第21話 破壊-(21)

(悪いのは――誰だ?)

 

 直接的に悪いのは八雲であり、滋道だ。

 だが、白蓮の言葉を不意に思い出し、ユキムラの心中は複雑になった。


 ――悲しいことが起こった時、そしてそれがしばらく続くのだと悟った時ね。悲しいとかそれ以上に、私はその後ろに何か巨大なものを感じるの。

 

 巨大なもの。たしかに、そのようなものを感じる。

 彼らは己の愉悦に従っているだけ。今ここで自分が逆らったところで、耐え抜いたところで、「愉悦」という根本が除かれるわけではない。いつかまたどこかで、同じような目に遭う人間が出てしまうだろう。それは人間という生き物に根差す残酷性であり、ひいては世界の残酷性だ。


(くそッ……)

 

 地面に伏し、虚ろな瞳で八雲を見上げる。

 ユキムラは漠然とした無力感に苛まれながら、その口元から血痰を吐き出した。


「ふう。こんなもんでいいかな」


 殴る方も殴る方で相当体力を使ったのだろう。

 八雲は額の汗を拭い、へらへらと嗤う。


「ユキムラッ‼」


 取り巻きを振り切って、駆け寄ってくる白蓮。

 その表情には、焦りと贖罪の意が滲んでいた。


「だ、大丈夫?」

「ああ……なんとかな」

「ごめん……ごめんね……」

「白蓮が謝ることじゃない。それに、大丈夫だ。これくらい……」

 

 よろめきながら、ユキムラは立ち上がる。顔も、腹も、足も痛い。まるで鉛を詰められたように重く、鈍い痛みだ。傷はしばらく痕になってしまうだろう。母にどう説明したものか。

 

 白蓮はユキムラがとりあえず大事には至っていないことを認めると、今度はぎっと八雲を怒りを込めてねめつけた。


「八雲ッ! どうしてこんなことを! ふざけないで!」

「ふざけてなんかいないさ。これは俺なりの優しさだよ」

「はあ?」

「白蓮さん。そんな弱っちい奴とじゃなくて、俺たちと遊ぼう」

 

 白髪の美少女はそれを聞いて、眉間に深い皺を寄せた。


「誰があんたなんかとッ……!」

「へえ。いいんだ、断って。まあ、俺はどうでもいいけどね。ただ、そいつの家族がどうなるかな」


 白蓮はたじろぐ。

 八雲の言葉の意味を悟ったのだろう。このまま自分が断ったら、ユキムラの家族の村での立場が無くなる。それをすることができるだけの権限が、八雲の父にはある。怒りに震え、少女は拳を握り締めた。

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