第59話 想いを止める人達

「ミツバちゃん、思い出したの?」

 名前を呼ばれて嬉しそうなサクラ。ミツバに手を伸ばし抱きしめるふりをした。ミツバかサクラの行動にクスッと微笑んだ

「少しね。サクラとここに来たことは思い出したよ。ゴメンね。約束守れなくて……」

「ううん、私の力が足りなかったから、ミツバちゃんが……」

「……ミツバ」

 話をしていた二人に恐る恐る声をかけたナツメ。名前を呼ばれたミツバが、ナツメ達にニコッと微笑む

「ナツメ……ユリとツバキも、久し振りっていうのかな」

 そう言うミツバに何も言い返せず、三人顔を見合わせている。ユリとツバキが何か言おうとしても言い返せず、ただ戸惑うばかり。すると、三人が話しかけない様子を見たアルノが、ミツバにニコッと微笑んで声をかけた


「ミツバちゃん、久し振りね。元気そうで何よりだわ」

 嬉しそうに話しかけるアルノ。その笑顔を見て、ミツバの顔がちょっと強張る

「アルノさん……。ごめんなさい。勝手に本を持っていって……」

「そうね。それは後でサクラと一緒に、いっぱい怒らなくちゃね」

 アルノの言葉に、サクラも少し顔を強ばりミツバとまた顔を見合わせた。すると、ミツバが手に持つ本に気づいたサクラが驚いた顔をすると、またすぐに笑顔になった


「それ、ミツバちゃんの本……」

「うんそう。さっき本のことも思い出したから」

 本の表紙をサクラに見せると、見慣れたミツバの本を見てホッとしたような表情になった

「綺麗な、とても素敵な本……今度はきっと……」

 そう言ってミツバの本に手を伸ばす。ミツバもサクラに本を渡そうと差し出した時、アルノが一歩足を前に出した


「待ちなさい。二人とも」

 アルノの言葉に、一瞬体を強ばらせたサクラとミツバ。恐る恐る一緒にアルノを見ると、強い口調とは違いニコニコと笑っている。ミツバが本を持っているを見つけ、ミツバに手を向けた。すると、ミツバが大事そうに抱えていた本がふわりとひとりでに浮かび、アルノの方へと飛んでいった

「ミツバちゃんの本は返してもらうわ」

「……なんで」

「私の許可なく本を使い無くしたんだもの。また本を減らされたら困るわ」

 ミツバの本をめくり中身を確認しながら、サクラに答えていると、アルノが本を読む姿を見ているナツメ達三人に気づいて、ふぅ。とため息ついた

「ナツメちゃん達の本も勝手に持っていって……」

 急に名前を呼ばれて、一瞬体をビクッとさせたナツメ。その背中に隠れたユリとツバキを見て、アルノがフフッと微笑む


「サクラ……」

 本をアルノに取られたミツバが困ったようにサクラを呼ぶ。側に浮かんでいた本が一冊ミツバの方に、ふわふわと飛んでいく。手元に来た本を、ぎゅっと抱きしめた

「大丈夫。この本でも、私はサクラのために……」

 そう呟きサクラを見て頷いたミツバ。不穏な雰囲気に、ナツメ達が少し不安そうに二人を見ていると、ミツバの後ろから、ガサガサと草むらを歩く音が聞こえて、ミツバが振り返ろうとした瞬間、本を持っていた手をガシッと強く誰かにつかまれた

「一度ならず二度までも、いくらミツバ様とはいえ、サクラ様を傷つけることは許されません」

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