第60話 似ている二人だから
ミツバをつかむ家政婦の手を払おうと、側に浮かぶ本を一冊取り、読みはじめたサクラ。すると、家政婦とミツバに強い風が吹いて、一瞬ミツバのつかんでいた手が緩んだ。その瞬間に手を振り払い離れたミツバ。サクラの周りに浮かぶ本から一冊取ると同時に、ミツバの周りにはたくさんの水が溢れ、家政婦に向かっていく。水の勢いに押されていると、また一人、ミツバの側に家政婦が来てミツバの腕をつかみ、本を取ってしまった
「相変わらず強いねぇ……」
「そうだね……」
サクラとミツバ、家政婦達の動きに、あっけにとられて見ているナツメ。背中に隠れていたユリとツバキが、ナツメの話に頷き返事をして動けずにいた
「あーあ。本、持っていかれちゃった……」
しょんぼりとミツバが呟いていると、サクラがミツバの側に来て、クスッと笑う。本を持っていかれたが、ミツバが本を使う姿を見て嬉しそうな様子
「サクラ、まだ私が使えそうな本ある?」
「うーん……一応、ナツメちゃんの本が使えそうだよ」
と、ふわふわ浮かぶ本から一冊、ミツバの元にゆっくりと飛んでいく。うっすらと消えかけているその本をナツメが奪い取ろうと手を伸ばした
「あの本は……私の……」
伸ばした手は本には届かず、ナツメの本はミツバの元にゆっくりと舞い降りた
「大分消えてるね。でも、生き残っただけでも……」
「ちょっと!私の本をどうするの?」
「どうするって……元々は私の家にあった本だもん。別にいいじゃん」
「全然よくない……」
ナツメの叫び声に、プイッと顔を背けて言い返すサクラ。そのサクラの様子にナツメが苛ついた顔でサクラとミツバを睨んでいる
「そうよ。サクラ、三人の本を使っちゃダメよ」
緊迫した様子のナツメ達とは違い、明るい声で話しかけたアルノ。その声を聞いてサクラとミツバもアルノの方に振り向いた
「使うなら、この本にしなさい」
と、全員がアルノに目を向けると、アルノの周りにたくさんの本が現れた。サクラの周り浮かぶ本よりも遥かに多いその量に、あっけにとられるサクラ達
「すごいたくさんの本……」
「これ、家にあるお母さんの本じゃ……」
「そうよ。本を使って何かをしたいなら、この本達を使いなさい」
と、アルノが言うと、ふわりふわりと数冊の本達が、サクラの元へと飛んでいく
「でも……急になんで」
「そうね……なんと言ったらいいかしら」
戸惑うサクラの言葉に、クスッと微笑み側にいる家政婦達に話しかけたアルノ。家政婦達も、アルノを見てクスッと微笑む
「そうですね、サクラ様は本当にアルノ様に似ておられますからね」
「あら、そうかしら?」
と、楽しそうに話している姿に戸惑いが増えてくサクラ。ミツバと目を合わせ首をかしげている
「お母さん……あの……」
恐る恐るアルノに声をかけたサクラ。声に気づいたアルノがサクラではなく、ミツバの方を見てニコッと微笑んだ
「ねぇ、ミツバちゃん」
「は、はいっ!」
「私も一緒に手伝うわ。それでもいい?」
「えっ、でも私達は……」
「もちろん知ってるわ。だからこそ手伝うと言っているの」
突然のアルノからの提案に、ミツバが更に戸惑いはじめていると、止めると思っていたナツメとユリ、ツバキもあたふたと三人で、うろたえはじめている
「サクラ……」
ミツバがサクラを呼ぶと、ふぅ。と一度深呼吸をして、ミツバにゆっくりと頷いた
「……もう一度だけ、叶えてみよう。一緒にまた笑えるように」
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