第18話 破壊-(18)

 それからというもの、ユキムラの頭の片隅につねに白蓮と八雲の結婚があった。

 草刈りをしている時も、虫捕りをしている時も、忘れようとしても忘れることが出来ない。それどころか、忘れようとする度に深く胸の奥を抉られているような感覚を覚えた。

 己の意志の声。それと婚姻の話がどう繋がるのか、明確に言語化することができずにいる。正確には、何かが気づくのを拒んでしまっているような気がした。だが、探り出そうとする途中でいつも集中力が切れてしまい、うまくいかない。

 

 そんなことを繰り返し考えながら過ごしていると、再び『お供え』の番がやってきたのだった。


「白蓮、なんでついてくるんだ」

「別にいいじゃん」

「よくねえだろ。お前は……いや、なんでもない」

 

 澄み渡る青空の下、畦道を二人で歩きながら、ユキムラはぼやいた。

 いまだ結婚は確定してない。十中八九既定路線ではあるだろうが、それを理由に白蓮を遠のけるのは躊躇われた。白蓮もユキムラの気持ちを汲み取ったのか、何も言い出せず、神妙な面持ちで俯く。


「ユキムラは……私のこと、嫌い?」

「いや」

「じゃあ、なんで……ごめん」

 

 感情的になりかけた白蓮は、言葉を飲み込んだ。

 気まずい沈黙が流れる。ユキムラは白蓮の質問を反芻し、自身の根幹を揺るがされるような気分に見舞われた。白蓮が好きか嫌いかと言われたら、嫌いではない。ただそれだけだ。物心ついたころから気づけば側にいて、当たり前の存在。いわば兄妹みたいなものだ。それなのに、どうしてわざわざ確かめたがるのか。


「……? どうした?」


 黙々と歩いていると、突如白蓮が足を止め、後ろを振り返る。


「……誰かが見ているような」


 そう言われ、ユキムラは後方を確認した。だが、


「誰もいないぞ?」

「そう……だね」

 

 ユキムラに「可笑しな奴だなあ」と茶化す元気は無かった。

 異変が無いのであれば、早く歩を進めたい。白蓮とこれ以上重い空気を共有するのは、思い出が薄汚れてしまうような気がして、避けたかった。

 

 早足でひたすら前へ進む。全ての柵から逃げるように。

 思わず白蓮を置き去りにしてしまい、軽く謝罪した。どうしてこれほど苛ついているのか、自分でもよく分からない。

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