第5話 「太郎?花子?」お弁当の中身はなんじゃらホイ。



家の前の道には、車が入ってくることもない。


キャッチボールをしたり、鬼ごっこをしたり・・・・


見渡す限りの田んぼやった。・・・・田植えが終わって・・・まだ緑一色だ・・・・風がそよいだ。

突き当りに山々が見える。


その中を、ボクは、弟を自転車の後ろに乗せて走った・・・・ゆっくりや。ゆーーっくり。


後ろから弟がボクにしがみついていた。




ボクとゴンはサイクリング車で走り回った。

ボクたちの仲間でサイクリング車に乗っているのは、ボクとゴンだけや。


ゴンの自慢は、流れる方向指示器にストップランプや。

ボクの自慢は、スポーツカーなみに止まるディスクブレーキ。




「今度の日曜、サイクリング行こうや!」

ゴンが言った。


ボクのサイクリング車は、さすがにスポーツモデルで速かった。

もちろん、ゴンのサイクリング車より速かった。ゴンと走るたびに・・・流れる方向指示器を見るたびに「電飾組」に未練がないわけやない。

そんでも、ボクは、ボクのサイクリング車の後輪につけられたディスクブレーキがお気に入りやった。

じっさい、雨の日でも他の自転車のようにブレーキが滑ることがない。


後輪をロックさせて滑らせて止まるというカッコいい技も身につけた。


ボクたちはサイクリング車に乗りたくてしょうがなかった。

特に、陸橋や、坂道・・・・これまでの自転車では一気に走れへんかった道を、ギアを駆使して・・・・立ち止まることなく走り切るのがお気に入りやった。



行き先は小松島港と決めた。

おっきな客船が入ってくる。フェリーを見に行くんや!



日曜日。

通り道になるため、ボクがゴンの家に向かった。


・・・・ゴンの家の前に、おっきな車が停まっていた。・・・・アメリカの真っ白なキャデラックや。

ゴンの父さんがキャデラックを掃除してた。


「おはようございます!!」


「おう、カズ。おはようさん」


叔父さんが、手を止め、ゴンを呼ぶ。


ゴンの父さんは、ボクにとって叔父さんになる。

パッと見た感じは、ちょっと怖そうや。・・・怖そうってか・・・迫力があるってのか・・・

・・・・でも、ボクらにはメッチャ優しいんや。

よくキャッチボールの相手もしてもらったし、遊園地とかにもゴンと・・・それからゴンの兄ちゃんと一緒に連れて行ってもらった。



叔父さんに見送られて出発した。


二台で一列になって小松島港に向う。


・・・・目の前に、急勾配の下り坂・・・・電車の線路の下をくぐる坂道や。今日一番の難所や。

坂道で加速しながら下りきる・・・次は急勾配の上り坂や・・・・ギアを一番軽くする。・・・途中で。それでも苦しい・・・力いっぱいの立ちこぎで上っていく。


上り切った・・・・やったぁ~!と、二人で笑いあった。



港全体が見渡せる丘。

芝生になっているところに腰をおろした。

ちょうど、正面に出航していく客船たちが見える場所で、出航のたびに大きな汽笛が響く。


ここからはフェリーが見えた。


フェリーから出てくる車やトラックを見てるのが好きやった。


ボクも、ゴンも車が大好きやった。


ゴンはスポーツカーが大好きやった。

日産のフェアレディZや、トヨタのセリカ・・・

もちろん、ボクもスポーツカーは好きや。


・・・でも、ボクはトラックの方が好きやった。かっこええと思う。


トラックでも「タンクローリー」が好きや。

荷台が大きなタンクになっている。

中でもかっこええと思うのは「大型トレーラー」や。

短い大型トラックが、長い荷台を引っ張って走るのがかっこいい。

短い大型トラックが、長いタンクを引っ張って走ってるのがかっこいい。

父さんが運転する、大きくて長い大型トラックはかっこいい。・・・そのトラックの倍近くも長いトレーラーはメチャメチャかっこよかった。

特に、曲がるとき・・・・あとはバックで車庫入れをしていくとき・・・・


「トレーラーは、トラックの王様や」


父さんが言う。

父さんのトラックの隣に乗ってる時に、父さんがトレーラーの「どれだけ運転が大変か」を説明してくれた。


「大型トレーラー」に乗るためには、専用の免許が必要やった。


父さんは、まだ免許をもっていなくて・・・・

何回か試験場に一緒に連れて行ってもらったことがある。


まだ、合格はしてないけど・・・


「絶対合格したる!」


父さんが言ってた。




空はいい天気や。芝生の匂いがする。


「お弁当、食べようや」

ゴンが、バスケットを取り出した。

ゴンのお母さんが、お弁当を作ってくれていた。もちろん二人分。


ボクはおにぎりをパクついた。たまご焼き、ウインナ―・・・


「これ、うまいなぁ~」

と、ボクが食べていたのは、鳥の唐揚げや。・・・ホンマに旨いわ・・・


・・・・・??・・・・これって、これって・・・ひょっとして・・・ひょっとして・・・・


「・・・・これ・・・・あれか…?」


ゴンの顔を見て聞いた。

ゴンは気にする様子もない。それよりもフェリーから出てくる車に夢中や。唐揚げをパクつきながら、視線を外しもせず・・・


「そうや、チャボや、お父さんが、昨日シメてん!」


・・・やっぱりか・・・ゴンの家の鳥小屋・・・

ボクは誰やろうと思った・・・・エサ、水をやった時のチャボの姿・・・・太郎かな・・・?それともボクに懐いていた花子なんか・・・・・



・・・・そやけど、ホンマおいしいわ・・・




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