第56話 光と共に溢れる想い
「でも、私は願いを覚えてないのに、今から叶えるなんて出来ないよ」
「大丈夫。私の動きを見ててくれればいいから……」
ニコニコと微笑むサクラに、また少しずつ後退りしてくミツバ。離れているのに気づいていてもサクラは後を追わずただ微笑んでいる
「ただちょっと、怖くて嫌かもしれないけれど、ミツバちゃんなら大丈夫だからね」
と言うとミツバに背を向けて、少しうつ向いたサクラ。急に動かず喋らなくなったサクラを心配して、恐る恐るサクラの方に歩きだしたミツバ。声をかけようとした瞬間、サクラが突然、微笑み振り向いた
「私、本を書くの嫌いだったの」
再び話はじめたサクラ。近づいていた足を止め、戸惑うミツバ
「お母さんは、本を書けってうるさいし、ナツメちゃん達はお母さんの為にってうるさいし、みんな、本のためって毎日あっちこっち忙しそうに動いていたから」
と話ながら、本をぎゅっと抱きしめ空を見上げた
「ミツバちゃんだけは違った。本を書く私じゃなく、友達としていつも遊んでくれてた」
と、またミツバを見てニコニコと微笑むサクラに、ミツバは更に戸惑うばかり。ミツバの気持ちとは裏腹にサクラの話は続いていく
「本を書くって決めたのも私のため。生まれてからずっと本を書く運命から離れて、ずっと一緒に笑って遊べるようにって。……けど、願いは叶ってない。私の願いが叶っていない。だから……」
と言うと、サクラの周りに浮かんでいた本達が、慌ただしくバサバサと音をたててサクラの周りを動き回る。サクラが抱きしめていた本がサクラから離れて、周りに浮かぶ本の中に紛れていった。その様子を見ていたミツバ。不安そうにサクラの様子を見ていると、サクラがふわり浮かぶ本からまた一冊を取り、パラパラとページをめくりはじめた
「ナツメ、ツバキ!あれ、ほら!」
まだサクラとミツバを探していたナツメ達。暗い景色の中に、突然ポツンと現れた光にユリが気づいて指差した
「なにあの光……」
ナツメとツバキも光に気づいて驚いていると、その光がどんどんと大きくなっていく
「サクラ達かも……急いで行こう!」
「ツバキ。ほら早く!」
先に光に向かっていったナツメ。ユリもツバキと手を繋いでナツメの後を追っていく
「サクラさん……これって……」
月を背にしたサクラの姿に驚くミツバ。その表情を見たサクラがクスッと微笑んだ
「思い出した?この光景は二回目だね」
と言うと少し振り向いて月を見たサクラ。ミツバもサクラにつられて同じく月を見た
「今日も、月が綺麗だね。ミツバちゃん」
「サクラさん……私……」
とサクラが話しかけると、後退りしていたミツバが、ポツリと呟きながらペタンと地面に座りうつ向いた。怯え震えるミツバに心配する様子もなく、サクラはただ微笑んでいる
「大丈夫。今度は必ず叶えてみせるから、少しだけ我慢してね」
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