第62話 楽しみはもう少し後で

「……はぁ」

「ナツメ、ため息つく暇ないよ。急いで片付けなきゃ」

 サクラの家で大掃除をしているナツメとユリ。やる気のないナツメの大きなため息が、リビングに響いて、ユリが注意をしても、ナツメの動きは鈍い

「んー。分かってるけどさぁ……。ここに気に入ってたのになぁ……」

「仕方ないよ。アルノさんが戻ってこいっていうんだもん」

 二人が話をしていると、お風呂掃除が終わったツバキもリビングに入ってきた。散らかっているリビングの中を掻き分けて、ソファーに座って、ふぅ。と一息ついて、飲み物を飲みはじめた。それを見たナツメもツバキの隣に座って一緒に飲み物を飲みはじめ、三人休憩がてらの会話がはじまった


「みなさん、休憩をされていますが、片付けは進んでるのですか?」

 楽しく会話が進んでいた途中、突然聞こえてきた声に、一瞬で楽しい雰囲気から緊迫した表情に変わっていくナツメ達。恐る恐る声のする方に振り向くと、家政婦達がまだ散らかっているリビングを見て呆れた様子でため息をついていた

「は、はい。一応……」

 苦笑いで答えるナツメ。だが、その答えを聞いて家政婦達の表情が余計に険しくなっていく

「……少しも進んでいないようですが」

 と言うと、側にある荷物を運びはじめた家政婦達。それを見てナツメとユリが慌てて掃除を再開しはじめた。玄関に荷物を運ぶ家政婦達をツバキが慌てて追いかけていった

「あの、サクラはどうしていますか?」

 不安そうな表情で家政婦達に問いかけるツバキにその不安を拭うように、家政婦達がクスッと笑って質問に答えた

「サクラ様は今……」






「はい。どうぞ」

 コンコンと部屋の扉の叩く音にアルノが返事をした。カチャと音を鳴らして、扉が開くと少し疲れているのか、ちょっとだけうつ向いているサクラが部屋に入ってきた

「あらサクラ。お菓子作りはどうしたの?」

「今、生地を焼いてて、少し時間が出来たから……」

「そう。サクラのお菓子は久し振りだから、楽しみね」

 機嫌よく椅子に座りなおすアルノ。その様子を少しうつ向いて見ていたサクラが、部屋の中をキョロキョロと見渡しはじめた。アルノの周りにはたくさんの本棚が並ぶ。だが、その本棚には、たくさんあったはずの本は一冊も無く、ほんの前とは違う殺風景な部屋に変わってる

「本は……」

「ミツバちゃんが来るまで秘密」

 クスッと笑ってサクラの話に誤魔化していると、アルノがクンクンと鼻を動かした

「あら、美味しそうな匂いしてきたわね」

「……もう出来たのかな」

 慌てて部屋を出てキッチンへ走っていくサクラ。後ろ姿をニコニコと笑って見ているアルノ。パタンと部屋の扉が閉じると、扉偽を向けると、ふぅ。と一つため息をついた。すると、アルノの前に一冊の本が現れた。その本をそっと手に取ると、次々とアルノの周りに新たな本が現れると、アルノを包み込むように、ゆっくりと周りを動きはじめた





「よし出来た……」

 アルノの動きに気づいていないサクラは、オーブンからお菓子を取り出して、美味しそうに焼き上がったお菓子を見て、ホッと胸を撫で下ろしお皿に盛り付けていた。作りすぎたお菓子を食堂までどう運ぼうか悩んでいると、キッチンの側の廊下をパタパタと足音が聞こえてきた

「サクラ。お菓子どう?出来た?」

 声が聞こえて振り向くと、美味しそうな匂いに誘われてキッチンに来たツバキとユリが機嫌良さげにサクラに声をかけた

「ちょうど今出来たよ」

 と、サクラが答えるとたくさんの美味しそうなお菓子がテーブルに並んでいる光景を見て、ユリとツバキのテンションが上がっていく

「出来立て食べる!」

 つまみ食いをしようと、今出来たばかりのお菓子にツバキが手を伸ばす

「ダメだよ。出来立てが美味しいけど、我慢してね」

 慌ててお皿を取り上げて、つまみ食いを阻止したサクラ。食べられずツバキが少しふてくされていると、パタパタとまたキッチンに来る足音が聞こえてきた


「……サクラ、ミツバは?」

 キッチンに来るなりナツメがサクラに問いかけた。だが、サクラはただ微笑むだけで何も答えずに、お菓子を盛り付けはじめた。明るかったキッチンが急に静かになって、ツバキとユリが目を合わせ困っていると、サクラが三人にお菓子を盛り付けたお皿を渡しはじめた

「……食堂に持っていこう。お母さんも食べるのを楽しみに待っているから……」

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