第55話 今度はきっと大丈夫

「夢だったらって……じゃあ本当にここに」

「そうだよ。ほんの少し前なのに、とても昔に感じるね」

 話を聞いて驚くミツバに微笑み頷くサクラ。ミツバの前まで来ると、ミツバの顔を見つめてニコッと笑った

「でも、どうしてここに……」

「私とミツバちゃんの願いを叶えるためだよ」

 サクラの言葉に、ミツバが不思議そうに首をかしげた

「……覚えてないよね」

 と、悲しげな声で聞くサクラ。それに答えるように、ミツバがゆっくりと顔を横に振ると、サクラの顔が悲しい表情になっていく

「覚えてないけど、でもここで……」

「そう、願いが叶ったんだよ。一応ね」

 くるっと回りミツバに背を向け歩きだしたサクラ。ミツバから少し離れて足を止めると、ふぅ。と深呼吸した

「願いを叶えるって、とても大変だったんだよ。ミツバちゃんはいつも、一人で動き回ってて。私、叶うなんて無理だと思ってたんだけど……」

 と話ながらミツバの方に振り向くサクラ。微笑んでいるサクラとは対照的に、ミツバの表情は少しずつ曇っていく

「サクラさんの願い叶ったの?」

「うん、ほんの少しだけね」

 と、ミツバに答えるとうつ向いてしまい、サクラの表情が暗闇で見えなくなった。そんなサクラの姿を見て、声がかけられないミツバとサクラの間に沈黙が流れていく

「……けど、願いが叶った分、とても後悔しちゃった」

 うつ向いていた顔を上げて、微笑み話しながら、少しずつミツバに近づいていくサクラ。ミツバもサクラの雰囲気に押され、少しずつ後退りしていく


「ミツバちゃんが隣にいなくなるんだもん。でも、仕方ないよね」

 ミツバにまたニコッと微笑むと、サクラの周りに本が現れた。一冊だけでなく、たくさんの本がサクラを囲うようにふわりと舞う

「……本。それに」

 その光景を見たミツバが、驚いて呆然としているとサクラが周りに浮かぶ本から一冊取り、ページをめくりはじめた

「ミツバちゃん。もう一度、二人の願い叶えてみよう。今度はきっと大丈夫だよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る