第6話 「トラック野郎独立」んで初恋。
父さんが大型トラックを買って独立した。
仕事は、これまでの会社から回してもらえるらしい。
目の前にピカピカの大型トラックがあった。
「これが、ウチのトラックや」
誇らしげに父さんが言う。
それまでも、父さんは、よく会社のトラックを乗って帰ってきた。
だから、ボクも、トラックの種類にどういうのがあるかを全部言えた。
しっかし・・・父さんのトラックはカッコよかった。
映画でも「トラック野郎」がやってて・・・・父さんに連れて行ってもらった大阪なんかだと派手な電飾をつけたトラックがいっぱい走ってた・・・・でも、この田舎じゃ、そんなトラックはいない。
父さんのトラックも派手な電飾がいっぱいついてるわけじゃない・・・・でも、父さんのトラックは、まだ、あんまり見たことのないステンレスのミラー素材が、荷台、ホイールに使われていて、ホントにカッコよかった。
新しいトラックに乗せてもらう。
・・・・新車の匂いがした。
ハンドルも、ギアも・・・みんなみんな新しい。
今までのトラックより外が良く見えた。
「これ何?」
ボクは、いろんなスイッチが気になって聞いた。
父さんが教えてくれた。
・・・・こうやって、父さんのトラックに乗ってるのが大好きやった。
父さんと車の話・・・・トラックの話をしてるのが大好きやった。
目の前を道路一杯で走ってるトラックに追いついた。・・・・後ろに大きく石油会社のマーク。大きなタンクを引っ張る「大型トレーラー」や。
運べるタンクの量が多い分、車幅も道路一杯や。
ボクが一番好きなトラックや。
信号で、広い道路の交差点に停まった。
「大型トレーラー」が、左に方向指示器を出していた。
・・・・ボクは、ドキドキした・・・・
ボクの大好きなシーンやったからや。
信号が青に変わった。
対向車線から車が来ないことを確認して、「大型トレーラー」が動き出す。右に車体が振られていく・・・・方向指示器は左なのにや。
前の、荷台を引っ張るトラック部分が対向車線に飛び出した、・・・・すぐに左に曲がっていく。・・・後ろの大きなタンクが引っ張られていく。
かっこいい!!
「大型トレーラー」は、車体が長い。学校のプールと同じくらいの長さや。
だから、「左」に曲がる時は、大曲りするために、一回「右」に頭のトラックを振ってから左に曲がっていく。
その姿を見るのが大好きやった。
メッチャかっこええ!!
父さんと一緒に見ていた。
いつか、父さんの運転する「大型トレーラー」に乗りたい。
「おう!」
父さんが笑って返事をした。
父さんは、いつもボクの寝てる間に帰ってきて、寝てる間に出発していた。
日曜も祝日もなかった。長距離運転手だったから、休みも、行きも帰りもバラバラやった。
父さんの仕事は順調のようやった。
父さんの休みには外食することが多くなってた。
・・・・・なんだか、料亭のようなところで、父さんは「鱧」をおいしそうに食べてた。
「徳島の夏」といえば阿波踊りや。
・・・そして「鱧」や。
晩酌に「鱧」を食うってのが一人前の男の証やった。
「鱧」といえば京都が有名やけど、実は徳島県は「鱧」の名産地や。
・・・それを「料亭」で食べるってことは・・・・商売が上手くいってる証拠なんやろう。
宝飾店で、父さんがスイス製の高級時計・・・・「RADO」の腕時計を買っていた。母さんはプラチナの太い指輪を買ってもらっていた。
・・・・・それをはめた手で叩かれるとメッチャ痛いんやけどな・・・・笑。
母さんは生地を買い込んで弟の服を作っていた。弟の洋服は全て母さんの手作りやった。
クーラーが近所で一番にやってきた。
「いつかはクラウン」
テレビのCMが謳っていた。
我が家の自家用車はスカイラインからクラウン・・・・やなくて、セドリックへと出世していた。・・・父さんは日産派やったからな。
ボクも、クラウンよりセドリックのほうが好きやった。・・・日産の方が好きやった。
全体的に日産のほうがかっこいい。
同じ高級車でも・・・・トヨタのクラウンは「普通の車」って感じやけど、日産のセドリックは「速そう」って感じがする。・・・・アメリカ車みたいな雰囲気がある。
父さんのセドリックは、ピカピカのホイールに太いタイヤを履かせていて・・・・メッチャかっこよかった。
他の家の小さな車と違って、大きなセドリックは、子供たちみんなの憧れやった。
みんなが羨ましそうに見てるのは、ボクも嬉しかった。
トラックは気がつけば3台になっていた。・・・2kmほど離れたところに古い小さな家があって、そこを事務所としていた。・・・今にも崩れそうな・・・ホントにホントに古い家やったけど、会社の事務所にするには十分だ。
トラックもそこに駐車されてる。・・・・3台止めるのはギリギリ、それでも、ほとんど3台が一緒に止まってることはないから大丈夫や。
運転手も・・・助手も入れれば5、6人はいた。
いっぱしの運送会社になっていた。
ボクは、トラックが見たくて・・・少しでも早く父さんに会いたくて・・・セドリックを見たくて、よく友達を連れて遊びに行った。
若い運転手、助手・・・・お兄さんたちがキャッチボールをして遊んでくれた。
ボクは「ボン」と呼ばれていた。
西の方では御曹司のことを「ボン」と呼ぶ。・・・・「若ボン」とか・・・・出来の悪いのは「アホボン」笑。
