第19話 破壊-(19)
滋道に逆らって八雲と白蓮を引き離したら、間違いなくこの村にはいられなくなるだろう。
ここは母と自分の唯一の故郷で、じきに弟妹も生まれる。それなのに、私情で立場を悪くするわけにはいかない。
(なんだってんだ……ちくしょう)
叫びたい気分だった。
走り回り、無茶苦茶にそこらのものを破壊したい。だが、それを裏に隠してしまうくらいには、ユキムラに分別はあった。どうしようもない無力感に苛まれ、白蓮に対する自身の気持ちをひたすらに誤魔化し続ける。そうしなければ、わんわんと泣き出してしまいそうだった。
沈み切った気分で歩いていると、目の前に八雲とその取り巻きが喋っているのが目に入った。向こうもこちらに気付いたらしい。にやにやと気味の悪い笑みを顔面に張り付けながら近づいてくる。素通りしようとすると、肩をぶつけられた。
「よお」
「なんだ、八雲」
「そんなに怒るなって。話しにくいだろうが……よッ‼」
口の端に浮かべた嘲笑を崩さずに、八雲はユキムラを殴りつけた。
不意打ちだったので、避けられずに頬に拳が直撃する。辛うじて体勢を保ったが、一瞬意識が飛びかけた。
「ユキムラ‼」
「おっと。白蓮さんは安全なところにね」
駆け寄ろうとした白蓮を取り巻きの二人が制止する。
ここでユキムラは相手の考えを概ね察知した。すなわち、喧嘩をするつもりだ、と。
「てめえ……。やりやがったな……」
お供え物が入った包みを地面に置き、ぎっと八雲を睨みつける。
「ひひ。相変わらず怖いなあ。でも、俺に手は出せまい」
「……ちッ」
図星だった。
滋道を父に持つ手前、八雲を殴ったらどうなるか分かったものじゃない。どこまでも癪に障る親子だ。ユキムラは怒りに震え、歯をがちがちと鳴らす。
「殴ってきてもいいぜ?」
「……は?」
「但し」
刹那、八雲は距離を詰め、耳打ちをしてきた。
「わざと俺に敗けろ」
「……意味分かんねえんだけど」
「つまり、攻撃を全部外せ。そして俺の攻撃を全部受けろ」
紛れもない八百長。此奴はまともに戦うことすらできないのかと内心軽蔑しながら、この条件を呑む謂れが一体自分のどこにあるのだろうと疑問に思う。
「そんな条件、呑むわけねえだろ」
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