寝て下さい」
「貴方には聞いてない。
私はユウキ君と話しているの」
この世界での成人は16歳だ。
後3年も生殺しになるのか、少しずつ大人になってきて魅力的な子が多いのに。
誘惑に負けずに耐えなければならない。
ハレームならもっと歳考えて設定しろよ。
何で10歳からスタートしたんだろうか。
はぁ、習慣やら魔法の知識がない状態で放り出されたらどうしようもない。
学ぶにしても幼いほうが自然にできるからなのだろう。
「自分の部屋で寝てくれ……」
ラーレッケは微笑むと軽く俺に抱きつく。
「秘密を喋ったら殺すから」
何だ、この女は超怖いんだが……。
彼女は部屋を出ていく。
「はぁ……、困ったものだ」
カルメラは扉につっかえ棒をして鍵をかけた。
「彼女は虚言癖があります。
隠し子というのは全くのデタラメです」
「本当は養子なんだろう?」
「はい、理由は不明ですが貴族に拾われて育ったようです」
やっぱりあの時見た光景は彼女の思い出だよな。
「ゴブリンに村を滅ぼされるなんて可愛そうだ」
この世界の人々が亜人を憎むのもよく解る。
リーリョを殺せというのも、そういった化け物との戦いが続いているからなんだろう。
「何のことです。
彼女の虚言に惑わされないで下さい」
「どうして虚言だと思うんだ?」
「彼女は孤児院で生活を送っていて拾われたのです。
その町は今も平和に存在しています」
「それなら孤児院に入る前の事だろう」
「それが赤子の時に預けられているのです。
その孤児院に行って確認してきました」
記憶の改ざん、いやあの光景は彼女の心を映していたとすれば想像が入り込んでいても不思議じゃないな。
だとしたら知られては困る事があったのか?
後解らないことが一つある。
カルメラを信じればゴブリンを憎む理由が無いはずだ。
「彼女の事はもう触れないでおこう。
やる気に成ってくれているんだ。
知られたくない秘密を掘り起こす必要はない」
「解りました。
ですが彼女は信じない様に注意して下さい」
数週間が過ぎ教室に張り出された成績を見ていた。
俺は学園の嫌がらせにも負けず成績を順調に伸ばしている。
不安だったラーレッケもほどほどに伸ばし安全圏だ。
「ユウキ君に教えてもらったから上手く出来ました」
「それは良かった」
「お礼に何をすればいい?
キス、それもデート?」
こんなキャラじゃなかったのに豹変には驚きだ。
BL読むぐらい腐っている女だ。
こっちの方が彼女の素なのかも知れない。
「えっと、困るな……」
彼女は俺の手を握りそっと自分の胸に当てる。
温もりが服の上からも感じられる。
俺は思わず焦って手を離す。
クラスの皆が見ている所でよくそんな真似ができるな。
「ふふ、恥ずかしがって可愛い」
「意外と意地悪なんだな」
「どうしてそう思うの?
こんなにユウキ君の事が好きでたまらないのに」
皆のひそひそ声が聞こえてくる。
俺は彼女の手を掴むと教室を出た。
「いくらなんでもやり過ぎだ。
胸を触らせるなんて恥ずかしくないのか?」
「そういうのが嬉しいのだと思って」
彼女は悲しそうな顔をする。
「ごめん、怒りすぎた」
「ふふっ、あはは……。
ユウキ君は焦りすぎて本当に面白い。
だから楽しくてやっているのよ。
勘違いして私に惚れても良いけどね」
なんか腹の立つ女だ。
からかって居るのか。
振り回してくる奴は本当に苦手だ。
「皆の前では、ああいう振る舞いは止めて欲しい」
「いやよ。
守って貰うのに一番良いのは彼女でいることだから。
皆に見せつけていれば私に手を出す人は居なく成る」
「まあそれはそうだけど……」
俺の力を知ってあえて喧嘩を売ろうって奴は居ない。
それぐらいの力の差があるのは明確だ。
彼女の振る舞いに困りつつも半年が過ぎる。
最下位から一転しNクラストップとなっていた。
「これで次の試験でSクラスに昇格できる」
喜んだの束の間だ。
先生がやって来る。
「ユウキのチームは、徴兵命令が来たために派遣されることに成った。
すぐに準備して出発してくれ」
「ちっ、なんて汚いんだ」
一緒に来ることになったパロマがそっと俺の肩に手を置く。
「実戦に参加できるなんて光栄なことよ」
「魔導兵が足りない状況って、どういうことか解っているのか?
死ぬから足りなくなるんだ」
送られて戻ってこれる保証はない。
MクラスではなくNクラスから選ばれる時点で時間稼ぎの使い捨てなのは想像にしやすい。
「そんなに嫌なの?
いずれは騎士となったら戦うことになるのよ」
「君達を巻き込んだ事に怒っているんだ。
俺だけでいい筈だ」
「随分と傲慢ですね。
確かに私達はユウキ君と比べたら、非力だけどずっとユウキ君の為に頑張ってきたんです」
「すまない。
言い方が悪かった。
俺を排除するために、この派遣が決まったようなものだ」
「確かに先生とかの振る舞いには目に余るものが有りましたが、
それでも命を奪うなんて考えられません」
彼女は純粋で信用しやすいから悪意が信じられないのだ。
話しても噛み合うことはないだろう。
「そうだね。
俺の思い込みだ。
生き残るために出来ることを精一杯やろう」
「弱気に成らないで、何時ものように俺に任せろぐらい言って欲しいな」
「それは策がある時にしか言ってない」
「そうなの?」
何の対策も無いまま馬車に乗り込み出発することに成った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。