・・・・でも・・・父さんが近所から「ボン」と呼ばれるのを見たことがある。
叔母・・・・父さんの妹が「お嬢」と呼ばれているのを見たこともある・・・・
小学校5年生になって、茜と同じクラスになった。
スラリとした長身。新興住宅地・・・「町」に住む彼女は、その育ちの良さが滲み出ていた。
毎日、ほこりまみれで遊んでいる「村」のボクには眩しい存在や。
ボクの住んでる村は古くからの住民の住んでいるところ・・・・彼女が住んでいるのは、戦後に開発された新興住宅地や。
こじんまりとした洒落た住宅が並ぶ。
・・・その「町」とボクたちの「村」とでは、なんだか、人種が違うってくらいの違いがあった。・・・・住宅・・・着ている洋服・・・・・「町」は、新しく入ってきた本州からの会社のサラリーマン家庭が多かった。
クラスで同じ班になり、帰る方向も同じ・・・・急速に喋る時間が増えていった。
茜は何かとボクの世話をやいた。まるで、姉が弟に接するようなその優しさに、ボクは当たり前のように茜が好きになっていた。
「初恋」やった。
ボクの住んでいた村では、下は幼稚園から、上は6年生まで、分け隔てなく平等に遊ぶという地域やった。そういった環境のせいで、ボクは「みんなで仲良く」という思いが強かった。・・・そして、そのためのルールも出来上がっていた。
・・・それでも喧嘩というのは起こる、まぁ、それは子供にとっては必要なんやけどな。
でも「喧嘩」となった時は、まわりの人間が・・・どこまでやらせるのか、どこで仲裁するべきなのかといったことを考えるのが大事や。
ボクは住んでいた環境から、そういったバランス感覚のようなものを自然と身に付けていった。
そんなことから、学校でも、自然と調整役のようになっていた。
・・・・正直に言えば、ボクがクラスの中心やった。
幼稚園から小学校・・・・1年生、2年生・・・・そして5年生・・・・ずーーーっとボクはクラスの中心やった。
クラスの中心っていっても、何をするってわけやない。クラス委員をするとか、そんなんやなくて・・・みんなの意見が集まってくるっていうのか・・・・「こんど3組が試合をしたいって言ってる」・・・野球やな。
「お誕生会やるから来てほしいんや」・・・・女の子から頼まれたり・・・・これは何君と何君をつれてきてほしいってお願いや。
・・・・だから、クラスの中心ってか「調整役」なんだよな。
本当のクラスのリーダーは、同じクラスの従弟の「ゴン」・・・権之助みたいなやつや。・・・・勉強ができて、しっかりみんなの役割分担を決めていく・・・・このクラスはゴンが委員長をやってる。
ボクが最も嫌やったんは「虐め」やった。だから、クラスにそんなことが起ころうものなら、絶対に許せなかった。
・・・小学校3年生の時、女の子が虐められているのに気づいた。・・・・みんなからじゃなかったけど、ひとつの女の子グループから虐められていた。
虐められてる女の子から聞いてみると、1年生の時から、そんな状態やったらしい。
・・・・許せなかった。
すぐに担任の先生に言って「クラス会」を開いてもらった。
みんなで話し合って解決するべきやって思った。
・・・・なんで、そんな虐めるんやろう。
やっぱり虐められる子は弱い子が多い。
身体が小さかったり、弱かったりとか・・・
虐める方は、自分が虐められたら、どんなふうに思うのか考えないのか・・・・
千代紙を持ってこないと遊んでやらないとか・・・・・一緒に遊んで、ひとりだけ仲間外れにするとか・・・・帰る時にランドセルを持たせるとか・・・・
弱い子や・・・・まして、ひとりを数人で虐めるは許せなかった。
虐めを止めさせるのは当たり前や。
大事なんは、止めさせることと、二度としないって約束させることや。
そうやないと、隠れてまたする。
そして、これまでのことを謝らせるべきや。
ボクが議長になってクラスで話し合った。
最後は虐めてた女の子グループが自分たちの非を認めて、グループ全員で本人に謝らせることで終わった。
良かったと思った。
茜はクラスの女の子の中心的存在やった。・・・・いや、正確には「町の女の子」の中心か。
人数的には「村の女の子」の方が多い。
クラスでは「町」と「村」でグループに分かれていて・・・・男子も、女子も、人数だったら「村」グループの方が多い。
でも、勉強ができて、見るからに優等生って感じの茜が、クラスの女の子の中心やった。
茜と、クラスのリーダー的存在やったボクは、よく先生からクラスの用事を頼まれた。
茜は大柄で、着てる洋服もオシャレで・・・・ボクの村には絶対に存在しない、オシャレな白い一戸建てに住んでいた。
明らかにボクとは育ちが違っていた。
ボクはドキドキするほど茜のことが好きになっていた。
二人きりになることも多くなって、そんなときに「好きだ」の一言をいいたいと思った。・・・だけど言えない。そんな思いを6年生の先輩に話した。
3人の先輩は「よし!」とカッコをつけて、英語を散りばめたラブレターを書いてくれた。
・・・・もちろん結局、出せない・・・・そして、想いはよけいに募っていった・・・
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